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朱い眼の少女

星は作品には関係ないです。ただ単に『星の赤・五世代目』を登場させたかったというか。性格はずっとおとなしめですが。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 間宮朱音は母の見守る中、自転車に跨る。

 彼女が身に纏うのは真新しいセーラー服、今日から通う田並東高校の制服だ。

 今日は高校の入学式。普通は、少年少女にとって大事な一日、新しい世界、新しい生活への期待と不安に心を躍らせる日だ。しかし彼女の顔にはどんな感情も浮かんではいない。

「今度こそ、お友達が出来るといいわね」

「そうね。行ってきます」

 彼女自身の返事は形式的に取って付けたような、心の動きの感じられないものだった。母親の方も、言っては見たものの期待出来ないのがわかったような調子だ。感情の動きが感じられたとしたら、彼女の返事に対して、母がわずかに溜息を漏らした、それだけだった。

 朱音は自転車に跨ると、ゆっくりとペダルに体重をかけた。それから踏み込む足に力を入れ、次第にスピードを上げてゆく。学校まではかなり距離がある。

 通学路は住宅街から次第に田畑の間を通る田舎道になる。目指す学校は田並市の東端近く、山裾の丘陵地にあり、そこまではこんな田舎道が多い。

 もちろん田舎とは言っても人家はまばらにあるし、所々には纏まった住宅地やスーパー等もある。それに路線バスも通っている。つまりそれなりに人目がある。

 彼女はこの辺りにはほとんど来たことがない。中学は反対方向だったし、この地域に来る用事もあった試しはない。それは大したことではないものの、面倒の種になる。

 これは彼女が土地に不案内だという話ではない。彼女を見たことのない人間が多い地域だ、というのが問題なのだ。

 その結果はすぐに露わになる。彼女が自転車で走り抜ける間、何人もの眼が彼女に向かう。正面からは慌てて目を逸らせるものもいるが、通り過ぎた後は後ろ姿をじっと見送り、中には隣の人間と話しながら指さすものもいる。バスと行き会った時には、通勤客だろう、満員の客の目が一斉に彼女に向かった。彼女が通り過ぎたあとでは、彼女の背後から何人かが指を指しさえしていた。

 そんなことは朱音にとって日常茶飯事だ。向こうから見られていないと思った時に、人間がいかに不作法に振る舞えるかも、彼女はよく知っている。

 いずれにせよ、一ヶ月も経てばこの辺の人間も彼女を見慣れる。だからそれを待つだけのこと。それもまた彼女はよく知っていた。


 彼女は、その外見がそれほどに特殊だったのだ。

 朱音の肌は比喩でなく抜けるように白かったが、それはまだしも普通の範囲だった。まず目を引くのは髪。彼女はストレートのロングにしてあったのだが、その髪の色は白。銀髪でも白髪でもない、半透明に近い白だった。

 そして彼女の顔を見たもの誰しもがぎょっとするのが、彼女の瞳だ。それは赤だった。血の赤ではなく、抜けるように澄んだ赤。磨き上げたルビーのような深紅だったのだ。

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