第一話 ダンジョンショップ『楽輝』
○ダンジョンショップ楽輝○
カランコロン
「いらっしゃいませ~。」
街外れに建てられた2階建ての建物。
外観はレンガ造り風で、少しお洒落な雰囲気を醸し出している。
この店が開店したのは今から10年ほど前、俺が小学5年の春だった。
それまで探索者をしていた親父が引退を決意し、大枚を叩いてこの店を建てたのである。
1階部分の店に入ると、中はコンビニくらいの大きさで、新聞、雑誌、お弁当、スナック菓子にカップ麺、お酒なんかも置いている。
ここだけ見ると、まんまコンビニなのだが、この時点で判断するあなたは慌てん坊。
他の商品棚には、携帯食糧、ランタン、シュラフ、固形燃料、一人用テントという品揃え。
そう、ここは普通のコンビニではない。
えっ、アウトドア商品に力を入れたコンビニだって?
いやいや、そう判断したくなるのも分かるが、そいつはこちらを見てからにして頂こう。
と俺が満を持してご紹介するのが、店内で一際異彩を放っている、カウンターのショ―ケース。
その中には魔鉄製のヨーヨー、フリスビー、ダーツ、竹とんぼ、けん玉、かざぐるまにトランプカードといった店長お手製の武器達?が、所狭しと並べられているのである。
「あのぉ、この店って普通の剣とか置いてないの?ここダンジョンショップだよね。」
ですよねぇ。あはは。
そう、何を隠そうこのお店、看板には『創作工房・ダンジョンショップ楽輝』と書かれた、れっきとしたダンジョンショップなのである。
ダンジョンショップとは、ダンジョンから産出されたアイテムの買取や販売、また素材を使った武器防具の販売、受注等々、ダンジョンに関する様々なものを取り扱うお店のこと。
そしてこんな店が存在するこの現実世界は、ダンジョンが出現して早100年。
探索者と呼ばれる者達が、足繁くダンジョンへと探索に赴き、そこで得られる様々な資源が有効活用されるようになっていたりする。
「うちの店は店長の趣味で、店頭にはちょっと変わった武器しか置いてないんですよ。奥の倉庫に初心者用の剣なら1本ありますけど、お持ちしましょうか?」
「ああ、良いよ。別に今日買うつもりって訳じゃなかったから。」
そう言って探索者風の若い男性客が帰って行く。
カランコロン
「ありがとうございました~。」
やっぱりショーケースには、剣とか弓とかもっと売れ筋の武器を入れとくべきだと思うんだよなぁ。
とこうして今現在、この個人経営のダンジョンショップ『楽輝』のカウンターに立っているのは、この俺、霧島幸太郎さん、20歳。
この店の店長である霧島敏夫の倅である。
小さい頃からよく店番などの手伝いをさせられて育った俺は、高校を卒業して以降、ずっとこの店の店員として実家の家業を手伝っているという訳だ。
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客が居なくなった店内。
暇な店番を続ける中、設置されているテレビモニターから、聞き覚えのある可愛らしい女性の声。
『皆さんこんにちは~。探索者アイドルの三角桃香でぇ~っす。日本全国ダンジョン巡り旅。第1回の今日はなんと、国内ダンジョン最北端、網走ダンジョンにやってきましたぁ~。』
『お外はとても寒いですが、ダンジョン内は17度。早速ダンジョンに入っちゃいましょう~。』
おっ、また一段とお綺麗になって・・・
俺がこうしてテレビから目が離せなくなってしまうくらいの三角ファンになったは、彼女が有名になる以前のお話。
実は俺とこの今や大人気探索者アイドルである三角桃香さんとは、同じ高校の同学年だったりするのである。
うちの高校のマドンナ的存在だった彼女が、『探索者アイドルプロジェクト』という某テレビ番組で、見事優勝してしまった時の衝撃は、今でも鮮明に目に焼き付いている。
一方、諸事情により、探索者の道を諦めざるを得なかった俺にとっては、正に雲の上の人。
彼女とはクラスも違ったし、遠くから見ているだけで、当時はドキドキしていたものだが、一度くらいはお話してみたかったものだ。
と俺がテレビに目をやっていると・・・
「お~い、幸太郎ぉ。ちょっと来い。」
我が家の居住スペースとなっている2階から、俺を呼ぶ親父の声。
ガチャリ
客間のドアを開けると、堀が深い精悍な顔立ちの中年紳士と冴えない中年太りのうちの親父が、向かい合わせでソファに座っている。
「何だよ親父、店番中だぞ。あっ、銀二叔父さん、お久しぶりです。」
「ああ、久しぶり。にしても幸ちゃん立派になったなぁ。」
「そっすかねぇ。そう言えば叔父さん、昨日探索者チャンネルに出てましたよね。」
「ああ、久しぶりに日本に帰ってくると、直ぐこれだ。まあテレビに出たところで、扱いはご意見番みたいな感じで、楽なもんだが。」
と挨拶を交わしたこの人は、中山銀二さん。
うちの親父の所属していたパーティーのリーダーだった人で、今やSランクソロ探索者にまでなっている日本を代表する探索者の一人。
小さい頃は偶に遊んで貰ったりしたものだが、俺からしたら、この人もまた雲の上の存在で、唯一の誇らしい知人といったところである。
にしても、こんなところで油を売っていられるほど、暇な人じゃないはずだけど・・・
「で、親父。用事って何だ?」
「それは、銀二の奴から説明して貰ってくれ。」
ん、何だろ?
「実はね、幸ちゃん。俺はこの半年間、ずっと浮遊島ダンジョンに行っていたんだ。」
親父がずっと連絡がつかないとか言ってた原因はそれか。
にしてもSランク探索者は国際ライセンスとして認められてるから、世界中の空を移動している浮遊島ダンジョンにだって、いつでも行ける。
ホ~ント、羨ましいことですなぁ。
「そこで見つけたのがこれだ。」
と叔父さんは一枚の写真を俺に見せた。
「ん、これがどうしたんですか?随分立派な祭壇の前に転移トラップがある写真ですけど。」
「これは只の転移トラップじゃない。何処かの神殿へと繋がってる転移トラップなんだよ。」
何処かの神殿とか・・・さっすが銀二叔父さん、浪漫溢れる話だな。
「試しにそのトラップに乗っかって、その神殿に行ってきた俺が言うんだから、間違いない。」
おお~、ちゃんと帰って来れたんだ。
にしても、何処へ飛ばされるか分からない転移トラップに、自分から引っ掛かりに行くとか・・・良くそんな危ないマネできるよな。
まあそうでもないと、Sランク探索者になんて、成れないのかもしれないけど。
「で、幸ちゃん。俺と一緒に、浮遊島ダンジョンに行ってみないか?」
へっ、なんで?
次回、第二話 不運スキル所持者。