十九話 魔法都市マキア
――フードを深々と被り、街中を闊歩している少女がいた。
他人を寄せつけない不気味な空気感、すれ違った人は皆少女を一瞥する。
少女が向かう先、そこにあるのは大きな建物だ。少女は吸い込まれるようにしてその建物の中へ入って行く。
建物内は以外にも明るく、賑やかである。そして建物内にいる人間の大半は剣士や魔法使いで、中でも恐ろしく屈強な男、逆にひ弱な見た目もいればかなりの老人もいる。
少女は気にせず奥へと進む。少しばかり足早だ。
一度立ち止まり、首を左右に動かした。そして再び歩を進めると、受付窓口まで足を運んだ。
「大会の申し込みを……」
「かしこまりました! ではこちらにお名前と性別のご記入をお願い致します」
「はい」
少女は羽根ペンを受け取り、名前と性別を書き記した。
「ありがとうございます!」
そう言って紙にハンコを押した。
「禁止事項につきましては、そちらの用紙に記載されておりますのでご確認ください」
渡された紙を少女は上から下まで確認してから裏向ける。
そこに書かれているのはトーナメント表だ。だが、人が集まっていないのか所々名前が書かれていない。
「聞いた事のない人ばかりですね……」
つまらなそうに呟いたあと、少女は出口へと足を運んだ。
***
「この街入るだけなのにどれだけ待たされなきゃいけねえっての! アルク! 一緒にあの傭兵どもに文句言ってこようぜ」
「一人で言って来なよ」
「がっ! ま、まぁアルクが行かねぇってんなら俺も許すとするか……」
威勢の良かった輝空は、アルクの言葉一つで鎮圧される始末だ。非常に醜い。
ヴェルシア王国魔法都市マキア、やはり魔法都市と言われるだけあって魔法使いが多い。
それに、ここマキアには世界でも有数しかない魔法大学がある。
「せっかくマキアに来たんだ。魔法大学ってのを一目見ておきたい」
「この辺りにはそれらしき建物はなさそう……もう少し離れた場所にでもあるのかな」
「そう焦らなくとも、時間はいくらでもあるんだ。ついでに仲間もこの街で増やしたいところだが……」
輝空とアルク、そのどちらも近接型で、チームのバランスとしては良いとは言えない状況だ。
魔法使い、欲を言えば歳の近い魔法使いがベスト。しかし、そう上手くもいかないのが現実だ。
輝空は特に目的もなく、ただひたすらに真っ直ぐ道なりに進む。
アルクは落ち着きがなく、時々すれ違う人を目で追ったりと何かと挙動不審だ。
「敵でも見つけたのか?」
輝空は気になって質問をした。
「いいや別に。ただちょっと……不自然なくらい人が多いからさ」
「やっぱ多すぎるよなこれ。祭りでもやってんのか」
奥へと進むにつれ、人の数が増えていく。
二人がこの街に赴く前から、その片鱗は見せていた。普段なら人っ子一人も居ないような場所であるにもかかわらず、ポツポツと人の影があった。
「この辺の人達にでも聞くか」
輝空は歳の近い男女二人組に声をかけた。
「すいません、ちょっとだけ聞きたいことあるんすけど」
「ん? あぁ、俺らで良ければ好きに聞いてくれ」
「あざっす! それで聞きたいことってのは……」
「この異常なほどの人の数について聞きたい」
半ば強引に輝空の言葉を遮ったアルクに、輝空は目を細めて睨む。
男女二人組は苦笑いをしながら、一人の男がアルクの質問に答えた。
「今ここでは、大きな大会があってな。マキア杯って言うんだけど、魔法使い達が争い合うんだ」
「それって、魔法使いしか出れないのか?」
男は首を横に振る。
「もちろん剣士だろうが何だろうが出られる。もしや……出るつもりか?」
アルクは言葉に詰まり、輝空を向いて何かを目で訴える。
何を訴えているのか輝空には分かる。そして、まためんどくさいことに巻き込まれる予感がしてならない。
輝空はため息混じりアルクに告げる。
「出る出ないはお前の自由だけど、くれぐれも無理のないように」
アルクは満面の笑みを浮かべ、大きく首を縦に振った。
「あんた、生半可な気持ちで出るならやめておいた方がいい。痛い目を見ることになる」
「強い相手がいるなら尚更出たい。強いやつと戦って損はしないからな」
「そこまで言うなら好きにしたらいいが」
「いいじゃないの。私、この子いいと思うよ。賭ける価値がある」
突然横の女が口を開く。
「もしこの子が優勝でもしてくれれば……」
「おい、冗談じゃないぞ。ぽっと出のやつに賭けるなんて」
「賭ける賭けないって、この大会は賭け事の類いなんですか?」
「あぁそうさ。優勝者を当てれば、そりゃもういい稼ぎになる」
「あ、そゆこと」
輝空は納得して手をポンと叩く。
人が多い理由にも納得が行く。それも大きな金が動くとなれば尚更だ。
「とにかく、教えてくれてありがとな。聞きたいことは聞けたから俺たちは行くよ」
「大会に出るんなら、名前だけでも教えて貰えないかしら?」
「アルク・ブリストンだ」
「いい名前ね」
軽い会話を終えると、輝空とアルクは別れを告げ歩を進めた。
上機嫌なアルクだが、輝空はそうでも無い。レベルの高い大会と聞いて、良い印象は持たないからだ。
――しばらくして、二人はあることに気がついた。
「そういえば、大会ってどうやって出るんだ?」
「……まじかよ」




