青空道守編(8)
「それはそれとして。登、お前は真三郎の本当の父親だが本人に言う気はないのか?」
「お前と居る時だけは息子と呼べる。それだけで十分だ」
「私が忙しいばかりに裏のことはお前に任せっきりですまん」
「そうか、さっきの言葉だな。息子のGPSと口にしてしまったな」
「ああ。俺には」
その先の言葉を遮るように登は強い口調で今岡に問いかける。
「お前が守ったんだ。お前が咲子の子供を守ったんだ。それ以上言う事はない」
「それに私は独身だ。お前や海道と違い、名家というわけでもない。このまま途絶えていく家柄だ。真三郎は今岡の家を継ぐもの。お前も納得した話だ。これ以上過去の事を蒸し返すな」
「三人が愛した女性の子供だ。道は分かれてしまったが海道にもいつか話すつもりでいる」
「俺もお前も人生を惰性で生きているようなものだが真三郎を首相にするまでは死ねないな」
「この日本に変革をもたらす男を育てているのだ。いや、私の政策のほとんどがもうあいつの案だ」
「しかし、日本の通貨改正はまだ不可能だろうな。民間である日本銀行を国有化、日本の国としての通貨発行。政治家の誰もが心の底では考えている理想。こんなものを提出して大丈夫だったのか?」
「いや、党内でも私は除いてすべての議員が反対した。それでも私は身命を賭して提出していると言い切った」
「それで反応はどうだったんだ?」
「党内では首相独自の政策として通ったが次の国会開催までマスコミには一切の情報開示をしない政策の一つとなった。無論、他の政党内の議員からの問い合わせも相次いだようだが」
「日本が日本に戻るといっているようなものだからな。しかし、今の日本なら通貨としての円が国家通貨に改正されようと信用を失う事はない。あの組織からあらゆる面で妨害工作が起こりうるかもしれないだ」
「ああ、そうだな。私は何か大きなネタを暴露され、失脚するだろう」
「親友である私も党首を下ろされる。独り身とはいえまだ両親は健在だ。あの力に歯向かうほどの力も勇気もない」
「凪家の力。こんな時に俺は」
「俺達の息子なら」
「しかし、お前の仕込んだGPSは何故地下でも位置を知る事が出来るんだ」
「気にも留めないと思っていたがお前もあいつの父親になったということだな。あのGPSは特殊なものだ。正確にはGPS以外の位置情報システムも仕込んである。日本各地のGPS観測点の裏機能だ」
「そんなもの首相の私も知らないことだぞ」
「お前の知らない事はまだまだある。しかし、それは俺の仕事だ。お前はお前の仕事をしていればいい。身命を賭すんだろう、息子の政策に」
「分かった。真三郎のことは任す」
「無事でいればいいんだがな」
「今岡、お前はお前を成すべきことをしろ。私も次回の国会ではお前の政策に賛同する。もちろんTV中継の場でだ」
「それではお前の立場や家族まで巻き込んでしまうことになる」
「そうなるかもな。散々茶番を演じてきたが正義を行おうとすると多くの歯止めのような理由が思い浮かぶのは自身の人生の業かもしれん」
「そうだな」
今岡の保有するホテルの地下駐車場に到着すると、すでに登の到着を待っていた車に登は乗り込み、その場を後にする。
今岡は車を降りると首相の到着を待っていたSPに付き添われ、厳重な警戒の中、自身の部屋に向った。
この会話以降、二人は次回の国会まで会う事はなかった。