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44.意気地なし



 俺は自宅で、五月に開催されるスイーツコンテストの予選に提出する為のケーキのイラストを書いていた。

 机の隣の本棚の上には、パティシエコンテストで優勝した時にもらった賞状と盾が飾ってある。それを眺めながら色鉛筆を握っていると、まひろからスマホに一通のメッセージが届いた。

 手に取るかどうか悩んでいたから通知欄だけ眺めた。ところが、そこには驚くべき内容が書かれている。



『来月九州に引っ越す事になったの。星河には直接会って伝えたかったけど……』



 俺はすかさずLINEを起動させて吸い付くようにメッセージを眺めた。

 以前からメッセージは何度も届いていたけどスルーしていた。その理由は気持ちを整理するため。

 一方的に関係を断ち切らないと、心の傷が深くなっていくだけだから。

 しかし、今回ばかりはスルー出来なかった。



「なんだよ、これ……」



 返信したい気持ちは山々だったけど、指を引っ込めてスマホを机の上に置いた。

 まひろが九州に行けば自分の気持ちも落ち着くだろう。そうすれば、もう二度とぼたんを傷つけることもない。

 それに加えてまひろが他の男と幸せそうに喋ってる姿を見なくても済むようになる。




 俺はぐちゃぐちゃになっている気持ちをリセットしようと思って、ベッドに寝転んで天井を見上げた。

 でも、そこに描かれていたのはまひろとの思い出。


 引っ越し直後に挨拶に来た日に一目惚れして、一緒に遊ぶようになってから恋に発展。

 バレンタインチョコを貰った日は嬉しくてお下がりのスマホで何十枚も写真を撮った。

 それはいまでもたまに眺めている。


 ホワイトデーにお返ししようと思った時にお菓子の中で一番好きなクッキーを選んだ。

 それを渡したら、あいつはすごく喜んでくれて「星河はお菓子作りの天才だね! 将来はケーキ屋さんになってね!」と。

 それがきっかけでパティシエを目指したっけ。



 小学生の低学年の頃、授業参観の時に「将来はパティシエになりたい」と発表したらみんなに笑われた。サッカーを習っていたから余計に。

 でも、あいつだけは笑わなかった。それどころか、「星河のスイーツは幸せな味がするよ」と言ってスイーツを渡す度に褒めてくれた。



 中学に進学してから部活が休みの日にショッピングセンター内のお菓子教室に通った。

 もちろん、男は俺一人。アウェイ状態だったけど、同じ道を志す仲間もいて心強かった。

 そこで仕上げたスイーツはいつもまひろの口がゴール。幸せそうに食べてくれる姿に胸がキュンとした。



 高校に進学してからすぐに叔父さんの店でお手伝いを始めて、比較的店が暇な時間帯にスイーツ作りをさせてもらった。

 そしたら、まひろは「星河がスイーツを作ってるところを見てみたい」と言って一緒に働き始めた。だから、あいつも俺に気があるんじゃないかと誤解していく一方だったし、気持ちが膨れ上がるあまり関係が崩れるのを恐れて告白できなくなってしまった。



 結局耐えきれなくなってしまったのは自分の方。

 まひろからちゃんと卒業することが出来たら、また幼なじみとして向き合えるだろうと勝手に思っていた。




 ――そんな最中、突然別れのメッセージ。

 気持ちが追いつけないどころか目頭がじわじわと熱くなっていくばかり。

 ベッドから立ち上がると、再び机に戻って二段目の引き出しを開けた。

 その中から取り出したのは、まひろの父親からの最後の手紙。

 俺が未だに見返している大切な宝物だ。そこに書いてあるのは……。



『いつも美味しいスイーツをありがとう。まひろはすなおじゃないところもあるけど、星河くんのゆめを一番に応えんしているよ。りっぱなパティシエになってまひろを幸せにしてやってね』



 残念ながら、俺はおじさんとの約束を守れそうにない。

 おじさんは病と戦いながら沢山エールを送ってくれたのに、俺は意気地なしだから尻尾を巻いて逃げてしまった。


 だから、メッセージは返信しなかった。

 再び膨れ上がっていく気持ちは、飲み込むつばと共に無理やり押し込んだ。



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