12.純粋すぎるのも困ってしまいます
「おれたちは、こういう見てくれだ」
ユーリオットさんは、渇いた瞳で自分の足元を見ている。靴、ではなく、皮製のサンダルに近い。
彼が返事を求めていないとわかったので、私は黙って聞いている。
「仕事なんて、ありつけるわけもない。傭兵くずれのような、金になりそうな仕事をひっかけて生きてきた。こう見えて、そこそこ優秀だ。信じるか?」
贅肉ひとつない、鍛え上げられた肉体は、なにもスポーツジムで得たものではなかったのだ。
彼らの、いろんな傷跡が残る腕や足、精悍に日焼けした肌から、その肉薄した生活が垣間見えるようだった。
「信じます」
私の返事に、とりたてて興味は持たない様子で、彼は続けた。
「危険な仕事ほど、金払いはいい。大きな傭兵ギルドなら、嫌でも支払いは済ませてくれるしな――信用に関わるんだ」
傭兵ギルド。派遣の登録をしておくような、派遣会社みたいなものだろう。
「金は、たまるさ。でもな、使い道なんてないんだ。こんななりで、質のいい服や外套を身に着けたって、道化だろう。食事だって、店に入ろうとしたところで止められる。悪臭の元だからな。女だって、抱けやしない。たまにものずきの女がいて、”だいじょうぶ、私が癒してあげる”なんていいながら、自己陶酔顔で寄ってくる。いざ寝台に乗ろうとすると、やっぱり吐きながら逃げていくんだ。なあ、娘。おまえ、そんなおれたちに、本気で抱かれるつもりか?」
聞けば聞くほど、ひどい話だ。
四人それぞれ、壮絶な人生を歩んでいるに違いない。
ふと、私は、知りたくないな、と思った。
知ってしまえば、きっと悲しくなるし、同情してしまう。自信を持ってほしい、と、必要以上に心を傾けてしまう危険性がある。
それは、なんだかよくないことのように思った。
ここは中堅の社会人らしく、ビジネスライクにものごとを進めていきたい。
でもやはり、気の毒は気の毒だ。
私の見た目は、至って普通、平均も平均。だから、裏を返したところで、真ん中に変わりはない。
つまりこの世界でも、私は普通の女、という認識でいいのだろう。
「私は、美人ではありません。普通の女です。また、男性経験もけして多くはありません。ですので、その、抱かれることへの抵抗は、ありますが、私の伝えた条件を呑んで下さるなら、ご希望に添えるよう努力します」
いつか、この人たちに抱かれてしまう――。そう考えただけで、私は顔に熱が集まるのを自覚する。
普通のOLが逆ハーレムみたいな話は、小説の世界で十分だ。現実味は、いまだないものの、じわじわと羞恥を覚えてしまう。
真っ赤になった私を見て、思わずというふうにナラ・ガルさんが呟く。
「なんて、かわいらしい……」
アラサーとはいえ、経験は多くないって言ってるのに! どうしてそういうことを言うんだろう。
しかもかわいくなんてない。全身ぎとぎと、髪だってべたべた。やめてほしい。この状態で、月花の手を頬に押し付けたことを思い出して、悪いことをしたな、と反省する。
そんな私を、苦々しくユーリオットさんは見ていた。信じるか、信じまいか。そういう線を見極めようとしているように見える。
何度も、踏みにじられてきた人間の、自己防衛なのかもしれない。
「私にも、触れてほしい」
玲瓏たる声が、響いた。
声の主である阿止里さんが、一歩、進み出る。
「私たちを醜くない、というおまえを、まだ信じることはできない。しかし、おまえは月花に触れた――触れたのだ。私にも、そのぬくもりを、分けてくれるだろうか」
じっと私の目を見ながら、阿止里さんは手を少しだけ、持ち上げた。
私に伸ばそうとしたけど、途中でやめたような感じだ。
私は、ちょっと戸惑ってしまう。
「もちろんです。でも」
私、身体も髪も汚れていて、と、ぼそぼそと続けると、阿止里さんは慌てて首を振った。
「そんなもの」
汚れていても、いいのだろうか。そう戸惑いながら見上げていると、阿止里さんは何かをこらえるように顔をゆがめた。
もしかしたら、やっぱり醜いから躊躇されてると思ってる?
私は慌てて、阿止里さんの手を掴む。
がしっ! という、色気もへったくれもない握手になってしまった。
しばらく、そのまま見つめあう。
「……では、俺が、その身に触れても、悲鳴をあげないのかな」
隣から、ナラ・ガルさんが慎ましく聞いてきたのに、ぶんぶんと首を振ってうなずいてみる。
ごつごつとした、大人の手が伸ばされて――私の頬に触れた。
その手があまりにも冷たかったので、私は肩と頬で挟み込むように、首を傾けてみた。
そのまま、ナラ・ガルさんを見ると、真っ赤になって、震えている。
ユーリオットさんは、憮然と私たちを見ている。
月花は、感動した、というように顔を両手で覆って、目をうるうるさせている。
阿止里さんはいまだに私と握手をしているし、私は肩と頬でナラ・ガルさんの手をサンドイッチ状態だ。
……どういう状況?




