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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
三章 【盾と大会】
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十九話 魔法都市マキア

 ――フードを深々と被り、街中を闊歩している少女がいた。

 他人を寄せつけない不気味な空気感、すれ違った人は皆少女を一瞥する。

 少女が向かう先、そこにあるのは大きな建物だ。少女は吸い込まれるようにしてその建物の中へ入って行く。

 

 建物内は以外にも明るく、賑やかである。そして建物内にいる人間の大半は剣士や魔法使いで、中でも恐ろしく屈強な男、逆にひ弱な見た目もいればかなりの老人もいる。

 少女は気にせず奥へと進む。少しばかり足早だ。

 一度立ち止まり、首を左右に動かした。そして再び歩を進めると、受付窓口まで足を運んだ。


「大会の申し込みを……」


「かしこまりました! ではこちらにお名前と性別のご記入をお願い致します」


「はい」


 少女は羽根ペンを受け取り、名前と性別を書き記した。


「ありがとうございます!」


 そう言って紙にハンコを押した。


「禁止事項につきましては、そちらの用紙に記載されておりますのでご確認ください」


 渡された紙を少女は上から下まで確認してから裏向ける。

 そこに書かれているのはトーナメント表だ。だが、人が集まっていないのか所々名前が書かれていない。


「聞いた事のない人ばかりですね……」


 つまらなそうに呟いたあと、少女は出口へと足を運んだ。




 ***




「この街入るだけなのにどれだけ待たされなきゃいけねえっての! アルク! 一緒にあの傭兵どもに文句言ってこようぜ」


「一人で言って来なよ」


「がっ! ま、まぁアルクが行かねぇってんなら俺も許すとするか……」


 威勢の良かった輝空は、アルクの言葉一つで鎮圧される始末だ。非常に醜い。

 ヴェルシア王国魔法都市マキア、やはり魔法都市と言われるだけあって魔法使いが多い。

 それに、ここマキアには世界でも有数しかない魔法大学がある。


「せっかくマキアに来たんだ。魔法大学ってのを一目見ておきたい」


「この辺りにはそれらしき建物はなさそう……もう少し離れた場所にでもあるのかな」


「そう焦らなくとも、時間はいくらでもあるんだ。ついでに仲間もこの街で増やしたいところだが……」


 輝空とアルク、そのどちらも近接型で、チームのバランスとしては良いとは言えない状況だ。

 魔法使い、欲を言えば歳の近い魔法使いがベスト。しかし、そう上手くもいかないのが現実だ。

 輝空は特に目的もなく、ただひたすらに真っ直ぐ道なりに進む。

 アルクは落ち着きがなく、時々すれ違う人を目で追ったりと何かと挙動不審だ。


「敵でも見つけたのか?」


 輝空は気になって質問をした。


「いいや別に。ただちょっと……不自然なくらい人が多いからさ」


「やっぱ多すぎるよなこれ。祭りでもやってんのか」


 奥へと進むにつれ、人の数が増えていく。

 二人がこの街に赴く前から、その片鱗は見せていた。普段なら人っ子一人も居ないような場所であるにもかかわらず、ポツポツと人の影があった。


「この辺の人達にでも聞くか」


 輝空は歳の近い男女二人組に声をかけた。


「すいません、ちょっとだけ聞きたいことあるんすけど」


「ん? あぁ、俺らで良ければ好きに聞いてくれ」


「あざっす! それで聞きたいことってのは……」


「この異常なほどの人の数について聞きたい」


 半ば強引に輝空の言葉を遮ったアルクに、輝空は目を細めて睨む。

 男女二人組は苦笑いをしながら、一人の男がアルクの質問に答えた。


「今ここでは、大きな大会があってな。マキア杯って言うんだけど、魔法使い達が争い合うんだ」


「それって、魔法使いしか出れないのか?」


 男は首を横に振る。


「もちろん剣士だろうが何だろうが出られる。もしや……出るつもりか?」


 アルクは言葉に詰まり、輝空を向いて何かを目で訴える。

 何を訴えているのか輝空には分かる。そして、まためんどくさいことに巻き込まれる予感がしてならない。

 輝空はため息混じりアルクに告げる。


「出る出ないはお前の自由だけど、くれぐれも無理のないように」


 アルクは満面の笑みを浮かべ、大きく首を縦に振った。


「あんた、生半可な気持ちで出るならやめておいた方がいい。痛い目を見ることになる」


「強い相手がいるなら尚更出たい。強いやつと戦って損はしないからな」


「そこまで言うなら好きにしたらいいが」


「いいじゃないの。私、この子いいと思うよ。賭ける価値がある」


 突然横の女が口を開く。


「もしこの子が優勝でもしてくれれば……」


「おい、冗談じゃないぞ。ぽっと出のやつに賭けるなんて」


「賭ける賭けないって、この大会は賭け事の類いなんですか?」


「あぁそうさ。優勝者を当てれば、そりゃもういい稼ぎになる」


「あ、そゆこと」


 輝空は納得して手をポンと叩く。

 人が多い理由にも納得が行く。それも大きな金が動くとなれば尚更だ。


「とにかく、教えてくれてありがとな。聞きたいことは聞けたから俺たちは行くよ」


「大会に出るんなら、名前だけでも教えて貰えないかしら?」


「アルク・ブリストンだ」


「いい名前ね」


 軽い会話を終えると、輝空とアルクは別れを告げ歩を進めた。

 上機嫌なアルクだが、輝空はそうでも無い。レベルの高い大会と聞いて、良い印象は持たないからだ。


 ――しばらくして、二人はあることに気がついた。


「そういえば、大会ってどうやって出るんだ?」


「……まじかよ」

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