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39.恋



 ――星河と激しくケンカをしてから翌々日の月曜日。

 場所は教室。朝から暗い顔で机にうつ伏せになっていると、波瑠がポンポンと肩を叩いて声をかけてきた。



「どうしたの? 元気ないよ」



 ちなみに波瑠には星河とケンカした件を伝えていない。そもそも、自身の心がいまどういう状態なのかさえ理解できていないのだから。



「……私、自分の気持ちがわからないの。理想と現実がごちゃまぜになってるというか、よくわかってないというか……」



 重い口を開き始めると、波瑠は空いてる前の座席に座って体を私の方へ回転させた。



「理想と現実とは?」


「……郁哉先輩と、星河」


「えっ、星河? だって、星河はぼたんと付き合ってるよ」


「うん……。そうなんだけどね。私、郁哉先輩と恋をしたいのに上手くいかないの。関係は順調だし、先輩は優しくしてくれるし、落ち着いてて大人だし、非が一つもなくて理想的な男性に違いないんだけど、星河とケンカをしただけで先輩の存在が頭の中から抜けちゃうの」


「……なるほど、で?」


「星河がぼたんとキスしている現場を見た日は星河の顔が見れなかった。……と言うより、泣いてた。しかも、この前『幼なじみに限界感じてる』とか言われてショックだった。星河が口をきいてくれなくなった日から、心がムズムズするというか、じれったいというか、素直になれないというか……。これって異常だよね。星河の言う通り、幼なじみに限界感じるほど鬱陶しいって意味だよね」



 私は机に両拳を押し付けたまま力説していると、波瑠はプッと吹いた。



「それが恋というものじゃないの?」


「えっ……、恋?!」


「恋ってさ、入口が曖昧だからいつ始まったかわからないんだよね。会いたいとか、もっと知りたいとか。無意識のうちに相手のことで頭がいっぱいになってたら、それは紛れもなく恋だと思うよ?」


「えっ……」


「心当たりあるでしょ。あんたの話を引っくるめたら星河を好きって言ってるのと変わらないよ」


「えぇっ! 私が星河をす……き…………? ウソウソ! あり得ない。だって、私たちは十三年来の友達なんだよ」


「仲が良い友達からでも全然好きになるよ」


「そっ、それに……。お互い知り尽くしているし、いいところも悪いところもいっぱい見てきたし、今さら恋愛感情なんて……」


「幼なじみ期間が長かった分認めたくない気持ちはわかるけど、いづれ気づくよ。この人じゃなきゃダメだって自然と心が教えてくれるから」



 私にはわからない。好きという感情や恋がどういったものなのかさえ。

 漫画やテレビドラマで主人公が恋をしているシーンを見た時はキュンとする感情が恋だと思ってた。

 そのキュンとするシーンは、相手の男性がかっこいいところを見せたり、主人公に特別優しくしてくれたり、ピンチな時に救ってくれたり。

 だから、自分にとっての恋のお相手が郁哉先輩だと思っていた。会えば緊張するし、誘ってくれた時は嬉しいし、困っていたら力になってあげたいとも思っているし。



 でも、店が火事になった日は、ケーキを取りに店に戻ったっきりで、郁哉先輩をカフェに置き去りにしてしまった。

 厨房が火の海に包まれていてその奥に星河の姿が見えた時は、自分でも驚くくらいコントロールが効かなくなっていた。

 星河ともう二度と会えなくなってしまうと思ったら、危険を顧みずに火の中に飛び込んでいた。

 いま思い返すだけでもゾッとするけど、あの時は星河を失いたくなかった。


 最初は幼なじみだからそういった感情に飲み込まれてしまったんだろうと思っていたけど……。

 星河がパティシエコンテスト終了直後に連絡をくれなかったり、無視してきたり、突き放してきた時は心臓が潰れそうなほど苦しかったし、いまこの瞬間ですら星河のことで頭の中が埋め尽くされている。



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