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馬鹿な君へ。無理心中に美学はあるか? どんな美学だったか? 僕が着く頃には答えを出していてほしい。きっと聞かせてくれよ。僕も誘ってほしかったものだ。命と等価な芸術だ。美しいよな。見たかったな。そう芸術だ。黒かったか暗かったか、それとも、希望もあったか、そもそも見られたか。気になって仕方ないな。
「どうしてそんなに悲しそうな顔をするのかしらね。君さ、今日でその顔、何度目だと思ってるんだ。女々しくて腹が立つな。」
不意に声がした…いや、恐らく不意でも何でもないんだ。確かに、今日は何度目だろう、机越しの声にハッとさせられたのは。
「すまない。」
と一つ謝り、頭を下げる。それが予想以上に下がってしまったのは、偏に酒のせいである、のだろう。
「そう毎度毎度間髪入れずに謝るより、そろそろ聞かせてほしいな。今日の君は、笑っちゃあいるが、その重たそうな口元だけだ。何があった…それとも俺が嫌いか。」
正直に言え、と坂谷の目が訴えている。こいつって、そんなに話せる仲だったかな。第一こんな、腹が割れるかさえも割り切れない相手と呑んだところで、忘れられた話では無かったのだ、と、僕は反省と後悔に苛まれ始めている。この気まずさを有耶無耶にする為に、ジョッキの中身を全て呷る。すると今度は、ジョッキの数のあまりの多さに気付いてしまう。おかしい。こんなに呑んだか?
「だからその顔のせいさ。」
「何だ?」
「お前のその辛気臭い面がよ、なかなか怖いんだ。当のお前にゃ、鏡で見たって分かんねえだろうがよ。店のねえちゃんが、いつまでたっても下げにきてくれないだろう。」
見やると、若い女店員がこちらの様子を伺っていて、それを僕には悟られまいとしている。気味が悪い、早いとこ退店してくれと、彼女の逸らした大きな瞳には、間違いなくそう書いてあった。娘も、ちょうどこんな風に、嘘をつくのが下手だったことが連想せられて、たちまち心がしんとした。やがて彼女に続き、僕も目を逸らした。
それにしてもこの男、僕の先の思考を読んだのか否か。いや、存外声に出ていたのかもしれないな。彼はジョッキの群れを指差している。視界は端がもやがかっているためか、坂谷の指先を太く輪郭付けて映している。それがあまりに異様だった。吐き気は一層強くなる。
「順を追って話そう。」
途中、嗚咽が漏れたって僕は知らない。例えばこの吐き気が悪いのだ。