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砂の塔の一言主  作者: 九JACK
第1部
1/11

願え、一言だけ

 哀れな子どもだと思った。

 両の目が異なる色をしているというだけで、人間に差別され、神として扱われ、悪魔として疎まれた。

 人間が異なる目で生まれることは稀だが、度々あることだ。外の世界を知らない者たちからすれば異端かもしれないが、様々な人間を見てきた我からすれば、その子どもの片方の目を抉った人間たちは異様で、哀れだった。その日を生きることで精一杯の熱砂の土地に住む者たち。他の地を知る余地もなく過ごした彼らが、異様なものを神として崇めたり、悪魔として罵ったりするのは、日々を懸命に生きる彼らなりの術だったのかもしれない。

 けれどやはり、目を抉られてしまったその子どもは哀れだった。街の者以上に哀れだ。我の瞬き一つも終わらないうちに死ぬのだから。

 故に、我はその子どもに名乗る。

「我は一言主(ひとことぬし)。一言だけなら願いを叶えられる、人間たちが神と崇めるべきものだ」

「ひとこと……?」

「哀れな子どもよ。お前の願いはなんだ? 一言であれば叶えてやるぞ」

「……」


 砂上の楼閣。

 目を抉られた子どもと我が暮らしていたのはまさにそれだった。いつ崩れるとも知れない、危うい場所。まあ暮らしていた、というよりは閉じ込められていた、というのが正しい。無論神である我は勝手にここにいたわけだが。

「砂の塔が崩れたね」

「お前が願ったからだ」

「僕、別に塔を崩してほしいなんて言ってないよ」

「お前がここにいることを望まなかったから、崩れたのだ。遅かれ早かれ崩れてはいただろうが。我に願ったこと、後悔はないか?」

 そう問うと、子どもはうーん、と悩んだ。抉られた目は長い前髪の下に隠れている。肌にはまだ血の色がこびりついているが、彼は生きていた。

 後悔は先に立たない。無論、我もそれは認知している。ただ、独りだったこの子どもにこれ以上孤独を背負わせるのもいかがなものか、と考えたのだ。

 けれど、子どもは笑った。にこやかというには儚げで寂しさが滲んでいたが、子どもがするような笑顔ではなかった。先程まで死にそうだった人物がする顔でもなかった。

「後悔してない。僕の居場所はここじゃなかった。それだけ」

 まだ十にも満たぬ子どもだというのに、随分達観したことを言う。抉られた目のことも、仕方ないと思っている風だった。あと少し遅ければ、死んでいたかもしれないというのに。

 その達観が、我に久方ぶりの興味を抱かせたのかもしれない。

 我は一言主。一言だけなら願いを叶える神である。気紛れに人の前に姿を現し、人に恐れられては依り代を殺されてきた。

 それをすんなり受け入れたこの子どもに興味が湧いた。それに、この人間となら、共生できるだろう。我を殺さない人間となら。

「あのさ、一言主、もう一つ、願いを言っていい?」

「一言ならば」

 崩れていく砂上の楼閣を背にし、子どもは告げた。

「旅がしたい」


 我は一言主。一言ならば、なんでも願いを叶えてやろう。



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