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第二話「事の次第」


 空き家の二階にある一室で、髪に引っ掛かった蜘蛛の巣を払いながら部屋の中をぐるりと見回します。

 部屋の窓ガラスは割れ、タンスや棚は乱雑に荒され、寝具もボロボロ。二階の他の部屋も見てみましたが、どれもが同じような状況でした。

 先ほどロイドが言っていたように、恐らくは盗賊の類の仕業でしょう。魔獣や獣はこんな荒し方はしない。

 酷い状態ではありますが、幸いなことに血痕などの痕跡は見当たりませんでした。それだけは幸いと言えるでしょう。

 しかしまぁ、本当にどこの国にも似たような輩はいるものです。

 止むを得ずという事はあるやもしれませんが……そんな事で手に入れたお金でご飯を食べても美味しくはないと思うんですがね。

 いや、空き家といえど勝手に他人様の家にお邪魔をして家探ししている私も似たようなものかもしれませんが。

  

 ……さて、とりあえず空き家の二階は粗方調べ終わりましたね。

 満月のおかげで明るいとは言え、それでも夜は夜です。あとは昼間になってからでないと分からない部分もあるでしょう。

 ランとロイドもそろそろ怪我の手当てが終わっているでしょうし、いったん彼らの所へ戻りましょうか。

 そう決めると廊下へ出て、一階へ続く階段を降りてきます。階段の中腹辺りにも割れた窓があり、そこからひんやりとした風が吹き込んでいました。

 春の夜はまだまだ肌寒いですね。

 ……本当ならばランもロイドも故郷で暮らしているはずだったんですが、本当に申し訳ない事になったものです。

 そんな事を思いながら割れた窓から空を見上げると、思わずため息が出ました。


 改めて、私ことスノーはサジェス王国という国の出身です。

 知恵の国と呼ばれるサジェスは、古くから高い技術力を持って成長して来ました。痩せた土地と魔獣達から身を守る為に技術力を発達させた、という方が正しいかもしれません。

 サジェス王国の歴代の王は学者や発明家である事が多く、国民の暮らしを楽にする為に知恵を振り絞り、様々な政策や道具を作ったと言われています。

 そんなサジェス帝国の先々代の王様、その弟の娘が私の母。こんな私でも一応は王族の血筋なんですよ。すごいでしょう?

 なーんて、ちょっと偉そうにしてみましたが、実際の所は名ばかりなんですよ。


 それでも先々代の王弟――私の祖父ですね。権力争いの場に担ぎ出されそうになる事も少なくはなかったそうです。

 祖父はは「兄弟で争うなんて面倒くさい、私は引きこもるぞ!」などと言い放ち、権力争いを嫌って辺境の田舎へと引きこもりました。

 そこで小さな領地を治めて、静かに暮らしながら祖母と出会い、私の母が誕生。そうして何やかんやで長い時間が経って、やがて私が生まれました。

 王族の血筋とは言え王位云々の話なんて祖父の代で蹴っていますから、それに絡んだ厄介事もなく、のんびりと穏やかに暮らしていたんですよ。

 けれどお隣のヴィオ王国との領土争いが激しくなるにつれて、そうも言ってはいられなくなったのです。


 最初の頃はサジェス王国が優勢でした。何といっても技術で発展した国ですから、戦いに使える道具も多いので。

 ですが実りの国と呼ばれる緑豊かで資源が豊富なヴィオ王国とは違い、サジェス王国は枯れた土地を有する国です。

 短期決着となれば別でしたが、争いが長引いていくにつれて備蓄していた資源も減っていきます。そこはヴィオ王国も分かっていたのでしょうね、守りに徹したヴィオ王国を押し切る事が出来ず、徐々にサジェス王国は敗北を重ねるようになりました。


 そしてそれと並行するように王位継承候補者も減っていったのです。

 次の代の王になる者として国のためにと戦場に出た者、次の代の王に相応しい者であると示すために武勲を立てようとした者、王になるための後ろ盾を得る為の条件として戦場に出た者。

 各々が戦場に向かう理由は色々でしたが、その結果ほとんどの優秀な継承候補者が戦場に出て命を落としました。

 最初は難なくヴィオ王国に勝てるだろうと思って楽観視していた者達が気付いた時には、その当時の王位継承候補者は二人だけになってしまっていたのです。

 私は彼らの事はよくは知りませんが「王の器としては役不足である」と祖父が言っていた事は覚えています。


 つまりは、そういう事で。国のお偉い方の見解も祖父と同じだったようです。

 焦ったお偉い方はサジェス王国の各方面に声を掛け、片っ端から王族と関係のある者達を引っ張り込み始めました。

 そうしてこの私にも白羽の矢が立ったというわけです。今までさんざんほとんど無視に放置だったのだから、今後もそうしてくれると有難かったんですけどね。

 祖母や父、母は「そちらの見通しの甘さが招いた事だ」と怒って追い返そうとしてくれたのですが、最終的には王命を持ち出され、半ば強引に王都へと連行されました。まるで屠畜場へ向かうような気分で馬車に揺られて王城へ。

 そこで私に与えられたのは『王位継承候補者の十三位』という地位でした。


 サジェス王国の王様は十三人の候補者の枠から選ばれます。何でもサジェス王国の建国時に尽力した者達の数が十三人であったから、そういう決まりが出来たのだとか。

 でもね、その十三人いる中の十三位なんて末端も末端、最も王位から遠い継承候補者です。何故呼んだ。

 まぁ数合わせだったのかもしれませんが、いやはや迷惑なものです。


 さて、そんな末端の候補者である私が、ランとロイドを連れてこのヴィオ王国で何をしているのかと言いますと。

 理由は簡単、囮役です。本隊が進軍する際に敵の目を欺くためなどと耳触りの良い事を言われはしましたが、まぁ体の良い厄介払いですね。

 だって先日まで辺境の領主の娘だった私ですよ? サジェス帝国の王位継承候補者だと名乗った所で、ヴィオ王国の誰も私の顔や名前なんてご存じないでしょう。

 実際に今いる候補者の大半がそんなようなものだと思います。身に着けている紋章からサジェス王国の者であると分かるくらい?

 まぁそんな感じです。もしもこれが本当に作戦の一部だとしたら、サジェス王国のこれからが心配になるレベルです。知恵の国なのに。

 本隊がやって来ている足音なんで微塵も聞こえませんから、本当にただ放り込まれただけでしょう。


 …………何だか考えていると虚しくなってきますけれど。

 ヴィオ王国にやって来た途端に縄でぐるぐる巻きにされ、武器も取り上げられ、さらにはそこにいるという事が敵に分かるように狼煙まで上げられて。まるで生かして戻す気はないと言わんばかりの徹底ぶりでした。ヴィオ王国の兵士が来る前に縄を解いて逃げ出して、何とか荷物も取り戻す事は出来たのですが……。

 仕掛けた相手の予想がつきますが、今こうなってみれば予想がついた所で何も出来ません。

 つまり私達が敵対しているヴィオ王国にいる理由は、王位継承候補者の一人を蹴落したいという人物の思惑と、断る事が出来なかった私の落ち度によるものなのですよ。

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