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4.佐藤縁子、男になる

 そういうわけで、チームワークのかけらもない即席パーティーが出来上がった。


 構成は、私。(常夏仕様の格好。持ち物;肉とレタスとパン)

 それから、たま。(腕輪。持ち物;なけなしの魔力)

 現在地は、極寒の地。(地名も何も、まったく不明)

 目的地は、アレクシスのいるスヌキシュ。(ここからどのくらいの距離かもわからない)


 ……いやこれ、即全滅できるでしょ。





 どっちの方角へどのくらい進めばスヌキシュなのか、たまにもわからないらしい。

 これって、致命的だよね。

 しかも、私にかけてくれたこたつ魔法も切れかけなのか、だんだん寒くなってきた。

 お金も、食べ物もない。生の肉とレタスでは、どうにもならない。


「たま、困ったね。私には打つ手がないように思えるよ」


(小娘、まったく同感だ。このままだと雪像になってしまう)


 せめて、誰か通りかかるような街道でもあればよかったのに。獣すら通らないような場所なのである。


 このまま、動けずにいるのかな。

 というか、もしも四人に、逃げ出したと思われていたらどうしよう。私はその可能性に気づいて、血の気が引く思いがした。

 私を買ってくれた金額は、貯まったら返す予定だったので、まだ一銭も支払っていない。客観的に考えて、買い物の途中で消えた私って、借金踏み倒しの上に逃亡奴隷では。

 私は頭の中で必死に弁解したけれど、それが彼らに届くはずもなく。

 そういえば、いつか、彼らに抱かれる、という契約でもあったのだった。

 一緒に暮らしていたのに、彼らはちっとも無理強いしないどころか、触ってくるようなこともなかった。ときおり、幼子のように髪を撫でてくれたり、手を握ったりしてきたけど、艶めいたものはなかったように思う。

 もしかして、女扱いされてなかった、とか。私はどう贔屓目にみても、グラマラスでセクシーな女ではない。胸だってささやかなものだし、ウエストは日々の労働のおかげでくびれてはきたが、いかんせんおしりのラインが弱すぎる。私の年齢を伝えても、信じてくれなかったしな。いくらなんでも10代には見えないでしょうに。

 なんだか、眠くなってきた。

 拓斗を、懐に抱いて寝るときの暖かさが、懐かしいな――


 そう思ったとき、たまが叫んだ。


(――娘! 人の気配だ。あたりに目を凝らせ!)


 死にたいのか、と怒鳴られたとき、代わり映えのしない地平線に、うごめく影を、私は見た。


 身体を前のめりにして、目を凝らす。

 遠すぎて、ゴマのようなサイズの影だ。視力は両目1.5あるけど、それでもぜんぜん見えないよ!

 ぎゅっと目を細めて、焦点を合わせてみる。どうやら、トナカイのような家畜が、そりを引いている。

 そりの上に人がいるのはわかるが、果たして。獣人ということもありうる。


「たま。誰かが、そりを引かせている」


(小娘、何をしている。飛べ、叫べ! 声の限りに呼び、味方につけろ。このような荒地を通るものなど、もうおらぬぞ)


 そのとおりだ。思い切り叫ぼうと、息を吸い込んだ。

 そのとき、私はあること思いついて、慌ててたまに視線を戻す。


「ねえ、たま。あんたの魔法で、私を男に変えられない?」


(なに?)


「だって、女ってだけで私は売られたし、奴隷にされた。今も、負債はあるわけで。女だと、いいことないの。お願い、せめて声とか、最低限の部分だけでいいから!」


 そう、残念ながら、女は男には敵わない。

 一方的に物扱いされたうえ、処分されるのは、もう二度とごめんなのだ。

 私にだって、意志はある。


 たまは逡巡したけれど、決断は早かった。


(よかろう。ただし、最小限の魔力しか割けぬぞ。声を低いものにし、身体にあるぎりぎり女らしい部分を、男に見えるようにしてやろう)


「つまり、触られたらわかってしまうってこと?」


(そうだ。ゆめゆめ忘れるな)


 わかった。と私が言い終わらないうちに、手のひらのたまが熱を帯びた。

 その熱が皮膚をつたい、肘や肩をめぐって、全身にいきわたった。


「――すごい」


 私が自分を見下ろしても、なけなしの胸は完璧なぺったんこに。

 おしりのかすかな丸みも、ごつごつとした男らしいものに。

 声は、声変わりを終えたくらいのものに、変化していた。


 そして私は、生まれていちばんの大声で、助けを叫んだ。のど、裂けてない、これ?


 子蠅のような大きさの影は、その足を止めて、一拍の後――こちらへ舵を切ってくれた。


 私は大きく、安堵の吐息を吐いた。

 握り締めていたたまを、礼を伝えるようにひと撫でして、左腕にはめておく。


 さて、あとは、鬼が出るか蛇が出るか。

 トナカイを操る素敵なおじいさんが、朗らかに私を救出し、スヌキシュへ運び届けてくれる――


 なんてことには、まったくならなかったのだけれど。




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