青空道守編(6)
青空道守編(6)
国会議事堂の地下で待っていた人影は青木空也だった。
待ち構えていた人物が空だと改めて確認した3人は空白の間のような時間の中、言葉が出なかった。
それが数秒なのか、数分なのか、3人は空が立っている姿に見入っていた。
視界に入った空の手には自動運転のコントローラーらしきものが握られていた。
最初に声を発したのは守だった。
「空、大丈夫なのか」
次に真三郎。
「病院を抜け出して、いや、まさか」
そして、レオナ。
「そうだよ、多分。凪家の影武者があの場面にいたとすれば、今病院にいるのは影武者かも」
その問いに答えることなく、自動で扉が開くと空がゆっくりとした歩調で乗り込んできた。
「真さん、守、騙すようなことをしてすいませんでした」
空はそれだけを言うとすぐに頭を下げた。
「空、これは一体どういうことなのか、説明してくれ」
守が不思議そうな顔で空に問いかける。
「空は最初からこうなることを企てていたということでござるな」
真三郎が意味深な発言をした。
「成り行きと言えば成り行きにはなる。だけど、凪家現当主 青木空也として、今岡家と海道家の跡取りを始末する為にここにおびき寄せるはずだった」
「だった?」
「でも今は違う。それも理解しているよ、空」
真三郎の話し口調が急に変わった。
「君達は僕の正体にすでに気付いていたんだね」
「ああ、もちろん。そして、信頼できる友だと俺は思っている」
「私もだ、空。この血に流れる忌まわしき歴史を消す事は出来ないが、守も私も空の味方だ。いや、この日本を変えて行きたいと思っている」
「僕もあの日を境にそう思うようになった。君達が何を調べても出てこなかった僕の戸籍についての話をするよ。凪という苗字を捨て、僕はすがるように凪の護り手を頼って生きてきた。護り手は凪家の血筋を守るために懸命に動いてくれた。そして、東北地方で、一切の身寄りがなく、生死を彷徨っていた青木という高齢の男性を探し出した。その男性の養子として入り、その後、ある村の地で誰にも知られないまま、青木空也は出来上がっていった。凪家の護り手もすでに一家のみで今もなるべく姿を現さないように僕を守っている」
「そして、あなたに何もかもがそっくりなようね、青木空也君」
「そうだよ、都レオナさん」
「どうして、今、私、男装していないのに」
「凪の血を引くものは真実の目を持っているということを聞いた事がある」
「噂だけなら」
「でも、真実という言葉自体が否定も肯定もできるとは思わない?」
意味深な言葉で3人の顔を覗く空也。
「捻じ曲げた真実もまた真実とされる。凪家の悲運のようにか」
「それなら真実の目とは何なのよ」
「まあ俺はどっちでもいいわ、そういうのは。こうして、空が無事で俺たちのことも信じてるってことは真実なんだろう?それだけで十分だ」
三者三様の意見に空也は安堵したような微笑を浮かべた。
「君達と出会って、僕の人生も変わってきている。閉ざしていた心の扉が開かれるように」
というと、空也は深呼吸した。
「それは私だ」
「いや、俺だ」
「私が含まれて居ないのは知ってる」
「真実の目は血筋の持つ能力じゃない。これからそこへ案内するよ」
そういうと、空也は先ほど手に握っていたコントローラーのようなものを操作しはじめた。
「何がどうなっているんだ」
「辺り一面暗闇になった」
「凪家の秘密か。大きなものを背負わされそうな予感がするでござるな」
「これから起こることは他言無用でお願いします。凪家以外のものが知らない真のSRに路線を変更して自動運転を再起動してます」
「なるほど、国家秘密よりも秘密なものが到着地点で待ち構えているということか」
「守は頭の回転が早いし、想像力も豊かだ」
「そうであるな。しかし、そこへ足を踏み入れることに微塵の恐れすら感じないのも不思議な感覚でござる」
「それも真実の目の効果なんだけど、今は深く話せないけど、着いたら話すよ」
「ところで私も行っていいのかな。男の友情物語に私も入っていい?」
「都さんは真さんに言われて、僕の学部に入ったんでしょ?あの大学はどの学部にも学年にも必ず、不登校者が存在するよね。その理由は誰かを守るか、探るため。そういう大学だよね、あそこは。入学式も来ていなかった都さんが登校してきたのはあの事件のあとだし、誰かの差し金だとは思ったけど、危険な雰囲気はしなかった。それに真さんの匂いが薄っすらと」
「はい、そこまで。それ以上は言わなくていいし、守り人として、付いて行かせていただきます」
「お前ら、もうそういう仲まで発展していたのか。俺も誰か見つけないとなあ」
「守は見合い話しがたくさん来ているじゃないの?私じゃないと駄目なら、3つ下の妹のサユリを代わりに嫁にもらってあげてよ。幼い頃からあんたに惚れてるんだから」
「あのじゃじゃ馬娘か。まあお前よりは綺麗な顔立ちしてるから美人になりそうだけど、まだ小娘感がありまくりだろ」
「まだ高校に入ったばかりなのに最近化粧覚えだして、大人な雰囲気を身につけつつあるよ」
「そうかそうか。見合い話を断るのもめんどくさいから考えておくわ」
「本気に取っていいんだよね」
「ああ、お前たちとも末長く付き合っていきたいしな。意識したことはなかったがサユリなら家族になることに何の不安もない」
「守の結婚相手も決まったでござるな」
「誰も気付いていないので一つ言っておきたいんだけど。そのサユリちゃんだと思うんだけど、さっきから後部座席に乗り込んで隠れているよ」
「えっ、サユリいるの?」
「まだ気持ちの準備も出来ていないぞ」
「私は気付いていたでござるよ」
後部座席からひょっこりと頭が出てきた。
「ごめんなさい。先に乗り込んでいました」
サユリが立ち上がり、しっかりと姿が見えた。
「あんたどうしてここにいるの?」
「真さまのご命令で」
「でござる」
「私聞いていないんだけど。いつからそんな仲に。それに私に内緒ってありえない」
「お姉、ごめん。守さんがこれに乗ってくるという話を聞いて」
「そういうことだったか。それなら姉として許す」
「許す時間はやっ。というか、久々に会うけど、レオナより身長伸びてるじゃん、お前」
「今モデルの仕事もやってます。時々、TVにも出てます」
「はぁっ。何か見たことあるような気がするが、まっ、これで何年かは俺も自由だな」
「守さんと結婚できるなら今すぐにでも全ての仕事をやめて、守さんの護り手になります」
「いや、まだいい。というか、俺の気持ちの準備が出来てない」
「でも、婚約はしていただけるんですよね?結婚はまだ先でもいいので」
「お前、今はそういう状況じゃないわけだ。分かるか、サユリ」
そういうと守はサユリの頭を撫でる。
「分かりません。何年も待っていた想いが通じる以外に重要なことがあるのでしょうか?」
そういうと、サユリが守に抱きつく。
「はい、そこまでだよ。小芝居はいいから、離れて離れて」
レオナがサユリを守から離す。
「お姉がいるとやりにくい」
テヘッというような表情を浮かべて、サユリが守の横に座る。
「そろそろ、起動するよ。起動しても、暗闇の中で移動するから何も見えない状況だけど、このSRの仕様なので心配しなくていいので」
凪家に引き継がれる真実の目とは一体何か?