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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
二章 【星と家族】
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十三話 龍を狙う刺客

今日は九時頃、あともう一話投稿したいと思います。

 ――こいつはまじで強そうだ。


 ひしひしと感じる敵の強さ。

 ハーラルトと似通っていて、その邪悪さはまるで違う。

 必死に敵意を隠そうと取り繕っているが、それでも溢れ出している。


「お、お前は……」


「ようやく会えたネ、タツタニソラ」


「――!」


 知らないはずの名前を、なぜ知っているのか。

 言葉を失っていた。返す言葉も思い浮かばなかった。


「そんなに警戒する必要はないネ。君には僕と一緒に着いてきてもらいたいだけネ」


「ど、どうして俺の名を」


「それは教えられないネ」


 際立つ特徴的な語尾とは裏腹に、以外にも温厚で、言葉の通じないような相手では無い。

 しかし依然として不気味であることに変わりわなく、輝空を連れていくという目的がある以上、敵とみなす他ない。

 身震いする体を力づくで抑え込み、輝空は敵に問い質す。


「お前がどうして俺を連れていこうとしているのかは分かんねぇけど、俺は絶対にその誘いには乗らねぇ」


「乗らないのなら、武力を行使するしかない。君との戦闘はなるべく避けたいんだけどネ」


「お前なんぞ、素手で片付けてやるよ!」


 そう宣言すると、敵から鋭い眼光を向けられる。

 大口を叩いたところで、結果は目に見える。

 それでも、輝空には逃げる選択肢などありはしない。

 なんとしてでもここは、輝空自身で切り開かなければならないのだ。


「ソラ、あいつは俺がやるよ」


「何言ってんだアルク! お前がそこまでしなくていい!」


 黙り込んでいたアルクが、不意に口を開いた。

 真剣な表情を浮かべるアルクに反論するのは気が引ける。とは言っても、この戦いにアルクを巻き込むのは避けたい。


「元々、こいつらの目的は俺なんだ。お前にこれ以上迷惑をかけたくない」


「それでも、俺がやる! 大切な友達を失いたくないんだ」


「アルク……」


 決意の籠ったアルクの一言。輝空は言葉を呑む。

 アルクの顔を見れば言い返す気力も無くなった。何を言おうがアルクは止められない。

 敵に歩み寄るアルクの肩にそっと手を置いて、輝空が言葉を紡ぐ。


「俺のために無理はしないでくれ」


 アルクは首を縦に振った。

 その光景を目の前に敵は不快感を覚えたのか、短剣二本を手に持ちアルクを睨みつけている。


 しばらくの沈黙は自然と背筋を凍らせ、声を出すことすら躊躇うものであった。

 反目し合う両者はそれぞれ別の構えをすると、先に口を開いたのは敵だった。


「君では僕に勝てない。それは君自身理解しているはずネ」


「最初から分かってるよ。でも、ここで引くわけにはいかないんだ」


「物分りの悪い子ネ」


 諭すようにアルクに話をするも、それは儚くもあっさりと断っていた。

 短い会話を終え、両者がさらに殺気立つのは輝空でも理解できる。

 無音に近い状態が作り出されると、アルクは地面を強く蹴った。


「馬鹿ネ」


 敵は軽々とアルクの攻撃を短剣で受け止めた。

 アルクは一度後ろへ下がると、すかさず次の攻撃へ移る。

 今度は受け止めるのでなく、まるで蝶のような華麗な身のこなしでアルクの攻撃を難なく躱し、蜂のように確実に、そして鋭い一撃をアルクに与える。

 何とかかすり傷で済んだが、危うく致命傷になるような一撃であった。


「的確に急所を狙ってくるとは……それがお前のやり方か」


「なるべく苦しまずに確実に殺せるとしたらこれしかない。君も苦しみたくはないネ?」


 小柄である体型を活かし、相手の懐へ入り込む。当たれば致命傷に成りうる箇所を確実に仕留める。

 殺し方としては単純で無慈悲であるが、どんな強者であろうと通用する。

 現に今、アルクは敵の巧妙な剣技に翻弄されている。


 しばらく鍔迫り合いは続き、金属が衝突する際に出る甲高い音は鳴り響いたまま、終わることを知らない。

 輝空は黙ってその光景を見る他ない。助太刀しようにも、却って足手纏いになってしまう。

 輝空ができる最大限のことと言えば、傭兵を呼ぶことぐらいだろうか。

 この街にもいるというのは確認済みだ。後は傭兵団の屯所にこのことを報告する、僅かながらではあるが助力になればいい。


 そうとなれば、行動を移すのは今しかない。

 輝空は踵を返し、傭兵団の屯所へ向かうを足を運ばせた。


「ソラ! 動いちゃダメだ!」


「どうしてだよ! 傭兵でも呼ばねぇと、アルクが危ないだろうが!」


「傭兵は動いてくれない。それに、人が増えたところでこいつには勝てない!」


「そうは言ったって……」


 数が増えたとて、手も足も出ないまま終わることなど想像に容易い。

 やはりこの状況で被害を最小限に抑えるためには、アルク一人で足止めをするのが最優先なのだろう。


「よそ見は厳禁ネ」


 敵がそう言うとアルクの剣は、刃こぼれしていた場所から綺麗に折れた。

 ハーラルト曰く、その剣は業物であると伝えられていたが、敵にとってそんなことはどうでもよかったらしい。


 ――このままだとアルクが!


 冷や汗が滴り、さすがの輝空でも黙ってはいられなかった。

 気がつけば、足はアルクの方へと向かい走り出している。


「アルク今助け――」


「――」


「――?」


 足が止まる。

 見れば既にアルクは地面に這いつくばって倒れていたのだ。

 息を忘れ、ただその場で呆然と立ち尽くした。

 輝空が立ち上がってからの数秒の間で、決着はついていたのだ。


「アル、ク?」


「――」


 名前を呼んでも返事が返ってくることは無い。

 嫌な予感が脳裏に過ぎる。あわよくば、その嫌な予感は当たらないでほしいと、切に願う。


「心配しなくとも、殺してはいない。殺して君が暴走でもしたら、僕が困るネ」


 その言葉に、安堵した自分がいた。

 自分を庇って誰かが死ぬなんて、考えたくもない。


「クソっ、安心してられっかよ。ここからどうすれば……」


「簡単な話だよ。君が大人しく僕に着いてきてくれたらいいネ」


「それは出来ねぇって言ってんだろうが! アルクにも手を出しておいて、何を今更穏便に済まそうしてんだよ」


「先に手を出したのは僕じゃなくて、この子だ。僕は正当防衛に過ぎないネ」


「何が正当防衛だ! ふざけてんのかお前は! どう見ても過剰防衛だろうが! あぁ、もういいわ。お前と話しててもストレスが溜まる! アルクを助けて、お前もついでに倒してやるよ」


「いい意気込みネ」


 敵には常に余裕があった。

 うす気味の悪い笑みを浮かべながら、再び構える敵に輝空は狼狽えることは無かった。

 輝空は複雑な感情だ。無力な自分への怒り、アルクを気絶にまで追いやる敵への怒り。

 しかし今は、敵よりも自分に苛立ちを覚える。

 もっと早く助けていれば、もっと自分が強ければ、ただ見ているだけではなかったのに。

 思い返せばキリが無い。だが、そんなタラレバは意味を成さない。

 今は目の前にいる敵を倒して、鬱憤を晴らすしかない。


 雑念が輝空の行動を制御しようとする中、体は意外にも従順だ。

 指輪を外す準備は出来ている。後は覚悟のみ。

 輝空は深呼吸を数回、その度に心拍が上がる様子を感じ取れる。

 覚悟が決まり、輝空小声で「よし」と言い、不規則で柄の入った少し異彩な雰囲気を漂わせる指輪を少しずつ外した。


「フルーズ!」


 緊迫とした状況のなか、突如として聞いたことのある声が輝空の耳へと入ってきた。

 聞き馴染みのない単語と共に発生した鋭く、透明で少し青みがかった何かが視界の端に映った。

 すぐにはその実体を確認する事は出来ない。しかし、助けに来てくれたドミトスにはすぐに気がつくことが出来た。


「ドミトスさん!」


 その声の主はドミトスだ。

 昼間聞いた穏やかな声音から想像できない程、ドミトスは声を荒らげていた。

 相当苛立っていたのだろうか。顔はあまり見えないが、鬼の形相を浮かべているのが安易に想像出来る。


「今度は誰が。次から次へと僕の邪魔をするネ」


 敵も気が気でなかったのだろう。避けたとは言え、不意打ちを受けたのだから。

 声に焦りを含みながら怒りを露わにする敵に、ドミトスは負けじと言い返す。


「私の孫に、何をした」


 静かではあるが、迫力のある声に輝空は思わず背筋をしゃんとする。

 アルクがドミトスの孫であったという事実は、驚きもあるが納得もできる。

 言われてみれば、少し面影があったような気もする。


「孫? そうか、ということはこの子が……それで、ここへは何しに来たネ」


「孫を返してもらう。もし返さないのなら、私とて黙って見ている訳にはいかない」


 ドミトスは手に持っている杖を敵に向けた。

 傍らで言葉を噤む輝空はいないも同然。空気のような存在だ。

 両者隙がない。特にドミトスには視線を向けることでさえ躊躇う。

 固唾を飲んで見守っていた最中、先に白旗を上げたのは敵であった。


「はぁ。これ以上は気分が乗らない。タツタニソラ、いずれまた君に会いに行くよ」


 そう告げると敵は風の音と一緒に姿を晦ました。

 重苦しい空気からようやく解放され、輝空ほっと一息つく。

 ドミトスも同様に、一息つく。そしてアルクの側に足を運ばせた。

 続く輝空もアルクの様子を見に行く。

 アルクの体にはそこかしこに切り傷があるものの、どれもそこまで深いものでは無い。

 それでも、輝空はいたたまれない気持ちになった。心の中で自分を責めた。

 アルクが命懸けで守ってくれて、自分は何もしていないなどあっていいのだろうか。

 唇を噛み締める輝空を見兼ねて、ドミトスは穏やかな口調で輝空に言葉をかけた。


「ソラ様も、よくご無事で」


「俺は……」


「アルクのことなら、お気になさらないでください。この子も、自分の意思でやったことなのですから」


「……はい」


 自責の念に駆られる輝空を、ドミトスは優しく宥めた。

 言い返すことが出来ずにいる自分に嫌気がさすが、今はクヨクヨしている場合では無い。

 輝空は一度ため息をつき、ドミトスに作り笑いで取り繕う。


「でも本当にアルクが無事で良かったです。もし自分のせいで何かあったら……ううん、とにかく今はアルクの目覚めを気長に待ちます」


「そうしましょう。ソラ様、後のことは私に任せてお休みになってください」


「分かりました。明日またアルクに会いに行ってもいいですか?」


「えぇ、もちろん」


 ドミトスと輝空は軽く会話をして、輝空はアルク宅へと帰宅した。

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