空白
突如墓場を訪れた兄弟らしい二人を見送った後、わたしは既視感に襲われた。何故か見送った二人を他人ごとに思えない。何故だろうか?確かにあの二人は他人だ。血縁関係は感じられない。そして既視感を感じたのは、二人そのものではない、気がする。例えば言動、台詞に何かを感じ取った気がする。
ゆめ…夢。おれ…おれらの夢、は。…いつか、三人一緒に…外に、旅に…出たい。
青年の言葉を聞いて少し驚いた。不死族のほとんどは、生前の記憶を失っており時折記憶が戻る事がある。でもその記憶を取り戻した後が問題となる。何故なら記憶が戻るという事は自分がシぬ直前の事も思い出すという事だ。特に生前に酷い目に遭っていたとしたら、結果として悲惨な末路であったとしたら、きっとそれはひどい気分になる事だろう。そんな状態で正気を保ているか、他人には分からない。最悪心の傷を掘り起こして精神を病み、暴れ出すかもしれない。そう言った事例は実際にある。だからこそ青年が記憶を取り戻して、正気を保てていた事に驚いた。
いや、それは今は良い。問題は私の既視感。わたしが青年に抱いたものの正体は何なのだろうか。そういえば、青年と話しており時、無意識にタメ口になってしまっていた事に今思い出す。もしかして私も記憶が戻っていたのだろうか?
青年らの言葉を聞いた時、わたしは何を無意識に思い出したのだろう。
会いたいと青年は口にはせずとも、そういう事を言っていた。わたしにも会いたいヒトがいるのだろうか?今思い出そうとしても頭の中に霧がかかったようになって何を思い出せない。
そもそもわたしのシ因は何だっただろうか。彷徨うわたしを見つけた先輩は、酷い有様だったと言っていた。ヒトの形を留めておらず、そのために体は縫い痕だらけだと。わたしはひどいシに様だったのだろう。何かに、誰かにひどく傷つけられ、それを誰かが見ていた、見ていた?ちがう、見てはいない、私が見ていた。見られたくなかった。
シぬとわかっていた。だから私は咄嗟に庇うようにして押しだした。彼を、シにたくないと言っていた彼を助ける為に。いつも悪態をついてくる彼を助けたいと思って、わたしは、私は、わたし?あれ?
「おい、何してんだ?」
不意に先輩の声が聞こえて、わたしは考え事を中断する。その途端何を考えていたのかを忘れてしまい、わたしは戸惑った。そんな私に対して先輩は再度話し掛けて来る。
「お前そんな所でボーっとして、どうしたんだ?」
「えーっと…何なんでしょうね!」
空元気と思えるくらいに大きな声を出したと自覚している。でもそうしたかった。気持ちがむしゃくしゃして声を張り上げたい気分だったから。思い出せたと思った事が結局思い出せず、わたしは八つ当たりでもしたかったのだろう。なんともひどい。
「ふーん…まぁ良いが。仕事中にあんま考え事してっと、大きい失敗に繋がる事は分かっているだろ?」
「はい、すみません。」
わたしは先輩に優しく注意され、改めて墓の見回りを再開しようとした。ふと思う事があり、先輩の方へと向き直る。
「先輩。わたしが見つかった時、どうでしたか?」
先輩は最初何を聞かれたのか分からない方が、直ぐに察してくれて話してくれた。
「あぁ、お前が墓から抜け出して敷地内をうろついてた時か?以前も話したがひどかったぞ?手足は骨を剥き出しにして、目ん玉は無ぇからあちこち墓とか木にぶつかりながら、時々首とか手足が変な方向を向いても気にしねぇで呻き声をあげながら歩き回ってよ。」
確かにそれはひどい。腐敗屍体に変化したヒトは大抵墓から抜け出して先輩が言う様に当たりを徘徊する事が多い。わたしの時も例外ではなく、他の腐敗屍体と同じ状態で発見され、当時墓守だった先輩がとれてしまったわたしの体の部位を縫い直してくれたのだとか。そしてわたしは墓に一度戻されたが度々抜け出すとして結局先輩があれこれわたしに指導をし、意識を取り戻したわたしに墓守の仕事を任せる形になったという。
そこまで聞いてわたしは自分の墓を思い出す。わたしは自分の墓を持ってはいない共同墓地だ。きっと生前のわたしには親も兄弟もいなかったのだろう。そんなわたしに墓参りに来てくれるような友人はいたのだろうか。
「ほれ、サッサとしねぇと日が昇るぞ。」
「あっはい!」
先輩に急かされてまた思考と中断した。そういえば、わたしは何を思い出していたのだろうか?誰かが来るのだっただろうか?まぁ良いか。
わたしに墓参りに来てくれる友人はいなくとも、今は先輩や墓地の皆がいるから平気だ。仕事もあるから、毎晩忙しくとも楽しい。だから大丈夫だ。
だから共同墓地に一輪だけ花が供えられている事をわたしは知らない。




