幼馴染が嫌いだ
幼馴染はひどい。
「誠ってさーマジで友達いないよね?教室で話してんの私だけじゃーん。そりゃそんな豚みたいに冴えない顔と冴えない身体してたら女の子が話しかけてくれるわけないけど……同性にも話す人いないってやばくない??外面内面両方ゴミ屑じゃん」
幼馴染は僕を馬鹿にする。
「誠この前の球技大会、マジ下手くそだったよねー??あれバスケ?ドリブルの姿勢低すぎて田植えしてんのかと思ったわー!!ってか、シュートもやばくね?ゴールの後ろにスポッって入っちゃってさー??もしかして、競技間違えた?運動神経だけじゃなくてルールも覚えていない何て頭何つまってんの?何考えて生きてんの?」
幼馴染は僕に厳しい。
「誠ってさー?小学校の頃から塾に通ってて、私立中学落ちてここにきてるんだよねー?その割りにさー、あんまり成績良くなくない?クラスでも真ん中よりちょっと上くらいだし、少なくとも私よりは馬鹿だよねー?どういうこと?小学校の頃は有名私立受けるんだあお前らとは違うんだあとか言ってたけど、今どんな気持ちー??ねえ今どんな気持ちー???」
幼馴染は僕のことが嫌いだ。
「ほんとはあんたのこと心底嫌いなんだけど、家でめっちゃ聞かれるのよねえ。誠くんはどうだって。あんたのお母さんが、私以外話す人がいないからってせがんでくんのよ。よろしくお願いしますって。そりゃあんたには全く世話になったことないけど、お母さんには世話になってるから、仕方ないよねー??そういうこと。私、あんたのこととか大嫌いだから、そこだけはわかってて??いい??」
だから僕は決めたのだ。幼馴染、長田菜々子から距離を置くのだ。むしろ無視してやろう。そうしよう。
これまでそうして来れなかったのはいくつか訳がある。1つには菜々子がクラスの中心人物だったことだ。いわゆるスクールカースト上位、いじめる側の強者。彼女に楯突くことは、ただでさえちっぽけなクラスの居場所を更に無くすことになる。だからこれまで甘受してきた。
更に家同士の話もある。菜々子の母と僕の母はとても仲良しで、しかも親同士も幼馴染という奇跡の2人である。だからあまりに無下に扱うと、怒られるのは自分の方なのだ。
そういえばこんなこともあったな。
「誠さー??お母さんから聞いたんだけど、なんかラノベ?とかいうの書いてるらしいじゃん!」
昼休み、珍しく遠くから声をかけられた。振り向けばそこには、同じくスクールカースト上位の女子達4人。揃って冴えない僕の顔を見て嘲笑の限りを尽くしていた。
「マジで!!!!!きんも!!!マジでキモいキモい」
「あまりにキモすぎて鳥肌立ったわ!!!えっ、ちょっとまってしんどいしんどい」
「えーどんなんかいてるのー?読み上げてよー!!!」
周りの女子が囃し立てるから、結局その日は教室から逃げるように出ていくことになった。辛かった。
確かに自分は小説を書いている。ラノベではなく、小説家になろうというサイトで日々更新している。最近流行りの異世界転生もので、クラスで冴えない男の子が神様からもらったスキルで無双する、そんなストーリーだ。それの何が悪い。
そもそもオタクを馬鹿にするやつなんて時代遅れだ。クールジャパンという言葉を知らない時点で、彼女達の程度が知れるというものだ。今時ヤンキーでもアニメを見て、赤十字社やJAがアニメ画像をポスターに持ってくる、そんな世間の風潮だぞ??それをこんな風に馬鹿にされるとか……でも僕は、何も言い返せなかった。
そういえばこんなこともあった。中学1年生の時の臨海学校でのことだ。その頃から誰とも友達がいなかった僕は、家に引きこもって小説を書きゲームをする予定だった。行きたくなかったんだからしょうがない。
でも菜々子は、そんな僕にお構いなしで口撃をしてきた。
「何あんた引きこもってんのー?馬鹿じゃない??たった3日間一緒に生活できないとかほんと、社会不適合者!!あんたみたいなのがアニメ会社燃やしたり子供誘拐して襲ったりするのよ!!他人と馴染めないから失敗してんのに、社会のせいとかわけわかんないこと言い始めるのよ!!ねえ悔しくないの???同じ中学生なのにクラスの中心にいる人と、クラスで除け者にされてぼっちのまま誰とも絡めない人と、どこで差がついたんでしょう???あーそっかあ、生まれた時からかあ。なら仕方ない??な訳ないでしょばーーーかー!!!」
とここまで言われた僕はさっと布団に潜った。それでも罵声を飛ばしつつ、出発時間になって菜々子は部屋から出て行った。菜々子はすぐ、ひどいことを言う。それに耐えるのも、もう終わりだ。
中学2年生の春、僕は菜々子と疎遠になる決意をしたのだ。これ以上、彼女のパワハラじみた言動に振り回されたくなかったのだ。ぼっち?上等だ!!!