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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なよ竹の 桃から生まれた (自主規制)チ姫  読み人知らず

作者: にく

今となっては昔のことですが、あるところに質素な暮らしをするおじいさんとおばあさんがおりました。


おじいさんの仕事は山に行って得た柴を用いて作った籠などの小道具を町にもっていって売るというつまらないものですが、長年続けてきたこの仕事に文句などもありません。


おばあさんはそんなおじいさんの仕事をずっと支えてきましたが、若いうちに子宝に恵まれず、この世に何か残すことがないというのが一つだけ心残りでした。


そんなある日、おばあさんがいつものように川で選択をしていると上流からかなり大きな、そうであることを疑うような光輝く桃が流れてくるではありませんか。


どうしようかな。これはちょっと近寄らない方がいいかもしれないな。ただ、老い先短い身です。ここでなにか恐れて人生を変えるチャンスを失ってしまってはたまったものではない。

おばあさんは昔取った杵柄、なんとか川に入っていって巨大桃を入手しました。


赤ちゃん一人分くらいの重さだったその桃を割ってみると、なかからは9センチメートルほどである女の子がたいそうかわいらしい様子で座っていたのです。そこに帰ってきたおじいさん。

「どうしたんだばあさんや、桃のなかに人形を入れて遊んでいるのかい。というかその巨大な物体は桃なのか?」

と、頭の中に複数浮かんだ疑問をすべておばあさんにぶつけてしまいます。それに対しておばあさんは、

「おじいさん、これは川上から流れてきた桃で、包丁で割ったところ内部の空洞にこのような小さな女の子がいたのですよ。夢ではありません。理解しましたか?」

と理路整然と状況の説明を行いました。


こうして、おじいさんも納得し、夫婦はこの年になってから得た子供ということもありたいそうよろこんで大切に育てました。


子供をそだてるというのはお金のかかることですが、この子を得てから山で砂金のつまった竹をみつけたり、ふるい財宝が埋まっているのを見つけたりしたので夫婦の家はあっというまに裕福になり苦労もしません。

おばあさんは桃から生まれたこの女の子に川上の桃姫と名前をつけました。


桃姫はすくすくと成長し、立派な大人になる前のころにはその美貌は部屋の隅々まで光で照らさないところは無いほどで、その光が屋外まで漏れてしまうことにより村の中でも有名になっていきました。おじいさんは、夜でも寝るときにアイマスクが欠かせません。


そして桃姫が元服を迎えるくらいの年齢のころ(もちろんそれくらいの年ごろという意味で、姫が元服を迎えることはありませんが)、姫はこんなことを言い始めました。

「この世の中には鬼というのがいて、苦しめられている人々がいるそうですね。おばあさん、私はその鬼を退治して、世の中をいくばくか平和にしたいとおもうのです。旅に出ることを許してはもらえませんか?」

遠く西のほう、山を越えて冬には大雪の振る海沿い、島だか鳥だか覚えにくい地名のところに、鬼の住む鬼ヶ島というのがあるという噂をきき、義の人である桃姫はこの状況を放っておくことはできないと、おばあさんにこう切り出したのでした。それに対しておばあさんはこのように言いました。

「桃姫よ、よく考えなさい。人に唯一あたえられた救済というのは理性です。その理性をもって考えなさい。鬼というもの、そしてそれに苦しめられる人々というのは確かにいるようです。しかし、それはあなたが退治すべきものでしょうか。その国にも、国を治めるものがいて、その国主は治安維持に責を負うとは考えられませんか?あなたが危険を冒して助けることは果たして公共の利益となるでしょうか?」

相変わらずおばあさんは論理的思考を要求してきます。おじいさんは、おばあさんのこういうところが厄介でもあり、好ましいところでもあることだなあ、と和歌を作りながら聞いています。

「おばあさん、これは私が十分に考えて出した結論です。鬼に苦しめられている話はかなり昔からあるようですし、解決に向かっているとは思えません。私にはそれを解決する能力も自信もあります。」

桃姫のその言葉を聞いてもはやおばあさんもおじいさんも止めませんでした。こうして桃姫は鬼を退治する旅に出発したのです。

おばあさんは旅にでるときに桃姫に十分な金銭を渡しました。大金を持っての女一人旅などかもねぎですが、桃姫には武の才能もあったため大丈夫と判断したのです。おじいさんは内から湧き出る欲求にしたがってひのきの棒をわたしました。桃姫はお金も棒も、様々な意味で相手を殴るのにちょうどいいと、たいそう喜びました。


桃姫に求婚しにいく皇子を乗せたかごの列を横目にすれちがい、桃姫は生まれ育った村から出ていきます。西の方へ歩いていき、道中の山で襲ってきた山賊をたたきのめし、有望なものを金銭と人間的魅力により配下としながら、桃姫はついに鬼に苦しめられている国まで到着しました。

その辺のファストフード店で休みながら、桃姫は部下に指示を出します。

「おいサル、鬼ヶ島へ渡る船を見繕ってこい。それと、鬼に苦しめられたという人の話も聞いてくるのだ。私の方でも鬼については調査する。人々の間に伝わってきた昔話など一切参考にならんからな。」

「わかりました、殿。直ちに調べてまいります。」

桃姫にサルと呼ばれた男は、山賊あがりでしたが姫の下駄をはく前に温めておくなど人間関係において優秀な交渉能力を持ち、このような任務には適任です。

周辺の町人に話を聞くと、だいたい鬼は国が戦を起こす前や、収穫のあとなど、国に富が集中しているときに略奪にくるとのことでした。

「これは、そこそこ知能があるやもしれんな」

姫は苦戦の予感に身を引き締め、戦いの準備をします。そこに突然話しかけてきた老人がいました。

「美しい武士のお方、鬼ヶ島に行くのはやめておきなされ。鬼ヶ島の鬼は人では抗えぬ強さでございます。いくら貴方のような立派な方でも、勝ち目があるとは思えませぬ」

「ほう、見てもいないのに愚かにも私の力では足りぬと申すか」

「いえ、はい、人では鬼に勝てぬかと・・・それにその武器ではとてもではありませんが」

「我がひのきの棒はいままで幾多の戦いをともにしてきた文字通り相棒である。老人、そこを動くなよ」

姫はそう老人に言い放ち、ひのきの棒を数回振り回します。すると、老人のひげがちょうどいい長さに切りそろえられたではありませんか。周囲の人はたいそう驚きあきれて、感心の声をもらし、これはいけると姫にあらんかぎりの援助を始めました。宿屋は最高の寝室を用意し、酒屋は最高の酒をもち、飯屋は最高の食事をそろえ、結果として桶屋は儲かりました。

翌日、姫は港から鬼ヶ島へと手下をつれて旅立ちました。


鬼ヶ島についた姫は、その辺にいた鬼に早速宣戦布告を行います。

「我が名は桃姫である。この島に住んでいる鬼が対岸の国を襲い、苦しめていると聞いた。事実であれば容赦せぬ。事実でないというならば、申し開きをせよ!」

「なんだなんだ桃姫だって?ピー(自主規制)チ姫ちゃんよ、そんな棒で俺達鬼に勝てるってのか」

「雑魚は黙っているがいい。この島の長を呼べ」

「いい度胸だ、このアマ!」

そう叫んだ鬼の視界は、次の瞬間高速回転します。ひのきの棒の一閃が鬼の首を切り飛ばしました。

「警告はしない。長を出さないならば、出てくるまで切り伏せるだけだ」

マンマミーア。姫の配下はうっとりした目で姫を眺めています。しばらくするとひと際大柄な鬼が出てきて、姫から登りたつオーラを見ると即座に跪きました。

「おお、美しい姫よ、私ではあなたにはかないません。どうか、私の首ひとつでこの鬼どもの罪をゆるしてはくれまいか」

それに対し姫はこう告げました。

「おまえの首など大してほしくもない。それより、お前たちがこれ以上略奪を繰り返さないという保証をする必要がある。場合によっては皆殺しだ。ただ、私もやっかいな問題をかかえている。それに協力するなら見逃してやらんでもない」

「もちろん、喜んで従います。」

こうして姫は新たに鬼も配下に加え、砂丘があったかなかったかよく覚えていない国へと凱旋しました。すると、そこには姫に求婚しそこなった故郷の国の皇子がいるではありませんか。

「桃姫よ、探しましたぞ。私があなたの家に求婚に向かったところ、まさに今日鬼退治に出発したと言われましてな。追いかけてきたのです。姫、どうか私と結婚していただけませんか」

実のところ、姫の抱えている問題というのは大した実力もないくせに姫の美貌に心を奪われて求婚しにくる身分の高い人々をどうあしらうかということだったのです。そこで姫の立てた計画というのは、自分が手出しできない人物であると広く知らしめることでした。

「その願いを聞き入れるわけにはいかない。私はこれからこの鬼どもを率いて、人と人ならざるもの全てのための国を作るつもりなのだ。私と結婚したいというのならば、そうだな、宝石の成る木でも見つけて持ってくるがいい。できまい!フハハハハハ!」

鬼までつれて自分の国を作るという人にとても手出しはできません。自分の計画が成功したと確信している姫は高笑いをしていますが、皇子の言葉にその表情は凍り付きました。

「あっ、それならうちの庭にあります。そんなものでよければ・・・・」

自分で言ってしまった手前、配下の目の前で約束を破る前にもいきません。万事休す。そう姫が思っているところに、天から、あたり一帯に神々しい声が響き渡りました。

「桃姫よ、聞こえますか。あなたをこの世界に転生させた女神です。あなたは鬼に苦しめられていた国を救うという善行を為しました。よって、もとの世界に帰る権利を差し上げます。さあ、この宇宙羽衣を着てスペースシャトルの操縦席に乗ってください」

なんということでしょう、桃姫は異世界からの転生者だったのです。宇宙羽衣を着た桃姫はすべてを思い出し、皇子に告げました。

「私は異世界で無実の罪を着せられ、パーティーから追放された悪役令嬢だったのです。しかし、この世界でチート能力を駆使して善行を為したことでその魂の清さを認められ、もとの世界に帰ることができるようです。すみませんが、悪しからず。それでは~」

姫の言葉に一同があっけに取られている中カウントダウンが始まり、エンジンから炎が噴き出して姫は遥か空の彼方へ射出されていきました。


残された皇子は姫の言葉を故郷のおばあさんに伝え、そしておじいさんにうろ覚えだった鬼ヶ島のある国の名前を聞いたところ出雲大社がある島根という名前だったのでした。


それが今でいう島根県になったとのことです。


-Fin-

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