表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

神様のつぐない

作者: 貴志 恵

ふと頭に思い浮かんでその2時間後には形になって投稿してる…だと!?

(初めて完全フィクションのようなファンタジーのようなものを書きました、よろしくお願いします)

2022.1.10 悩んだ末ジャンル移動をしました。

そこの人の子の魂くん、近くに天使も見えないが何をしておるのだね?


……なるほど、地上から天界に持ってきた魂を綺麗にする時に天使が君だけ落としてしまったのか。

そのうち気づいた天使が君を拾いに来るじゃろう。

それまでこの私が人間の面白い話をしてあげよう。


なに、君の魂が洗濯されれば忘れてしまうことじゃ、聞いても問題は無い。

暇つぶしとでも思いなさい。


私は人の子をからかうのが好きでな。

よく人の子の夢に介入し、いくつか質問を投げかけては困る様を楽しんでおった。


性格が悪い、と?

君、なかなか生前はイイ性格をしておったようじゃの。


まあ、聞きなさい。

ある時目星をつけた人の子の夢に入ると、私は驚いた。

その子の夢では、その子は怪獣に追いかけられていたと思うと、次の瞬間には宇宙を素っ裸で漂っている。

他にも言う事には尽きないが、とにかく突拍子もないことがコロコロと移り変わる不思議な夢じゃった。


しかし面白がってその子の夢を観察しているうちに夜が明けてしまい、夢の主が起きてしまったので質問は出来なかった。

私はどうしてもその子と喋ってみたくてなあ。数日その子の行動を覗いてどんな子なのか調べてみたのじゃ。


まだ子孫を残すには早い年頃の子でな、よく本を読んでおった。

年頃にしては難しい本ばかり好んで選んで。

私にとっちゃあ人の子の空想を煮詰めた物語なぞ、鼻で笑ってしまいそうなものじゃったが、その子はいつも嬉しそうにして本にかじりついておったよ。


その子は特に、ある物語を何回も何回も読み直していて、その本だけは擦り切れて表紙が取れてしまいそうな程じゃった。

人の世に詳しい天使に聞けば、それは数十年続いている物語なのじゃと。

たった1人が懸命に少しづつ書いてつくっているものを、多くの人の子が読んでいて、その子もまた愛しているらしかった。


ここで私は閃いた。

何をかって、夢の中の質問で何を聞くかじゃよ。


私は思いついたその日の夜、その子の夢にお邪魔した。

顔を合わせるとその子は怯えた顔で子鹿のように震えていた。

そりゃあ自分しかいない夢の世界に見知らぬ何かが入ってきたら怖くてどうにかなりそうじゃ。

私だってそうなる。


それはさておき、私は早速その子に質問をしてみた。


『君のもっとも大事な物語が、君が生きていると君を含む人々全員の記憶から消え失せ、君が死ぬと今のまま残って愛され続ける。選ぶならどちら?』


数日この子を観察して、最も葛藤するのはこの問いだと感じた。

それを見たくてこの子に質問したのじゃ。


その子はしばらく何も言わずにいたが、意味を理解すると頭を抱え蹲って考え始めた。


その子は親兄弟にも周りの友達にも全く問題なく幸せに暮らしていた、本当に恵まれた子どもじゃった。

さればこそ、この質問にこの子は面白い答えをしてくれるに違いないと、そう思った。


しかし、その子はようやっと立ち上がるとしゃくり上げながらボロボロ涙をこぼし、ついには声を上げてわんわん泣き始めたじゃあないか。

今まで質問してきた人の子らの反応でこれほど激しいものは無かったからまこと仰天したものじゃ。


どうしたものかと考えつつも眺めておったら、その子は涙をぐしぐしと手の甲で拭って詰まり詰まり私に答えをくれた。


『あの話は本当に面白いの。知らない人に絶対読んで欲しい。私のだいすきなものなの』


神様?も読んでね。

そう言うとその子は私が何か言うのを待つことなく、小さな手に余るくらいの、大きさの包丁を夢の中で創り出し、両手で持って力強く、自身の喉を掻き切った。


後で知ったのじゃが、私のこの見た目は人の子には恐怖でしかなかったらしい。

それがちいさなあの子を思いつめさせ、究極の選択へ追いやったのじゃ。

必死だったのじゃろうな。



……君も私のことが怖いか?


……先程の遠慮のない物言いはどうした?全く無駄な気遣いをしおって。


まあ、その後私はその子の夢から出たが、さほど深刻にはとらえておらなんだ。

むしろ、素晴らしい答えを聞けた事で高揚までもしていた。

生物としての要の自分の命よりも大事な物がある人間という生きものの素晴らしさを初めて知った。


それに夢で何をしようがそれは夢の事。

夢の出来事は夢の中限定でしかなく、目覚めればあの子はまた日常に戻るのだろうと疑っていなかった。


しかし翌朝になっても、

3日経とうとも、

1週間が過ぎても、

1ヶ月が経とうとも

あの子は痩せ細っても目を開かず眠り続けた。


私は悟った。

あの子の覚悟は夢の中といえど本物だったのだと。

大事なものの為の決意こそがあの涙だったと理解した。


私はあの子の魂を体から切り離し、ここまで連れてきて新たな命を与えて次の生に送り出した。

魂の洗濯をして記憶を消したというのに、あの子は次の生でもだいすきなものは変わっていないようじゃ。

それを知った時は少し救われた気持ちがしたもんじゃ。



あの子を死なせてしまってからは、人の子で遊ぶなど全く考えられなくなった。

他の大事なモノのために自分の命を盾にするなど、人の子にしか出来んことと分かってしまったからの……。




なぁ、君には大事なモノはあったかね?

……いや、元々君が天寿を全うせずにこちらに来たようだから、声をかけたのじゃよ。


もし無かったなら、これを勧めておこう。

あの子がさいごに教えてくれた本じゃ。

これがなかなかに面白くてなぁ、人の子が書いたものと馬鹿にするものじゃあないぞ。

あの子がいつか今の天寿を全うしてここに来たら、今度は語り合おうと思って何度も読んでおるのだ。


……きっと楽しいと君も思うじゃろう?



ほれ、もうそろそろ天使が迎えにくるぞ。

君はこれから洗濯を経てまっさらになって、次の生を送るのじゃ。


……今度は、それの為に生きることができるような、

命と同じくらい大事な何かが見つけられるとよいな。




さあ行ってこい!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ