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第二話 不運スキル所持者

○浮遊島ダンジョンセブンス、中山銀二回想○


 この浮遊島ダンジョンセブンスの探索を始めて半年あまり。

 もう隅々まで探索はやり終えたつもりだし、この浮遊島ダンジョンに何か秘密があるとすれば、この祭壇の転移トラップの行先くらいだ。


 さあ、鬼が出るか蛇が出るか・・・男なら、行ってみるしかねぇよな。


 俺が意を決してその転移トラップの中央まで歩み出ると、足元の魔法陣が輝き出し、光の渦が身体を飲み込んだ。


 うわぁっ!


 やがてその光が晴れ、辺りを見渡してみると、そこは美しい女神像が奉られた、入口も出口も無い、石造りの部屋と言った感じの場所だった。

 そして俺が女神像のあまりの神々しさに、思わず祈りのポーズを捧げると、その女神像は輝きだし、まるでレベルアップした時の様なアナウンスが頭に響いたんだ。


『むぅ、汝、その秩序なきスキルのすべてを捧げれば、我への信仰を授けよう。』


 なにっ、スキルのすべてを捧げるだと・・・バカ言っちゃいけない。

 信仰ってのが何なのか、皆目見当もつかないが、スキルは、これまでの俺の血と汗と涙の結晶だぞ。

 そう簡単に手放せるもんじゃないだろっ。

 それにスキルを失っちまえば、Sランク探索者としての実力も無くなりかねないし、一からやり直すには、俺は年を取りすぎてるっ。

 つーか、この女神像は一体何なんだっ?


 と俺が思考を巡らせていると、冷淡な声が頭に響く。


『時は満ちた。それでは帰られよ。』


「なっ、ちょっと待て。まだ返事は・・・」


 俺の言葉を遮るように、女神像の輝きは失われ、その後何度祈りを捧げようとも、返事はかえってこない。

 そして俺の身体が再び輝きに包まれると、気が付けば元の転移トラップの上。

 浮遊島ダンジョン側の転移トラップに再び乗ってみても、二度と発動されることは無かった。


 くそっ、迷いのある者には、永遠にこの道は閉ざされるってことか。


 情けねぇ、この俺としたことが、日和っちまうとは・・・


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○霧島家、二階居住スペース、客間○


「とまあこんなことがあった訳だ。どうだろう、幸ちゃん。俺の代わりにこの女神像の信仰とやらの正体を突き止めて来てくれないか?」


 ふむ、まあ、Sランクの銀二叔父さんが同行してくれるって言うなら、俺の様な資格だけのペーパー探索者が浮遊島ダンジョンへ行ったとしても、危険は無いだろう。

 しかしこんな興味をそそる話、Sランクの叔父さんが声を掛ければ、喜んで協力してくれる人は大勢居るだろうに・・・


「何で俺?」


「それはほら、幸ちゃんって、スキル取得講座で『不運』スキルを取得しちゃって、探索者に成るの諦めたって言ってただろ。

 俺も取得したスキルを消滅させる方法なんて、これまで聞いたこと無かったし、どうかなって思ってね。」


 ああ、そっか・・・その女神像は、所持スキルを消滅させてくれる可能性があるってことか。


 高校一年の夏、俺は探索者資格を取得した。

 あの頃の俺は、体育の成績も良かったし、運動神経にも割と自信がある方だった。

 そんな訳で、数多の探索者を夢見る高校生達の中にあって、その夢への切望は、一際群を抜いていたかもしれない。


 ところが、その資格試験の試験後に行われた恩恵取得の為のスキル取得講座で、ある悲劇が発生する。


 恩恵取得というのは、ダンジョンに初めて入った人が、ものの数分でスキルを取得できてしまうという不思議な現象で、この世界では誰もが知ってるスキル取得形態の一つである。

 そしてまた、この恩恵取得は、『狙ったスキルが取れなくもない』という特徴も持っていたりする。

 具体的に言うなら、ダンジョンに初めて入ってからの数分間における行動如何で、恩恵取得されるスキルにある程度自分の望む形に方向づけすることが出来るといった感じだろうか。

 そしてその数分間の行動に関して、指導やアイテムサポート等を行ってくれるのが、前述のスキル取得講座なのである。


 はてさて、話を戻してみると、俺が参加したその講座には、ひとつの問題があった。

 その問題とは、会場となったダンジョンのフロアが、受講者数に対してあまりにも狭すぎたのである。


 あの時、ダンジョン内の通路を進んでいた俺は、後続に押され、前に居た女性に覆いかぶさってしまった。

 俺が咄嗟に「どうも済みません。」と声を掛けると、彼女が返した台詞は「この人痴漢です。」だ。

 まあ確かに女性からしてみたら、そう受け取られたとしても致し方ない所業だったと我ながら思う。

 がしかし、あれは紛れもなく不可抗力。

 俺は断じて痴漢行為を働いてなど居なかったはず・・・


 がしかしここでゲームセット。

 無情にも悲劇を告げるアナウンスが、俺の頭の中に響いたのである。


『ピロリン。スキル『不運』を獲得しました。』


 この後の話だが、後ろにいた男性の証言と俺が取得したスキルから、何とか降りかかった痴漢疑惑は、晴らすことができた。

 もし俺が本当に痴漢行為をしていたとしたら、取得したスキルは『不運』ではなく、『痴漢』スキルになっていただろう。


 とまあ話が長くなってしまったが、かくしてこんなスキルを取得した俺は、探索者としての第一歩を踏み出すこともなく、探索者になる夢を諦めざるを得なくなったのは言うまでもない。


~~~~~~~~~~~~~~

『不運LV1』

種類 :パッシブ

効果 :LUK値補正-5。

~~~~~~~~~~~~~~


 何故ならこんなパッシブスキルを、ダンジョンに入ってこれ以上レベルアップさせる訳にはいかないからである。

 情報によればこのスキル、レベルが上がる毎にLUK値のマイナス補正が上昇し、レベルカンスト出来た人は存在しない。

 その理由は、スキルレベルが上がり、LUK値が-10になってしまう頃には、その人達すべてが、不慮の事故でこの世を去っているからに他ならない。


 最後にこの悲劇において唯一の救いを見出すとすれば、家業がダンジョンショップである俺は、店の幾つかの幸運アイテムにより、LUK値マイナス補正を直ぐ相殺でき、特段の不幸に見舞われずに済んだ事である。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「どうだろう、幸ちゃん。俺の頼みを引き受けちゃくれないか?」


グスン


 不覚にも、涙が頬をつたう。


 銀二叔父さんは、あの時俺が相談したこと、ずっと憶えててくれてたんだな。

 まああの時は、恥も外聞もなく、鼻水垂らして泣き散らかしていたけども・・・

 それにしたって、俺の夢を奪った『不運』スキル問題を解決してくれるために、忙しい身でありながら、わざわざあれから4年以上経った今、こうして家にまで来てくれるなんて・・・


「幸太郎、折角銀二がお前の為にって、この話を持って来てくれたんだ。

 こいつの話じゃ、取得したスキルがきれいさっぱり無くなっちまう可能性が高いらしいじゃねぇか。

 『不運』スキルのせいで、ダンジョンに入れねェ身体に成っちまったお前には、渡りに船な話だろ。

 おめぇが未だに探索者に成りてぇなんて考えてるかは知らん。

 が、おめぇが将来この店を継ぐなんてことを考えた場合でも、どうしたってBランク探索者の資格は必要になってくる。」


 分かってるって、親父。

 こんな話、断れるはずがないだろ。

 有り難すぎて、直ぐに言葉が出なかっただけだっつの。


「あっ、ありがとうございます。銀二叔父さん。」


「良かった。じゃあ幸ちゃん、早速準備して来てくれるかい?

 なぁに、俺には転移石があるから、浮遊島ダンジョンなんて言っても、30分もあれば戻って来れるさ。」

次回、第三話 転移トラップの秘密。

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