七夕のきみへ
少し哀しい様で、希望の愛の物語。
「もうすぐ七夕も終わるね」
隣に座るきみに
私はそっと呟く
きみからは何の返事もない
空虚なきみの瞳は
天に瞬く天の川を
ただ、ただ映しているだけ
私はそんなきみから目をそらす
きみの心は壊れてしまった
言葉も久しく発していない
瞳はビー玉の様に景色を映し込んでいるだけ
慣れてしまったと言えば慣れた
離れてくきみの周りの人達は最初はきみにしつこい程構って居てくれた
でも
まるで人形の様なきみに段々興味を無くし
戸惑う中で去っていった
私は
そんなきみに何もせず
こうして、程よい距離で接している
つもり、だった
でも
もう、限界かも
「ねえ……」
私はきみの袖口を掴む
涙が出そうだけど舌を噛んで痛みで誤魔化す
口の中にちょっとだけ血が滲むのを感じた
「ねえ」
私はきみの前に回り込んで
瞳を覗き込む
空虚な瞳に私が映った
きみの表情は変わらない
「私、お願いしたよ。短冊にも書いた。いっぱい、紙いっぱいに書いた。きみが、きみがどうか……どうか」
『戻ってきますように』
海辺の波の音が響く
うるさいくらいに響く
波は穏やかなのに
「……る」
「え?」
声が聞こえた気がして私は目を瞬かせた
「あ」
「い」
「し」
「て」
「る」
きみの唇から
一音、一音
言葉が漏れた
瞳が濡れてる
涙が、流れてた
きみが、泣いてた
私は天空を見上げた
流れ星が
たくさんたくさん空に煌めきを残して消えていく
七夕の奇跡は
きみを連れ戻してくれた
お読みくださり、本当にありがとうございました。






