トゥルーエンド
私は屋敷へ帰った後に、自室の椅子に腰かけながら、エリーゼさんに頂いた本を読んでいた。
その本の内容は――男の人が恋愛物の小説を書いているところから始まり、完成した小説を読み始めると中身は、婚約破棄からの自力での逆転劇。
「ふふ、この子は強いのね……。私は、エリーゼさんがいたから……」
もしも、あの時にエリーゼさんが来なかったら、今でも立ち直れていなかったと思う。彼女と出会えたことによって私は変わることができたのだ。
それに、彼とも出会うことが……。
彼の顔を思い浮かべると、顔が熱くなるのを感じた。
「さぁ、続き、続きっと」
誰に見られる訳でもないのに、照れ隠しをしながらページを捲った。
男の人は自身の小説に感動しつつ、完成していたことに大いに喜んでいた。そして、後に泥酔の小説家として名を馳せていったところで終わる……はずなのだが次のページをめくると何やら書いてあった。
『フィリーナ嬢は、絵が上手だから次回作は絵本で行きましょう。
――エリーゼより』
「エリーゼさん……」
私は本をそっと閉じて、胸に抱きしめながら呟いた。
◆
私は今リビングにて、新作の原案を書いていた。
「ねえ、おとうさま。この絵本よんで」
次女が夫に絵本を読むことをねだっているらしい。
「お、これか。いいぞ。野原に一匹の子ウサギがいました……」
どうやら、次女が渡した本は、以前に私が書いたもののだったらしい。夫が手慣れた様子で読み上げていく。
「お母様、また新作を執筆しているのですか?」
長女が、私に尋ねてきた。
「ええ、そうよ。今回は冒険物で行くつもりなのよ」
長女は、私が書いている原案を覗きながら言う。
「次の絵本も楽しみにしてますね」
長女が言ったように私は絵本を書いており、今現在は絵本作家として活動していた。そして、私を導いてくれた彼女はというと……。
扉の方からノックの音が聞こえてくる。
「どうぞ」
執筆の手を止めて、入室を促した。
「失礼します。奥様にお客様が訪ねてこられました」
執事がそういうと、後ろから私を導いてくれた人が顔を出した。
「久しぶり、フィリーナ。元気にしてた?」
「エリーゼさん、久しぶりです。今は忙しい時期だったのでは?」
「領地のことなら彼に任せておけば大丈夫。それと、執筆のことならたまには息抜きしないとね」
「ふふ、そうですね」
彼女は、結婚した後も執筆を続けていて、今では人気作家なのだ。
「エリーゼ様、お久しぶりです」
丁度、本を読み終えた彼が、エリーゼさんに挨拶をした。
「ええ、お久しぶりね。これからもフィリーナを支えてあげてね」
「それは、もち……」
「エリーゼ様、お久しぶりです」
「こんにちは、エリーゼさま」
娘たちが、夫の言葉を遮るように挨拶をした。
「二人とも元気にしてた? これお土産ね」
エリーゼさんが、お土産の焼き菓子を差し出してくれた。
「ありがとうございます」
「やったー」
娘たちが喜びながら受け取った。
「ちょっと、待ってくださいね。今、お茶を用意させますから」
そう言ってお茶を用意させようとした矢先に、メイドがお茶を運んでくる。
「そう仰ると思いまして既に用意させておきました」
「流石ね」
執事は一例したあとに退出していく。
「フィリーナの家の執事は相変わらず手際がいいね。今度密着取材をしてみようかな」
「ふふふ、その時はお手柔らかに頼みますね」
その後は皆で椅子に腰かけながら、話に花をさかせていく。
そう、まるでエリーゼさんが連れ出してくれたあの時のように――。
― fin ―