7.ご主人さまよりも偉い奴隷
これでひとまずの主要人物の名前が出揃いました。
阿止里
ユーリオット
ナラ・ガル
月花
です。
これからも増える予定です。
私はその夜、ご主人さまたちの滞在しているらしい家で、死んだように眠った。
ぐるぐる鳴るお腹に、美少年――名前は月花というらしい――が、あわてたように簡単な食べ物を用意してくれた。
礼もそこそこに、私はかなりがっついたと思う。
なんといっても、久々の人間らしい食事だったのだ。
薄焼きのパンに、ひとかけらの干し肉と、イチジク。コップに注いでもらった水だって、濁ってない。
奴隷小屋で与えられたものといえば、灰色のスープにわけのわからない屑となった肉がいくつか浮かんだ一皿だけだ。
仮にも「商品」が倒れたら、豚男はどうするつもりだったのだろう。
そして欲求のひとつを満たした私は、もうひとつの欲求も満たしたということになる。
断りもなく、その場で気絶するように眠ったらしい。
※
目が覚めると、寝台にいた。
どうやら、誰かが運んでくれたようだった。
この部屋には寝台は四つあったが、ご主人さまたちはだれもいなかった。窓から差し込む光の強さで時間を予想する。まあ、七時くらいだろう。
ぼんやりしながらも、ゆっくり足を地面につけてみる。家といっても、日干しレンガの簡略式の建物が主流なので、床などない。
乾いた土の感触が、足の裏に伝わる。
慣れるまで小さな石のちくりとした感覚に苦しんだが、今は気持ちがいいくらいだ。
そんなことを考えながら、となりの部屋をのぞいてみる。
地面に広げられたじゅうたんの上で、世にも美しい男たちが雑魚寝をしていた。
「うわ……」
思わず息を漏らしてしまう。
すると、気配に気づいたのか、ユーリオットさんが身体を起こした。
目が合う。豊かな実りの、稲穂の色だ。
見とれていると、そっぽを向かれた。
「おい、娘がおきたぞ」
そう言って、ほかの人たちを起こしにかかった。
もぞもぞと、みんなが伸びをしながら身体を起こす。
「おはようございます」
とりあえずそう声をかければ、四人の動きは油の足りてないブリキ人形のように、ぎこちなくなった。
うん、とか、おはよう、とか、ぼそぼそと返してくれるが、目は誰とも合わない。
とりあえず、知りたいことを聞いてみた。
「あの、どうして私だけベッドで、みなさんは床で寝てたのですか?」
誰でもいいから答えて、と四人を順番に眺める。
だって、奴隷がベッドっておかしくないか?
答えてくれたのは、赤髪のナラ・ガルさんだ。
「女性だろう。あなたは」
レディーファーストということか。
「寝台、ほかにも三つあったのに。私が一緒の部屋だと、お気に触る?」
「ちがう」
あわてたように、月花が首を振る。
「ちがうんです。あなたが、そばにいると思うと、とてもじゃないけど、寝られなくて」
くさいのか? 私は安眠を妨害するほどに、くさいのか?
確かにあの盗賊たちに囲まれては、何匹羊を数えようと眠りは訪れない気はするが。
あわてて自分の服のにおいをかいで見る。
それをみて、阿止里さんがおもむろに口を開いた。
「娘。ちがう。おまえが、おまえのような娘が近くにいると思うと、目など閉じられないのだ」
目を閉じられない?
「夢ではないか。消えてしまいやしないか。ずっと、見ていたくなってしまうから」
だっておまえは、と、ため息をついて阿止里さんは私を見た。
「――私たちにとっては、女神のようなものだから」
奴隷から女神へ下克上。
どうでもいいけど、拓斗に会いたい。