姉の贖罪
異母姉妹百合です。残酷な描写があるので注意。
心の広い方向けです。
美しい義妹がこの世にいなければ、私は誰かにとっての特別な人間になれたのだろうか。
私は、昔から誰にも選ばれない女だった。
けれど義妹は違う。
彼女は、幼い頃から選ばれた特別な人間だった。
義妹と初めて会った日の事は鮮明に覚えている。忘れもしない、あの春の日。冬が老いて、生き物の命の息吹を感じる、温かい春の日だった。
母が亡くなって半年ほど経った日の事だった。突然、父が義妹と義母を家に連れて帰ってきた。
『さあ、挨拶をして、桔花』
父が紹介したのは、綺麗な女性とその隣にいる可愛らしい女の子だった。
『新しい家族だ。お義母さんとお前の妹になる美桜だよ』
美桜、と呼ばれた女の子が不安そうにこちらを見上げてくる。その顔は、幼いながらとても整っていて、きっとこの子は大人になったら誰よりも美しくなるだろうな、と思った。
『……よろしく』
感情を押し殺して、頭を下げる。義母になる女性がオロオロしながら、挨拶を返してくる。一方、美桜は身体を硬直させたまま、こちらを見つめてきたが、結局何も返事をしなかった。
その日、私は春が嫌いになった。
美桜、という名前は父が付けたらしい。美しい桜の咲く春の日に生まれたのが由来だと聞いた。植物が好きな父がいかにも付けそうな名前だと思う。
私の名前も、桔梗の花から付けられている。
よく考えれば、花の名前を持つという事が、全く似ていない私達異母姉妹の唯一の共通点かもしれない。
『奥様が亡くなって半年しか経っていないのに、もう愛人と再婚するなんて--』
『それも子どもまで作っていたらしいわ。なんて図々しい。桔花さんもお気の毒に……』
周囲の大人達がコソコソと噂していた。
会社を経営している父がどこで義母と知り合ったかは知らない。知りたくもない。だが、私の母が病で倒れる何年も前から関係が始まったのは明らかで、そんな父の事を、私が心の中で軽蔑するのは当然だと思う。なに不自由なく育ててもらったのは感謝しているが。
美桜の母親--私にとっては義母である人に対して、不思議に思われるかもしれないが、実は私はそんなに悪い感情を抱いていない。実際、悪い人ではなかった。気が弱くて、儚げで、いつも控えめな人だった。それは父と正式に籍を入れた後も変わらなくて、だから私と義母の関係は、よそよそしかったけれど、割りとうまくいっていた気がする。
だけど、美桜は違う。
美桜は義母とは全然似ていなかった。いつも明るくて、朗らかで、優しくて、そして--
「お姉さん」
私を呼んでニッコリと微笑む姿は天使のように可愛らしかった。
「お姉さんの好きなケーキを作ったの。一緒に食べましょう?」
そんな彼女は、当然のように周囲の人々から愛された。誰もが彼女の事を好きになった。
口さがない人間は美桜の事を愛人の娘だと悪く言うこともあった。しかし、そんな人間でさえ、彼女と接したら好きにならずにはいられないほど、彼女は魅力的だった。
そして、私はそんな義妹を--美桜を嫌う唯一の人間だった。
私は、昔から地味で平凡な女だ。どうやら亡くなった母に似たらしく、これといって特徴のない人間だった。容姿だけではなく、勉学もいつも平均点、スポーツや芸術面でも特に才能はない。侮蔑されることもないけれど、誉められることもない、つまらない人間なのだ。私という女は。
だけど、美桜はちがう。
美桜は、父にそっくりだった。父は若い頃から美形だった。道を歩くとすれ違った人が全員振り向くほど、優雅な美貌を持っていた。そんな父に似た美桜も当然のように、幼い頃から美しく、何度も芸能界からスカウトされるほどだった。
「まあ、可愛い子ね」
「本当、モデルみたいに綺麗だわ」
周囲から称賛される妹を、私はずっと遠くから見つめていた。
美桜が優れていたのは容姿だけじゃない。学校でいつも成績は一番で、運動神経抜群だから、スポーツでも活躍していた。作文や図画のコンクールでも何度も賞をもらっていた。
美桜とは年が2つ離れているが、同じ学校に通っていたため、姉妹だと知られると、いつも驚かれた。
「全然似てない」
「本当に血が繋がってる?」
あからさまにそう尋ねられた事もある。
そんなの、私が誰よりも思っている。
--血が繋がってなければいいのに。
--この女が自分の妹じゃなければいいのに。
何度そう思っただろう。
義妹が優秀で、その存在が輝くほど、私は世界から弾き出される。誰にも認められず、誰にも選ばれない私の居場所は、世界のどこにもない。
誰も、私を見てくれない。
身体が震えるほど、悲しくて、悔しくて、惨めだった。
「お姉さん、今度のお休みにお出かけしない?」
皮肉な事に、私の存在を唯一見つめてくれたのは、憎しみの対象その人だけだった。
「お姉さんの好きそうなお店を見つけたの。一緒に行きましょう!」
可愛らしく微笑む、世界で一番大嫌いな、私の義妹。
あなたが、もっと嫌な人間だったらよかったのに。
一人暮らしを始めたのは、高校を卒業してすぐの事だった。
父は、実家から大学に通うことを薦めてきたし、義母も随分と心配してくれたようだが、それでも家を出て大学の近くのマンションに住むことを選んだ。今でもその選択は間違っていないと思う。もう美桜の顔を見ることさえ、苦痛になっていた。嫌で嫌で、堪らなかった。あの美しい顔を見るだけで、吐き気さえ感じた。
私が家を出る日、美桜は今にも泣きそうな顔で見送ってくれた。
「お姉さん、寂しいわ。時々は帰ってきてね……」
その言葉に頷いたが、帰る気などさらさらなかった。一人暮らしは思った通り、快適で、何よりも自由だった。初めて思い切り呼吸が出来たような気がした。妹の顔を見ずに毎日を過ごせる、という事がどれほど私に心の安寧を与えてくれたか、想像出来ないだろう。何度か美桜から連絡はあったが、ほとんど無視した。そうすることで、私は穏やかで、平和な学生生活を手に入れることができた。
唯一不安だったのは、美桜が同じ大学に入学してくる事だった。高校まで同じ学校だったので、その可能性は高かった。また妹と比べられる憂鬱な学生生活がやって来ると、想像しただけで絶望で目の前が真っ暗になった。ところが、私の予想に反して、高校を卒業した美桜は大学は私とは違う大学に入学を決めたらしい。それを聞いた私は、思わず大きく胸を撫で下ろした。
やがて、平和な大学生活を満喫している私にも、就職を考えなければならない時期が来た。父は自分の経営する会社に入るようしつこく何度も言ってきたが、私は自力で小さな会社に事務員として職を得た。父は怒っていたが、全て無視した。
就職してからも、私の毎日は大学時代とほぼ変わらなかった。何の刺激もないけれど、穏やかで平和な日々。美桜は大学を卒業した後に、父に言われるまま、父の経営する会社に就職したらしい。義母の電話での話によると、美桜は会社では父の秘書をしているらしく、毎日忙しく働いているとの事だった。それを聞いた私は、何年も会っていない義妹の姿を思い浮かべる。昔ほどは怒りも憎しみも感じなくなっている。どうやら自分の醜い感情は、何年もかけて少しずつ風化してきたらしい。距離を置いたのがよかったのかもしれない。今なら義妹と落ち着いて話せそうだとさえ思った。
優秀な美桜の事だから、父の跡を継いで会社の経営者として人生を切り開いて行くのだろうな、と私は勝手に想像した。
自分も大人になった。少しずつ妹への思いも、制御する事が出来るようになってきた。だからこそ、数年ぶりに美桜から電話が来た時も、私は落ち着いて対応できた。
「お久しぶり、お姉さん」
うん、と短く答える。美桜は弾んだように言葉を続けた。
「お姉さん、私ね、結婚するの」
ほう、と思わず奇妙な息が漏れた。
「うちの会社で働いている人よ。とても優しい人」
この妹がそこまで言うくらいなのだから、相当いい人なのだろう。
「それでね、ぜひお姉さんに紹介したいの。久しぶりに、お食事しない?」
いつもなら断る所だが、結婚が絡むとなると、流石に断るのはよくないだろう。そう考えて、気は進まなかったが、仕方なく了承した。
少しだけ緊張しながら、義妹が指定したレストランへと足を運ぶ。
義妹と一緒にいたのは、背が高くて、フワフワとした笑顔を浮かべる優しそうな男性だった。
「篠田湊介さんよ。私の婚約者」
篠田さんは照れ臭そうにしながら、私に向かって頭を下げた。
「初めまして。お会いできて嬉しいです」
私も慌てて挨拶をする。篠田さんは、義妹の言う通り、とても優しくて穏やかな男性だった。とてもいい人。気配り上手で、おおらかで、包容力のある人間だということが短時間で分かるほどに。
「いい人ね」
私が小声でそう言うと、美桜はモジモジしながら頷いた。
この美しい義妹が結婚する。不思議なことに、私はその事に対してモヤモヤしていた。何か、心の中にしこりが残っているような、釈然としないこの気持ち。この時の気持ちを、どう表現すればいいのか分からない。姉の私よりも早く結婚する妹が羨ましかったのかもしれない。義妹の選んだ男が、想像以上にいい人だったから。
自分の気持ちをそう分析しながら、義妹とその恋人を見つめていた。
きっと盛大な結婚式を挙げるのだろう、と予想していた。しかし、美桜の話によると、式をするかどうか迷っているらしい。どうやら篠田さんは家族が全員亡くなっており、親しい親族もいないとの事だった。それは父が許さないのではないか、と思ったが、美桜はなんとか説得すると言っていた。
「お姉さんは、応援してくれるよね?」
そう言われて、嫌な気持ちは隠したまま、私はにこやかに頷いた。
今でも、後悔している。
--美桜と会うべきじゃなかった。
--美桜なんか嫌いだと、ハッキリとそう言えばよかった。
--さっさと、絶縁して、逃げればよかった。
そうすれば、私のつまらない人生は、そのまま変わらなかったのに。
あの日。私の運命が変わったあの日。
妹の結婚を反対していた父だったが、妹の説得により、ようやく篠田さんと会う気になったらしく、家族全員で食事をすることになった。
その日は、空が曇っていて、どこか空気が冷たく感じられた。
私は、美桜と約束した時間に遅れそうになっていて焦っていた。待ち合わせ場所に向かって、必死に走る。遅刻は嫌いだ。もう少しで到着する、という時、信号が赤になってしまった。慌てて立ち止まる。もしかしたら、本当に遅刻するかもしれない。そう思って鞄からスマホを取り出し、時計を確認する。そんなことをしていたから、周囲の人々の動きや声に反応するのが遅れた。
「危ない!!」
そう叫んだのは、誰だったのだろう。
何か大きな衝撃を受けて、背中を強く打つ。奇妙な音が聞こえて、咄嗟に目を閉じる。すぐに私の意識は遠くなった。
目が覚めると、そこは病院のベッドの上だった。
なぜ、そんな場所にいるのか分からなくて、すぐに駆けつけてくれた医師や看護師に尋ねる。彼らは気まずそうにしながらも話してくれた。
あの日、私に向かって、居眠り運転のトラックが突っ込んできたらしい。私がほとんど怪我もせずに生き残ったのは、美桜の婚約者である篠田さんのおかげだった。彼は私が事故に巻き込まれるのを目撃して、咄嗟に飛び込んで、庇ってくれたらしい。
呆然とした私に、医師は更に衝撃的なことを説明した。
私を庇った篠田さんは、頭を強く打った。
そして、その打ち所が悪く、私が目覚める数分前に亡くなった。
「……は」
あまりの衝撃に、小さな声が漏れる。
こんなの、嘘だ。ありえない。現実とは思えない。
私は、きっと夢を見ている。悪い夢だ。これは、現実なんかじゃない。
--だから、早く目を覚まして
「お姉さん」
私を現実に戻してくれたのは、大嫌いな義妹だった。
静かに病室へと入ってきた義妹は、こちらを暗い瞳で真っ直ぐに見つめていた。
あなたのせいじゃない、と何度も言われた。両親にも、警察にも、医師にも、看護師にも、親戚達にも。
だけど、私が原因であることは明白だ。
私の存在が義妹の愛する人を死に追いやった。それは確かな事実で、もはや覆らない。
もう、美桜の愛する人は、二度と戻ってこないのだ。
葬儀が終わっても、美桜は私を責めてこない。いや、それどころか、何も言ってこない。
「ごめんなさい……」
葬儀が終わった後、一人ぼっちで部屋に座り込む美桜に私は土下座をした。
「何度謝っても、許されないことをした。本当に、ごめんなさい……」
美桜は何も言わない。
「……どんな償いでも、する。何でも、するから……」
どうしてこんなことを言ってしまったのだろう。
「--本当に?」
美桜が小さな声を出した。ハッとして、思わず頭を上げそうになる。しかし、そのまま言葉を続けた。
「ええ。あなたが、望むのならば何でもする」
そう言うと、美桜が動く気配がした。
「そう……何でも、してくれるんだ」
美桜が、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。
「顔を上げて、お姉さん」
言われた通り、顔を上げるとこちらを真っ直ぐに見つめてくる美桜と目があった。その美しい瞳は、ギラギラと奇妙な光を放っていて、私は思わず目を見開いた。
「だったら、慰めてよ」
次の瞬間、私は押し倒された。背中に畳の固さを感じる。上では、美しい義妹が微笑んでいる。
「み、美桜--」
抵抗するために腕を動かそうとする。しかし、
「何でも、してくれんだよね」
美桜の言葉で、腕の動きは止まった。
「ねえ、お姉さん。私、寂しいの」
耳元で囁かれ、軽く耳朶を噛まれて、思わず悲鳴をあげそうになった。そのまま、耳をベロリと舐められる。
「な、にを……美桜、やめて」
耐えきれなくて小さく声を出すと、美桜は再び囁いた。
「さっきの言葉は、嘘なの?口先だけ?」
その言葉に泣きそうになりながら、首を横に振る。
「ち、がう……だけど」
「じゃあ、できるよね?」
美桜の手が、服の中へと入ってくる。
「ね?お姉さん」
私の身体のあちこちに触れてくる。
「償ってくれるんだよね?」
その言葉に、全身の力が抜けた。
どうしてこんなことになったのだろう。
あの日から、私は義妹のために生きている。
いや、義妹に飼われている、といった方が正しいのかもしれない。
あの後、呆然としていた私はいつの間にか美桜によって高級マンションに連れこられた。
「今日から、ここがお姉さんと私の家だからね」
いつの間に、こんなマンションを用意していたのだろう。
――ここは、私を閉じ込める大きな檻だ。
別に扉に鍵をかけられているわけじゃない。その気になればいつでも外に出られる。
だが、私は、美桜の許可なく、ここから出ることは許されない。
どうやったのか分からないが、いつの間にか会社も辞めさせられていた。
「お姉さんは、私のために生きてね。これから、一生」
父と義母にどういう説明をしたのか、分からない。だが、きっと2人とも美桜に上手く言いくるめられたのだろう。
この大きな檻の中で、毎日掃除をして、洗濯をして、料理をする事が、私の仕事になった。夜になると、仕事から帰ってきた義妹を迎え入れる。
そして、1日の終わりには、必ず義妹に押し倒され、身体を求められた。
「お姉さん、お姉さん……ずっと、ここにいて」
何度もベッドの中で囁かれた。
「これが、私の望みなの」
私は、もう何も抵抗できない。
「お姉さん、これは、償いだからね」
そう。これは、彼女への贖罪。
私は、一生をかけて償うべきだ。
「ねえ、お姉さん。絶対に逃がさないから」
後ろから、強い力で抱き締められる。もう、この細い腕から逃げることは許されないのだろう。
美桜の唇が、私の身体を這う。それを感じながら、窓へと視線を向けると、冬の暗い曇り空が視界に入ってくる。知らず知らずのうちに、涙が流れるのを感じた。
大嫌いな春は、まだ来ない。
◇◇◇
異母姉に嫌われている事は、知っていた。
仕方ないとは思う。私は愛人の娘なのだから。
だけど、それでも、私は姉の事が好きだった。
私は、容姿に恵まれていて、勉強やスポーツもそれなりにできる人間だった。
私が誉められる度に、姉は背を向ける。その背中をよく見ると、微かに震えているのが分かった。何にも言わずに、一人で悲しみに耐えるその姿を見ると、なぜかゾクゾクした。
悔しさや悲しさに我慢している顔を見ると、もっと興奮した。
自分がおかしいことは分かっている。姉にこんな劣情を抱くなんて。
だけど、好きになったものは仕方ないじゃないか。
姉に気持ちを打ち明ける事はないと思っていた。これは、あまりにも歪んだ想いだから。
どうしてもこの想いは止められなかった。姉の顔を見るだけで、醜い欲望が溢れだしそうになるのを必死に抑えた。
姉が大学に入学する時に、私から離れてしまったのは悲しかった。でも、いい機会だとも思った。これで、私の中の姉への歪な感情がなくなるかもしれないと期待した。
期待通り、姉と距離を置くことで、私は少しだけ落ち着いた気がする。多くの友人と大学生活を楽しみ、卒業後は父の会社に就職して忙しく働くことで、姉への想いは少しずつ小さくなっていった。
そう思っていた。
私は、馬鹿だった。愚かだった。
姉への想いは、絶対に消えることなんてない。
少しだけ離れたからといって、この欲望が枯渇することなんて決してない。
本当は分かっていたのだ。
自分がおかしいということを。
父の会社で、篠田さんと知り合えたのは幸運だった。彼は、本当に真面目でいい人で、私の事を心から好きになってくれた。だから、告白された時にそれを受け入れた。
彼は本当に穏やかで優しい人で、付き合っている時は楽しかった。プロポーズされた時も、迷わずに頷いた。姉への想いは消えたわけではない。私の中では、やはり姉が一番だったけど、姉が私を受け入れてくれることはなかったから、彼と結婚すれば姉の事を忘れられるかもしれない、と思った。彼の事は普通に、それなりに愛していた思う。
今思えば、優しい彼に対して、本当にひどいことをしてしまった。
篠田さんが姉を庇って亡くなった。
それを聞いた時は、本当にショックだった。悲しかった。それは、私の本当の気持ちだ。あんなにもいい人が、呆気なくこの世から消えてしまうなんて。
喪失感で頭がぐちゃぐちゃになる。悲しくて、寂しくて、心が痛い。
ああ、だけど、
「……どんな償いでも、する。何でも、するから……」
彼の死にたいして責任を感じる姉の言葉に、醜い欲望が抑えきれなかった私は、もう人間として終わっている。
ごめんなさい、篠田さん。私も心の中で何度も謝った。あなたの死を利用して、本当にごめんなさい。
きっと何度謝っても、許されないだろう。
私の言葉に逆らえず、私の下で、私の行為に声をあげる姉を見て、私は想像以上に興奮を抑えきれなかった。
姉が。私を嫌うあの姉が、私だけのものになった。
もう、この人は、私のために生きていくしか道はない。
ああ、なんて幸せなのだろう。
「お姉さん、これは償いだからね」
耳元で囁くだけで、姉は何も抵抗しなくなる。
その日、私は、思う存分姉を可愛がることに成功した。
その後、私は素早く行動した。姉のために、高級なマンションを用意して、面倒くさい手続きをして姉の仕事を辞めさせた。
そして、そのまま姉を大きな檻に閉じ込めた。
もう逃がさない。償い、という鎖で姉を一生縛り付ける。私だけが、姉を支配し、姉のための世界を作るのだ。
大丈夫。両親なんて、適当に誤魔化せば、簡単に納得させられる。
だから、お姉さん。
どこにも行かないでね。
ああ、私はきっと地獄に落ちるだろう。だが、それがどうした?そんなの大した問題じゃない。姉さえそばにいてくれるのならば、私は何にもいらないのだから。
「お姉さん」
私は小さく呼びかけながら、姉の身体にキスを落とす。
姉の瞳から小さな雫が零れ落ちる。
私はそれを綺麗だな、と思って、また笑った。