青空道守(1)
これは青空道守という人物像が出来上がるまでの物語である。
某県某大学内の校内にて、二人の生徒が言い争いをしていた。
「火星は地球の1/10の大きさしかないのは火星の寿命が尽きようとしている証拠だよ」
「それなら何でこれから移住するかもしれない星に選ばれてんだ。あれだけの額の研究調査費あったら格差の底にいる人たちに回せば少しは世の中変わるだろ!」
「そうなのかな?」
「そうだ。お前はもう少し世界について勉強しろって言ってるだろ!」
「勉強よりも大事なものがあるだろ、守」
「学びのないものには就活は閉ざされた扉のようなものだ、空」
「いやいや、就活なんて、僕はしないし」
「前から聞こうと思っていたが何か目指しているものでもあるのかよ」
「ある。僕は世界を変える男になる」
自信に満ちた表情でそう言いきったのは青木空也
大学内では(そら)と呼ばれている。
「世界の情勢も知らずに世界を変える男とは大きく出たな。お前はやはりおもしろい男だ」
空の右肩をバンバン叩きながら、大笑いしているのは海道守
青木空也には大学の入学式で耐え難い屈辱を与えられた苦い過去があるが不思議に3年間それでも縁が切れていないのは今日の会話のような関係だからなのかもしれない。
「守、それより、火星の移住計画の話はどこにいったんだ、まだ話終わってないだろ」
「俺の負けでいいわ。お前は世界よりも広大な宇宙を語れる男だからな。この3年間の付き合いで最終的には俺が負ける伏線が立つ理由もなんとなく分かったから納得することにする」
「それから、地球って水の惑星って呼ばれているじゃん。地球の表面は確かに71%は水で覆われている。しかしだな、地球の全質量における割合は0.02%でしかない」
「全体の質量は知らなかったが地球の表面は78%じゃないのか。ユダヤの法則とかでいろんなものが78:22とか、聞いたことがあるぞ」
「いろいろな法則があるけどさあ、結局は人が作り上げた法則というのは法則じゃなくて、結果的な理論でしかないと思うんだ。それにその法則も理論も時代と共に変わってくるだろ。まあ逆行して見直されるものもあるけどさぁ、そんな知識つけたって、法則や理論は崩されるために存在しているようなものだ僕は思ってるよ」
「空、それだそれ。お前に掛かるとこの世の中にあるすべての法則がいつかは消えていくような気がしてくるんだ」
「いや、その為に存在するんじゃないの。人が進化を続けない限り、この世界は終わると思うんだけどなあ。人類に限ってはね」
「おいおい、そうやって俺をビビらせてもこの世界の仕組みは何一つ変わらないだろ」
「いや、少なくても海道守が変われば、日本の経済はこれから先、変わっていくと思うけどな」
「いや、俺も大学内だから好き勝手出来て、言えて、お前とも話せてはいるがここから出ると海道家の跡取りとして振舞うことが強制されてるからな」
「だからだよ。2つの顔を持つ事が出来る守なら日本を変えることも出来る。もちろん、その家の権力も上手く使いこなせばね」
「それは無理かもな。ここを卒業すれば俺も海道家の跡取りとしてのレールとルールに乗ることになる」
「それでいいんじゃないの。レールとルール上に乗っかって、行動すればいいことだし」
「お前には勝てない理由が分かった気がする」
「そこの二人、俺を待っていないとは不愉快極まりないぞ」
空也と守の会話に割り込んできたのは今岡真三郎
現日本国首相の長男で政界きってのサラブレット候補だ。
「お前を待つほど、俺はやさしくない」
「真さん、今日来るかどうかも分からない友達を待つほど、僕もお人よしじゃない」
「海道のほうは察しはつくが空ぐらい、少しやさしい言葉を掛けてくれてもいいじゃないか」
「それよりも真さんは出席日数足りてる?そっちの方が僕は心配だな」
「それはあれだ。あれでどうにかなる。あれでな」
「はっきり言えよ。権力使っちゃいますって」
「海道、お前そういうことを空の前で言うな。誤解されるだろ。私は夏休みも冬休みも春休みも登校出来るときには登校して、それで何とか出席日数を足りるようにしてもらっておる」
「ああ、知ってたけど。あれとか言うから、俺らの会話を聞いている周りが誤解しないようにと思ってな」
「さすが、守。真さんの為に気を使ったんだ」
「そういう事で良いから空は大きな声で言うな」
「気を使わせてしまったようですまんな、海道」
「今岡、もういいから、頭を上げろ」
これが3人のいつもの日常である。
この学校には見えない格差が存在している。
しかし、その格差を乗り越えて、この3人の親友関係は築かれている。
大学内ではこの3人の関係について、青木、海道、今岡の3人の苗字の最初を合わせて、赤い奇跡と呼ばれている。
「ところで空。お前また虐められていたらしいがどうして俺に言ってこない」
「空、今岡の言うとおりだ。またあいつらだろ。もう他の奴らは手出し出来ないからな」
「世界を変える人間はあんなことをされたぐらいで心が揺るがない」
「今岡、あんなことって何だ?お前知っているんだろ」
「ああ、無理やりに監視カメラの映像を見たからな。ここの学長の息子や某政治家の跡取り達だ。他にも旧財閥の跡取りに某国のおぼっちゃまに。あんなやつらが将来の日本の顔になると思うと虫唾が走るわ」
「お前がそこまで言うとは相当なことがあったのか」
「ああ、しかし、討論ではやはり空には敵わなかった。だから目視では確認出来ない部分を痛めつけられていた。もちろん、全員呼び出し、多額の慰謝料はこちらで頂いておいた」
「真さん、そんなことしたら、自分まで危ない目に合うかもしれないじゃん」
「お前の変わりになるなら構わん」
「それについては俺も同意だ。そういう為になら俺も跡取りとしての権力を存分に発揮させてもらうがな。あいつらの所の取引も利益もリベートすらくれてやらん」
「お前、リベートとか当たり前のように口にするな、馬鹿者」
「いや、俺が上に立つ時はそういうものはやらんし、もらわん」
「その前に私が政界の上に立つ」
「二人ともその気持ちだけで十分だよ。二人には二人がそれぞれに歩いていく道があるんだから僕にばかり構っている暇はないでしょ」
「空、お前は間違っている。間違いすぎているぞ。お前という存在に出会ったから私の道が見えたのだ」
「たまには言い事を言うな、今岡。その通りだ。お前に出会ったからこの先の未来も少しは面白い景色が見えるかもしれないと感じる事が出来た」
「いやいや、無条件降伏させていただきます」
「何を言っておる」
「何で降伏する」
「では言いますよ」
「うむ」
「ああ」
「真さんも守も言っている事が凄く恥ずかしいから。いや寧ろ、青春。だとしても、周りの状況をよく考えて言ってほしいなあ。この状況知ってるでしょ」
この3人が話をしているところにはレッドオーディエンスと呼ばれる大勢の学生ファンがやや距離を置いたところから聞き耳を立てていた。
「聞かれたところで問題は無い」
「俺も問題ない」
「僕には大問題ですが。この後、格差社会に立ち向かうのは誰でしょうか?」
「私ではないな」
「俺でもない」
「正解!」
「まあ、それはそれとしてだ。先ほどの話だが、お前は確実に受け取らないことが分かっているから来年の授業料の先払いを私があの慰謝料で払っておいた。まだまだ残金は有り余っているから必要な時は言ってくれ」
「これでお前が授業料を払えず、退学することはなくなったな」
「そんなお金で授業料を払っていいのかな」
「逆だ、あいつらの卒業を保証してやった見返りだ。本来なら刑事罰になるほどの事をしたんだ。名前も公表して、あいつらの人生の汚点をつけてやりたかったところだが、お前はそれを望まないと思ってな」
「俺ならすべてのTV局にその動画をリークしてる所だ。ネット動画の拡散も世界中に手配する。この地球上であいつらが生きていけなくなるようにな」
「ブラック守が発動してるね」
「なるほど、そういう手もあったか。ただ私の進む世界では通用しないな。他の勢力の蹴落としなど常識で」
「真さん、それ以上は口にしないほうが」
「であるな。すまない空」
レッドオーディエンスに紛れて、空也に暴力を振るったグループのメンバーも含まれていたが3人の会話を聞いて、ここまでの会話を聞くと、少し青ざめた表情をし、ひっそりと消えていった。
「おっと、そろそろ昼休憩も終わりだ。放課後にいつものところで」
「そうであるな。いつものところで」
「了解しました」
こうして、学部の違う3人がそれぞれの教室に戻っていく。