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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
二章 【星と家族】
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十二話 敵の予感

「夜一人で歩き回るのは、流石にまだ怖ぇな」


 輝空は現在深夜徘徊をしている最中だ。

 昼間にドミトスから聞いた『幸運を呼ぶ緑の星』の概要をもっと深く知るために、輝空は自分の目で確かめることにした。

 しかし、輝空がそんなことをする必要性は全くない。

 事実それは輝空はアルクの寝床を確認しに行くと、そこはもぬけの殻だったからだ。

 正確な時間は測れないが、とうに日付は跨いでいる。何か用事がある様子にも見えなかったし、夜中に遊び回るような人物にも見えない。


「アルクがとんでもない不良だったら、それはそれで面白いけどな」


 念の為に輝空は剣を両手に持ち、身構えながら周囲をの警戒も怠らない。

 民家の灯りと街灯らしきもの以外は、周囲を見る術がない。

 輝空はランタンを持ってはいるものの、あいにくそれはアルク邸に置いてきてしまった。


 ――アルク邸を出発して約十分、アルクらしき人物をまだ目にしていない。

 たまに人とすれ違う事はあるが、中年男性がほとんどだ。

 輝空は少しばかり警戒を緩め、アルク探しに身を呈している。

 今自分がどこにいるのか、輝空は把握しきれていない。

 暗闇の中輝空は恐怖を噛み締めると、少し足早に歩いた。


 輝空は順調に歩き進め、昼間ドリトスと立ち話をした教会の前まで到着した。

 輝空は胸を撫で下ろす。知っている建物を見ると、妙に安堵する。


「今日はやけに目が冴えてるな」


 夜空を見上げながらぽつりと呟く。

 異世界に来る前は、こんなにも美しい夜空を目にすることはなかった。

 夜でもお構い無しに喧騒は絶えなかった。正直、不快以外の何ものでもない。

 しかしここは、不気味なほど静かで、自然と心に余裕が生まれるような、そんな感覚がある。


 つかの間の休息を終えたところで、再びアルク捜索を開始する。

 ここまで来ると半分諦めてはいるが、ここで引き下がるのも謎のプライドが許さなかった。


 ――悪寒がする。


 歩を進めようとした途端に、輝空は突然の悪寒に苛まれた。

 背筋が凍るような感覚、緊迫した雰囲気が流れる。

 原因は未だ不明だ。しかし、何かが迫ってきているのだと、輝空は理解した。


 ――人の気配。それも一人ではなく数人、いや数十人はいる可能性がある。

 輝空は気配がする方向に顔を向けて、目を凝らした。


「だ、誰だよお前ら」


 暗闇の中、うっすらと目に映り込む人影は、なにかするわけでもなく、ただこちらを向くだけだ。

 殺意は感じない。それでも、敵意は感じる。


 輝空は手に持っていた剣を鞘から抜いて構える。

 人数から見て、ほんの気休め程度にしかならない事は分かる。それでも逃げる選択など今更取れそうにもない。

 それにいざとなれば、魔力を制御している指輪を外して戦う。

 ハーラルトからは固く禁じられているが、致し方ない。


「――!」


 緊迫した雰囲気を断ち切るかの如く、何かが頭上を通り過ぎていく気配がした。

 そして、それは地面に叩きつけられ、金属の鋭い音が周囲に響いた。

 何事か、と輝空が確認する間もなく答えは出た。


「ソラ! こんなところで何してるんだ!」


「ア、アルク! 探したんだぞ、ずっと!」


「俺を? ううん、今はそんなことどうでもいい。こんな夜遅くに危ないじゃないか!」


「あ、あぁ、ごめん」


 危ないのは俺だけじゃない、と言いたいところではあるがグッと堪えた。

 それよりも今は、目の前の敵をどう対処するかが重要だ。

 いずれにしても、こちら側が数的不利であることに変わりない。


「とにかく今は、あいつらをなんとかしないと。その剣貸してくれない? さっきまで斧を持ってたんだけど、投げちゃったから」


「いいけど、俺もしかして素手で戦わないといけない感じ?」


「ここから見ててもいいけど、ソラなら素手でも勝てると思うよ」


 期待されているのか、単なる捨て駒としか思っていないのか。

 どちらにせよ、自分よりも強いであろうアルクに剣は渡すつもりだった。


 アルクは剣を受け取ると、すぐさま敵に立ち向かう姿勢を見せた。

 そして輝空が瞬き一つした頃には、既に走り抜けていた。

 流石に敵も、反撃をせざるを得なくなり、剣をアルクに振りかざそうとする者や、魔法を放とうとしている者がいる。


 戦闘が開始すると、まずアルクは剣士を集中的に狙った。

 次々と血を流し倒れていく人間が、輝空の目に映り込む。

 一方でアルクを目視する事は困難だった。

 辺りが暗いこともあり、アルクの俊敏な動きを正確に捉えられない。

 それは輝空のみならず、敵とて同じ事だ。


「強ぇ」


 開いた口が塞がらなかった。

 絶え間なく、剣と剣が混じり合う音が輝空の耳に入ってくる。

 うっすらと映るアルクの剣撃に、輝空は釘付けになっていた。


「関心してる場合じゃねぇ、俺も加勢しないと」


 この場をアルク一人に任せる訳にはいかない。

 しかし、恐怖でなのか足が竦む。

 動こうと言う意思だけはある。あとは恐怖に打ち勝つのみというのに。

 ――輝空にはまだ覚悟が足りなかった。


「ソラ! そっちに何人か行ってるぞ!」


 アルクの必死の叫びが、輝空の足を動かした。

 近づいてくる敵は、短剣を手に持ち、それを輝空の首元目掛けて振りかざす。

 輝空はほぼ反射的に短剣を躱し、力を込めた一撃を相手の顔面にぶつけた。


 その威力はそれなりのもので、敵は後方に飛ばされていった。

 荒い息をしながら輝空は、飛ばされた敵の頭を確認する。


「今度は、大丈夫だな……」


 以前のように顔が潰されていないことを確認し、輝空はほっと息をした。

 安心出来るのもつかの間、次は離れた位置から火の玉がこちらに来る。

 今度は難なく回避し、火の玉が放たれた方角へ足を運ばせる。


「――!」


 放たれた火の玉とは別のところ、左右どちらかに敵の気配を感じ取った。

 しかし、感じ取れたはいいものの、まだ体勢を切り替えることが出来ずに、短剣の先が視界に入る。

 とても避けられる状況では無い。一か八か、脚に力を集中させ、後ろへ跳んだ。


 なんとか危険を回避した。

 別で交戦していたアルクが、こちらに駆けつけ目の前にいた敵数人を倒していく姿が見えた。


「大丈夫かソラ!」


「なんとか一命は取り留めたみたいだ」


「それなら良かったよ」


「アルクの方こそケガは大丈夫?」


「まだ傷はついていないよ」


 化け物じみた戦闘力に感嘆する。

 それにしても、アルクはやけに清々しい。まだ敵はいるというのに――。


「おい! まだ警戒は怠らない方がいいんじゃないか!? 敵もまだ……」


「それなら大丈夫。今ここにいる敵は全員倒したから」


「早すぎだろ! 俺なんもしてねぇじゃんか」


「ソラはもっと戦いたかったの? 言ってくれれば残しておいたのに」


「お前は残飯処理でもしてたのかってくらい軽いノリだな……」


 先程までの緊張感はどこへやら。とても戦闘をしていたとは思えない。

 しかし、油断は禁物である。輝空もアルクもそれは重々承知している。


 輝空は足を擦りながらそっと目の前で倒れている敵に近づく。

 敵は黒いフード付きの服に身を包み、己の顔を晒さないようにするためか不気味な面を被っていた。


「近くで見るともっと気持ち悪い……どうして俺を狙うんだよ」


「ちょうど近くにソラがいたからじゃない?」


「そんな無差別に人を襲うような奴ら、どうして傭兵達は何も動かねぇんだ?」


「俺も今日初めて見掛けたし、傭兵の人たちも知らなかったんだと思う」


「それなら分かるが……」


 分かるとは言ったが、どうも腑に落ちない。

 この街を襲う事が目的だったのか、それとも自分を襲いたかったのか。そんな疑問が輝空の中で残った。


「ソラ」


「どうしたんだよ改まった声で」


「後ろに下がってソラ。何かが来る」


 アルクが真剣な声をあげるとともに、この場は不穏な空気を漂い始めた。

 輝空はアルクに言われた通り、後ろへ下がる。

 目を凝らす必要は無かった。それはすぐに頭角を現し、背筋が凍る感覚を味わう。


「おかしいネ、これ。全員やられすぎネ」


 どこからともなく、それはアルクと輝空の前に姿を現した。

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