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天才を呼ぶ男   作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
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青空道守編(7)


場面は自宅に帰宅途中の自信党党首、今岡真治の車内。


「今岡、ついに動き始めた。息子のGPSの信号が消えた」


「あの一族の力の秘密を今度こそ突き止めなくてはな」


「ああ、今度こそ、あの力を手に入れ、世界を掌握する」


「その時は俺をお前の参謀にする約束は忘れていないだろうな」


「ああ、もちろんだ。GPSの信号が消えた付近を早速、秘密部隊に調査をやらせている」


「しかし、あの一族に生き残りがいたとはなあ」


「信じがたい話だが」


「しかもどうしてお前の息子の大学に」


「それは私にも分からん」


「そして、経済界のドンの息子ともつるんでおるという話も聞いたが」


「幼い頃はうちのと遊んでいたが別々の道を歩いていたはずだが」


「お前の知らないうちに何かがあったということか」


「その件なら知っている。すべてはあの息子が関わっている」


「切れていた糸を結びなおしたということか」


「ああ。その件に関しては感謝している。海道とは違う道を選んだ」


「そうだな。すでにあの息子の話も耳に入っているだろう。われわれの最大の敵になる可能性が大だな」


「ああ。あの場において、ただ1人、凪家の一族を助けようとし、自ら全身に大やけどを負いながら今の地位に付いた男だからな」


「息子の守はあの年齢ですでに海道家の上にいつ立ってもおかしくないと言われている」


「そうだな。海道こそ、いつ死んでもおかしくない状態のはずなのだが凪家の力で生かされているとしか思えん」


「凪家の持つ力とは一体なんなのだ。未だに私には何の情報も入ってこないんだが」


「具体的には私も知らないのだ。しかし、たびたび非公開の歴史書の中にこう記されている。その力を持つものは世界の全てを統べることができるだろうとな」


「しかし、本当にそんな力が存在するのか、半信半疑ではあるが千年以上に渡り、この国の中枢がこぞって凪家の一族を探し回り続けている行動そのものが確信を得ているという証拠。その秘密を暴かれる事を拒み、死んでいった凪家一族の末路を考えると不憫とも言える」


「だが、その力を使い、いつこの日本に災いをもたらすか」


「呪いや祟りを一切信じないリアリストのお前の口からそんな言葉が出るとはな」


「そんなものは生きている人間の感じ方次第だ。過去の歴史の権力者なら呪いや祟りのせいにして人民から政の失敗の責任をそういう方法で逸らしてきたこともあるのだろうが今の時代は権力を握るものよりも人民のそのものがそういうもののせいにしたがる。普段努力をしないものが自分の人生がうまく進まないのは神や悪魔のせい、それ以外ならやはり私達政治家か。しかし、そういう人間が口にすることはこれだけの努力をしてきたというセリフだ。努力をすれば誰でも良い結果が出るとは限らない。努力の仕方。方向性。環境。人間性。立場。出会う人間の縁。見えない運命という部分も含めて、すべてが上手くいったとしても、その次の日、未来が良いままだとは限らない事も含めて、自分自身で自分自身の言い訳とストレスの蓄積を行っている行為にどうして素直になろうとしないのだ。倒壊しかけている家にさらに傷をつけ、衝撃を与え続けているのがそこに住んでいる住居人自身だということだ。国に関しても、自身の人生に関しても傷つくことよりも言い訳や嘘を付き続けて、結局は自分の心の中に闇や弱さを生産しつづける国民が多くなった」


「お前は出合ったときから変わらないのだな、真治。凪家の力もこの国の為か」


「いや、もう私は人として生きる事に疲れた。この国の政も他国の介入の中で成り立っている現実にも飽き飽きした。それなら世界自身を変えるしかないという結論に達したのだ」


「一説には凪の力は凪のものにしか使う事が出来ないと聞いている。その時は最後の1人までも消してしまうのか」


「そのつもりはないが状況によってはそうなるのかもしれないな」


「それがお前の息子の親友だったとしてもか」


「場合により、仕方のない選択もあると考えている」


「私達は政治家であって、暗殺集団でもなければ、秘密組織でもない。この国の実権を握っているのもこの国の人間ではないのだ」


「ああ、分かっている。分かっているさ、登。だからだ。凪家の力を利用できるのであれば、この国はそういう力からも解放されるかもしれん」


「お前は何も変わってないんだな」


「いや、変わったんだよ、登。他国に利用されるような国づくりはもう止めにしたい。私自身、その力を散々利用し、利用されながら今の立場になった。しかし、その先の景色が何一つ浮かんでこない。浮かんでこなくても、いくらでも政策案は別の所からやってくる。それをこなしていけば、実績も首相としての名前も後世に残ることは理解している。しかし、私の人生に私の心に残っているものは何だ。死した後の世界があるとして、私の人生に残っているのは何だ。この国に残していくものは何だ」


「対立政党首という名の下に茶番を演じている私もその1人だ。国民に希望や安心をもたらすどころか、ストレスの捌け口になっているならまだいいが、その役目すら担っていない。政治から目を背ける元凶になっている人間かもしれない。シナリオどおりに動かなければ私の立場などすぐになくなる。それだけならいいが家族の事を考えると次の党首が選択されるまでそのシナリオの中で駒として遊ばれていると分かっていてもその役を演じなければならない」


「登、お前の方が辛い役目だったのを忘れていた。すまん」


「お前が謝る事ではない。いつか、いつか、いつか、この国を変えなければと思い、お互いにこんな歳になってしまったな」


「何を言っている。俺もお前も政治家の中ではまだまだ若造の部類だ」


「そうだったな。この国の政界は今でも妖怪の巣窟だった」


登も今岡も少年のような笑顔を浮かべて笑っている。


「まだこんな顔が出来たんだな」


「ああ、俺もお前もまだこんな顔ができる。まだ出来るんだ」


そういうと今岡は右手を登の目の前に差し出した。


渡の右手はその手を強く強く握りしめた。


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