step to rain -sideC-
エリオリンスクのエリモネンス。目を開いて。
ずっとここにいたんだ。エリオライツスン。
エメラルド・フィッシュ。たゆたう水の中で。
私の瞳の色は一体、何の色なのーー?
エリオライススエリエンリッターリンクスンリンクルエリオヘーレンフェンリックスン。
次に目を開けた時、エメラルド・フィッシュは居なかった。代わりに、私の目が揺れる。そうか、翠魚は確かに私の中に。エラルーク・エリオツィン・エリエットーーエラメイアスーーエリツィーーン。
『大滅魔法器第六番被験体が成功。定着です』
『大聖希があれば私は何だって出来る。あの雨の街の片隅で震えていた私にだって、雨を消すことだって、叶えられる。もう雨に怯えないで暮らすことができる! 私の生涯における研究を馬鹿にし、踏みにじってきた奴等を、永遠の真実と捏造の狭間に突き落としてやろう。培養液、抜渠せよ。新しい時代を作ろう、私達のーー私だけの!』
『抜渠、開始ーー』
私は陸に上げられて。息が苦しくなって、水を吐き出す。透明な筒が上がって開いて、私は初めて空気に触れて、その寒さに体を震わせた。エリモツィンスク・リンクレット。老爺は両手を掲げて嗤う。
『大聖希よ、私に永遠の命をーー!?』
気がついた時、私達は走っていた。私のおぼつかない足取りを引き、前を行くのは、茶の髪ーー研究職では一番位が低いと揶揄されていた女の人だった。
『神様、私達をどうかお守り下さいーー』
祈るその人の後ろから、武装した警備の兵隊が追ってくる。
追い詰められて。アンクリエット。
突き付けられた銃口は冷たいほどの冷静な激情で。エンクラリアント。エラツス。
突き飛ばされた私は、ぼんやりと女の人が捕まえられて手を伸ばし、私に向けて叫んだ言葉を聞いたとき、私の中にある、元は魚のようだったものが変化したものが、目を覚ますような気がした。
その瞬間、発射される銃弾が、全て消える。私の中の何かが、それをしていないことにしたのだった。あとはーーリ・クァンターリエーーラフォスンーース。
女の人は私を家に上げて、私に羽織らせていた研究服以外の服を着せてくれた。
『やっぱり、ぴったりね。娘が生きていたなら怒られるかもだけど、もう、居ないものね』
白と青の、なんだかうれしくなる服は、着た後は、少しだけ哀しい涙の匂いがした。
『ありがとう。私、やっぱ研究員向いてなかった。実家に戻ってケーキを焼いて売る生活も、悪くない歳にもなったーー生きてて、よかった』
ありがとう、ともう一度行った女の人は、聞いて、と言う。
『あなたは雨の街に行く方がいい。あそこはあなたが必要になるし、あなたの強すぎる力も降り続く雨で抑えられる。重い宿命も、軽やかに生きることだって許される。忘れないで。これからあなたは自由に生きられるんだっていうこと。あなたを生きづらくさせる人は、もう居ないんだっていうことーー私のことも』
私は私の中の何かが頷くよりも確かで、でも見ることはできない何かがあった気がした。私はーーエリオスィン。エルスィ。
雨街の待ち人おらずは一人諸事。
おらずして広まりしは聖の光布。
あやうき身の受け募るは母の孝。
オールドコードにさそわしらう。
『行く宛てがないなら教会に行きな。神様は君を守り、あなたの道を指し示す』
「言ったろう? 道が見えるって、さ」