一話 異世界への扉
――状況が理解できない。
いつもとなんら変わりない朝。
朝食をとって、いつも通り学校に行こうと玄関へと向かった。
その時点で違和感はなかった。
ただドアを開けるといつもと景色が違う。
家を出れば、まずは道路が待ち構えていたというのに、今は舗装されていない道へと変貌し、あろうことか少年は今その舗装されていない道の中心に立たされている。
「朝だから頭回らねぇ……とりあえず日本では、無さそうだが」
少年はまだ、驚きより眠気が勝っている。
そんな少年の名前は辰谷輝空。今年で十八歳を迎える絶賛受験生ボーイである。
見た目は代わり映えのない普通の高校生だが、部活をしていることもあってか、それなりに筋肉質な体をしている。
趣味も、特にある訳では無い。強いて言えば、ラノベやらアニメやらの有名作品には手を出しているが、マイナーな作品はほとんど知らない。
何かとどっちつかずの優柔不断で、それが自分の悪い癖だと自覚もしている。
輝空は目を擦り、眠気を無理やり覚まそうと努力した。
霞んだ視界で周りを見渡すと、そこに佇んでいるの木々達だ。それも特大サイズで、日本では見かけることの無い木々ばかり。どちらかと言えばヨーロッパをイメージさせるものである。
「北欧とかその辺の国なのか……さすがに片言英語ならできるが、ノルウェー語とかになってくるとさすがにやばいぞ」
ノルウェーに限った話でなくとも、とにかく言語が通じないのはまずい。英語もトイレの場所を聞くくらいしか出来ない。
そんなことを考えながらも、輝空の足は勝手に動き出した。
周りを見渡しながら同時に人を探すが、一向に見つかる気配がない。
――林の中の一本道を抜けたところで、畑らしきものがちらほら出てきた。
米以外の何かを育てていることはわかるが、作物の知識はゼロに等しいのでこれが何なのかはさっぱりである。
そして相変わらず、人がいる気配はない。
近くに人がいることは判明したものの、家の一つも見つかりやしない。
――また、五分ほど歩き回りようやく村らしきものが姿を現した。
もちろん人もいる。特別賑わっている訳では無い村だ。
とにかく今は、ここがどこなのかそれだけが知りたい。
「通りかかった人に話しかけるか……ここは何語で話しかけるべきなんだ」
日本語は通じる気がしない。それでも、日本人だという証明はできる。
そう考えていた矢先に、輝空の耳に入る言語は外国語などではない、ただの『日本語』であった。
「嘘だろ、これ完全に日本語じゃねぇか」
明らか日本ではない国から慣れ親しんだ言語が使われている。
日本大好きの国なのか、それともただの夢なのか。
どちらにせよ、輝空にとって好都合であるのには間違いない。
そうして輝空は、自分の隣を横切った人に話しかけてみる。
「あのぉ、突然で申し訳ないんですが、ここってなんという村なんでしょうか」
「ここはリーデル村だが、それにしてもアンタ、変な格好だな」
「はい、まぁ、遠くから来ているものでして」
制服姿に鞄を背負った輝空は、紛れもなく場違いである。
それもそうだが、輝空にとって村人の容姿にも気になる点がいくつかある。
まず服装については、特に違和感を感じるようなものはない。至って普通である。
それ以外が明らかにおかしい。
おかしな点として、髪色だ。当然ながら、金髪は存在するが、それ以外にも青色、緑色、紫色など色とりどりである。
それに加えて、目の色も様々である。
輝空が話しかけているこの男性も、灰色の髪にオレンジ色の瞳をもつ男だ。
「それでもうひとつ、質問したいことがあるんですが……」
「俺でよければなんでも聞いてくれ」
輝空の聞きたいこと。
この村に来た時点で薄々感じていた違和感だ。
あまりに遅い文明開化。村とはいえ、スマホの一つや二つくらい持っていてもおかしくないのに、スマホどころか電子機器を見かけることがない。
西洋の地域でない何か。そんなの、輝空にとって一つしかなかった。
「この世界ってもしや、魔法や剣とかってあったりします?」
「もちろん。そんなこと、村のガキでも知ってんぞ」
「あぁ、やっぱり」
輝空はいつもと違う世界、胸の高鳴りを感じながら呟いた。
「異世界だ」