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8.新たな厄介ごと、二度目の転移

感想、評価、ブックマークなど、ありがとうございます。


甘口、辛口、どちらもほんとうにうれしいです…!

 その後は、たいへんだった。


 阿止里あとりさんになかなか離してもらえず、あちこちぎゅうぎゅう抱きしめられていたところに、三人が起き出してきてしまったのだ。

 まあ、家の庭って、どの部屋にも面している作りだ。中庭に近い。みんなが雑魚寝している居間にも、声は筒抜けだったろう。


 ユーリオットさんは血のにおいを誰よりもはやく嗅ぎつけた。

 それが私と阿止里さんの腕からのものだと気づき、私を引き剥がし、その場で手早く治療を施してくれた。(阿止里さんには、懐から乾いた布を投げつけていた。血止め用だろうと思う)

 無駄なく動く手。

 立て板に水の勢いで与えられるお説教。

 ユーリオットさんは、ツンデレなのだ、たぶん。ぷんぷんしながら包帯を巻き終え、怪我をしたら10回呼吸をする前におれのところへ来い、とのたまった。

 治療が済んで、私たちの顔が思いのほか近い距離にあることに気づいて、さらに起こったように顔を赤くして、そっぽを向いていた。


 ナラ・ガルさんは、その立派ながたいに見合わず、とても純情、とても乙女だ。裁縫も趣味だけど、中身もだ。

 先ほどまで取り乱していた私の目じりに、すこしだけ涙のあとがあったのだろう。それを見つけて、盛大におろおろしていた。

 俺の知らぬところで涙を流してはならないよ、とか、怪我の痛みを紛らわすためにフェズの蜜を舐めてみる? とか、落ち着きなく私の髪を撫でていた。


 月花ユエホワも、ナラ・ガルさんに負けず劣らず純情可憐だけど、彼にはもっと冷徹な――闇深いところがある。

 何も言わず、悲しげに私をじっと見つめていた。 

 帰りたいのですか、と私に聞いた。

 さすがに何も言えなかった私の、怪我をしていないほうの手をうやうやしく掲げて――その小指をがりりと噛んだ。


 反射的に身を強張らせた私に気づいたユーリオットさんが、慌てて手を引き剥がしてくれたけど、月花は私から一瞬も目を離さずに、表情ひとつ変えずにいた。


 すこし離れたところで、三人に囲まれていた私を、阿止里さんは試すような、測るような、温度のない瞳を向けていた。

 内面はいたずらっ子の俺様なのかと思ったが、その認識も間違っているのかもしれない。

 そう思うような、ひどく冷徹な瞳。


 腹立たしい三つの月は、音もなくその位置を下げていて、そして夜が明けた。





 今日の買出しの護衛は、月花の番である。 


 もちろん、いつも通り私からはどこにいるのか見つけられないけど。

 いつもの市場、いつもの肉屋。以前、ユーリオットさんとちょっとごたごたしてしまったけど、私はすっぽり頭衣をかぶっていたから、店主からはわからない。

 ただ、ひいきにしていた店では、声とかをちょっと変えて、あのときの女じゃないですよ、とアピールする必要があったけどね。


 今日のメニューは、鶏の焼いたのを薄焼きのパンにはさむ、サンドイッチにしよう。

 レタスみたいな野菜も安く変えたし、うむ、食費の残りのお駄賃がどんどん貯まって、わりと大きいぞ。


 私はふと、魔女アレクシスって、どんな人だろう、と思った。

 というか、魔女に支払うぶんのお金も貯めなきゃならないのだろうか。

 仮に私を現世に戻すことが、彼女にできたとしても、ふつうタダではやってくれないのでは。


 私はつらつらとそういった実費について考えたが、当面の目標は自分を買い戻すだけの貯金に変わりはない。なるようになるか、と、空を見上げて大きく息を吐いた。お昼は食べたかったサンドイッチにできるしね。


 ふんふんとご機嫌に、私は市場を後にして、ゆるやかな坂道を下った――そのとき。


 うん? と、私は足を止めた。

 何かいま、気になった。


 なんとなく横を見ると、装飾品の露店がある。

 このあたりの店の例に漏れず、ところ狭しを商品を並べた小さな露店だ。イノシシのような見た目の店主はちょっと奥まったところで、やる気なさそうに爪の手入れをしていた。足を止めて見ている私にも、目もくれない。商売する気あるのかな。


 しかし、なんだろう。何か、気になる。


 そう思って、並べられた商品に視線をやる。

 きらきら光るネックレス、イヤリング、ブレスレット。他にも、衣服のわきに装着できるブローチのようなものや、頭衣を上から押さえるティアラのようなものが、きんきらきんに光っている。このあたりでは、銀のような色よりも、ぴかぴかの金色が好まれると、一目でわかるラインナップだ。


 ふと、その中に、ひとつだけみすぼらしい腕輪があるのに気づく。


 えっ、何で? と思うくらい、みすぼらしいのだ。


 色は、たまねぎ色。たまねぎの皮の、あの薄いオレンジというか黄色というか、そういう微妙な色。この色だけでもそうとう負けてるのに、腕輪の外側に、宝石や装飾が施されているかといえば、それもない。

 つまり、つるりとしたたまねぎ色の、まるでプラスチック製みたいに見える腕輪なのだ。


 いったい、だれが買うというのだろう。


 そう思って、両手に鶏肉や野菜を抱えながら、よく見ようと身体を屈めて乗り出した瞬間。


(――見つけた、見つけた!)


 歓喜に震えるような、魂の叫びが、頭に響く。


 たまねぎ色の腕輪が、視界を奪うように強い光を発して、反射的に目を閉じる。

 どこかで覚えのあるような、気色悪い浮遊感が身体を包む。

 内臓と骨の位置を、無理やり入れ替えようとするような、それとも洗濯機の中につっこまれたような不快感。


 そして次の瞬間、私の全身の毛穴がぎゅるぎゅる! と締まるのを感じた。

 

 厭な予感しか、しなかった。


 おそるおそる目を開ける。

 目の前には、ポストカードで見るような、白銀の世界。

 大雪原が横たわっている。晴れ渡った空。青と白の二色世界。360度のパノラマ。


 勘弁してくれ。

 私がいったい、何をした? 何もしてない、そうでしょう?


「――っなんで! こうなるんだよおおおおお!!!!!」


 魂の叫びは、むなしく蒼天に吸い込まれた。

 こうして私は、異世界にておまけとばかりにもう一回、転移を果たしたらしいのだった。




二章は、これでおしまいです。


縁子は、なかなか息つく間もなくて、たいへんそうですね。

登場人物も、じわじわ増える予定です。


三章にもお付き合いいただけるとうれしいです。

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