一方、エクスティア神聖国では・・・
『』は創造神エクスティアと聖女カミラ・スカーレットの脳内での会話です。
「」は普通のセリフです。
話はハルトが異世界に降臨する2日前までに遡る・・・
エクスティアは自身の使徒であるハルトの転生用の体を想像以上に創り終えてしまった。普段は半日以上をゴロゴロのんびりとして過ごし、数時間だけしっかり仕事する彼女だが、今回初めて自分に『使徒』と呼ぶべき代理人ができたことがとても嬉しく数日間かけて消化しようと思っていた事案を数時間で全て片付け残りの時間全てを陽翔の転生用の体作成に費やしていたのだ。その結果、彼の体はもはや人間のスペックを遥かに超えてしまい下位~中位神族にも匹敵する程のハイスペックになってしまった。
そんなことを微塵にも気にしない彼女なのだが、満足感から暫くボーッとしているとふと重要なことを思い出した。
そう、それは彼に現世で協力してくれる仲間や協力者がいないことだった。
どうしようかとオロオロしている彼女だったが、急に何もない空間にワープゾーンとでもいうような黒い穴が開き、そこから自身の秘書官であるエリスフィールがティーセットを持ってやってきた。
「エクスティア様、少し落ち着いてください。ティーセットを持ってきましたので休憩にしませんか?」
「そうね、私ったらダメね。ハルトのことになるとついオロオロしちゃうわ。」
「それはハルト様がエクスティア様にとって初めての使徒であり、自分で色々と調整してあげたからではないですか?」
「多分ね。」
エリスフィールのおかげでエクスティアは落ち着きを取り戻し、暫く仕事のことや気になっている異性のこと、部下や同僚の神々の愚痴や賞賛すべきことなど様々な話に没頭した。その様子はまるで年頃の少女二人が優雅にティーパーティーを楽しんでいるかのようだった。
話したいことがなくなると二人はやっと本題に入った。
「さて、本題ですが現世でハルトに協力してくれる仲間がいない問題があるのよ。」
「そのことですが、下界にエクスティア様とコンタクトができる聖女がいたではありませんか。彼女に協力を仰ぐのはどうですか?」
「あーそう言えばいたわね。確かカミラ・スカーレットだったかしら?彼女なら私から『神託』として楽につなぐことができるからいいわね。じゃあ、彼女にするわ」
「それが宜しいかと。」
ハルトの下界での協力者が決まるとエクスティアとエリスフィールはカップに残っていた紅茶を飲み干し、神託を卸すために席を立っていった。
******************************
そんな大事な神託が創造神から直接下ることなど微塵も思っていない彼女は今、王宮内の最奥にある室内で沐浴を楽しんでいた。
そう、沐浴を楽しんでいる彼女こそがカミラ・スカ―レットである。燃えるような真っ赤な髪を腰まで伸ばし下の方を大きな黒いリボンで結んでおり、瞳はサファイアブルーでクリクリしていてとても美しい25歳だ。それに身長も165cmと女性にしてはやや大きい。
とても美しい彼女だが、権力はエクスティア神聖国内では国王よりも強い。しかし、彼女は滅多に政治的なことには参加はしないが、よっぽど政策が悪い場合は問答無用で口を挟み独断と偏見でバッサバッサと切り捨て変更し、納得できるものができたら自分でハンコウを押し施行してしまう。他者からは「自分勝手だ」「独裁だ」「自分でやりたいなら、初めから全て自分でやればいい」と家臣たちからは毛嫌いされているが、大臣や国王、メイドなど多くの人たちからはその無謀とも言える行動を賞賛する声があり、とても人気がある。
そんな彼女がこの世で一番信頼しているものが創造神エクスティアからの神託と自分の直感と心だ。エクスティアから初めて神託を貰った時にエクスティアの考えや教えを聞き、まだ10代だった彼女には理解することは難しかったが歳を取るにつれエクスティアの考えや教えを学んでいくうちに「自分も創造神様みたいに人々に説き、導きたい」と思うようになった。今ではエクスティアの思想に賛同し一日に数十回もお祈りを捧げるほど崇拝している。
そんな沐浴を楽しんでいる彼女に急に神託が下された。
『カミラ・スカーレットお久しぶりです。今日は貴方に新たな神託を授けに来ました。』
『エクスティア様、お久しぶりでございます。神託とはなんでしょう?』
『それはですね、今から2日ほど前下界に私の使徒を卸しました。目的は世界情勢の吟味のためです。私がこの世界を見る限り、自分の欲望のことしか考えていない人間や悪意の心しか持たない個々人や国が多いように見えます。もちろん、善心だけになりなさいとは言いませんし、不可能なのはわかっています。光があれば闇がある。この2つがあって生物は成り立つ。故にこの2つのバランスがとても大事になってきます。しかし、今この2つのバランスが均等ではなくなり悪心の方が多くなってきています。その均衡を図るためまたは善心の占める割合を多くしてもらうために使途を卸しました。彼は今は暗黒地帯にいると思いますが、彼には一番最初にこの国に来るようにと指示を出しておきました。そこで貴方には彼がこの国に来たら全面的に協力して欲しいのです。もちろん、私の使徒が来ることは官僚や大臣、国王に言ってもらっても構いません。頼めますか?』
『そういうことでしたら畏まりました。お受け致します。それで、使徒様の名前はなんていうのでしょうか?』
『彼の名はハルトです。この世界では珍しい銀髪をしているため見ればすぐにわかるでしょう』
『ハルト様。素晴らしいお名前です。わかりました、ハルト様がこの国に来られた際は全力で協力することに致します』
「宜しくお願いしますね、カミラ・スカーレット。それともし、約束をたがえた場合は神力でこの国を滅ぼしますからね」
そう言い残しエクスティアはカミラと話すのを止め神託を終了させた。
「はぁーこれは面倒なことになりましたね。創造神様が使徒様を遣わすということは神々はいつまでも進歩しない私たち人間の行いに嫌気がさしたのでしょう。」
と大きな溜め息を付きながらも急ぎで身支度を整え、神託が下りたことを国王や各大臣たちに伝達に行くのであった。