4.佐藤縁子、男になる
そういうわけで、チームワークのかけらもない即席パーティーが出来上がった。
構成は、私。(常夏仕様の格好。持ち物;肉とレタスとパン)
それから、たま。(腕輪。持ち物;なけなしの魔力)
現在地は、極寒の地。(地名も何も、まったく不明)
目的地は、アレクシスのいるスヌキシュ。(ここからどのくらいの距離かもわからない)
……いやこれ、即全滅できるでしょ。
※
どっちの方角へどのくらい進めばスヌキシュなのか、たまにもわからないらしい。
これって、致命的だよね。
しかも、私にかけてくれたこたつ魔法も切れかけなのか、だんだん寒くなってきた。
お金も、食べ物もない。生の肉とレタスでは、どうにもならない。
「たま、困ったね。私には打つ手がないように思えるよ」
(小娘、まったく同感だ。このままだと雪像になってしまう)
せめて、誰か通りかかるような街道でもあればよかったのに。獣すら通らないような場所なのである。
このまま、動けずにいるのかな。
というか、もしも四人に、逃げ出したと思われていたらどうしよう。私はその可能性に気づいて、血の気が引く思いがした。
私を買ってくれた金額は、貯まったら返す予定だったので、まだ一銭も支払っていない。客観的に考えて、買い物の途中で消えた私って、借金踏み倒しの上に逃亡奴隷では。
私は頭の中で必死に弁解したけれど、それが彼らに届くはずもなく。
そういえば、いつか、彼らに抱かれる、という契約でもあったのだった。
一緒に暮らしていたのに、彼らはちっとも無理強いしないどころか、触ってくるようなこともなかった。ときおり、幼子のように髪を撫でてくれたり、手を握ったりしてきたけど、艶めいたものはなかったように思う。
もしかして、女扱いされてなかった、とか。私はどう贔屓目にみても、グラマラスでセクシーな女ではない。胸だってささやかなものだし、ウエストは日々の労働のおかげでくびれてはきたが、いかんせんおしりのラインが弱すぎる。私の年齢を伝えても、信じてくれなかったしな。いくらなんでも10代には見えないでしょうに。
なんだか、眠くなってきた。
拓斗を、懐に抱いて寝るときの暖かさが、懐かしいな――
そう思ったとき、たまが叫んだ。
(――娘! 人の気配だ。あたりに目を凝らせ!)
死にたいのか、と怒鳴られたとき、代わり映えのしない地平線に、うごめく影を、私は見た。
身体を前のめりにして、目を凝らす。
遠すぎて、ゴマのようなサイズの影だ。視力は両目1.5あるけど、それでもぜんぜん見えないよ!
ぎゅっと目を細めて、焦点を合わせてみる。どうやら、トナカイのような家畜が、そりを引いている。
そりの上に人がいるのはわかるが、果たして。獣人ということもありうる。
「たま。誰かが、そりを引かせている」
(小娘、何をしている。飛べ、叫べ! 声の限りに呼び、味方につけろ。このような荒地を通るものなど、もうおらぬぞ)
そのとおりだ。思い切り叫ぼうと、息を吸い込んだ。
そのとき、私はあること思いついて、慌ててたまに視線を戻す。
「ねえ、たま。あんたの魔法で、私を男に変えられない?」
(なに?)
「だって、女ってだけで私は売られたし、奴隷にされた。今も、負債はあるわけで。女だと、いいことないの。お願い、せめて声とか、最低限の部分だけでいいから!」
そう、残念ながら、女は男には敵わない。
一方的に物扱いされたうえ、処分されるのは、もう二度とごめんなのだ。
私にだって、意志はある。
たまは逡巡したけれど、決断は早かった。
(よかろう。ただし、最小限の魔力しか割けぬぞ。声を低いものにし、身体にあるぎりぎり女らしい部分を、男に見えるようにしてやろう)
「つまり、触られたらわかってしまうってこと?」
(そうだ。ゆめゆめ忘れるな)
わかった。と私が言い終わらないうちに、手のひらのたまが熱を帯びた。
その熱が皮膚をつたい、肘や肩をめぐって、全身にいきわたった。
「――すごい」
私が自分を見下ろしても、なけなしの胸は完璧なぺったんこに。
おしりのかすかな丸みも、ごつごつとした男らしいものに。
声は、声変わりを終えたくらいのものに、変化していた。
そして私は、生まれていちばんの大声で、助けを叫んだ。のど、裂けてない、これ?
子蠅のような大きさの影は、その足を止めて、一拍の後――こちらへ舵を切ってくれた。
私は大きく、安堵の吐息を吐いた。
握り締めていたたまを、礼を伝えるようにひと撫でして、左腕にはめておく。
さて、あとは、鬼が出るか蛇が出るか。
トナカイを操る素敵なおじいさんが、朗らかに私を救出し、スヌキシュへ運び届けてくれる――
なんてことには、まったくならなかったのだけれど。




