青空道守編(14)
天才を呼ぶ男 ⑭
「空、この状況について、説明してくれるでござるか」
「おい、真三郎、お前、アメリカ大統領の前でござるとか大丈夫か?」
珍しく緊張した表情の守に真三郎はだからどうしたという顔をしている。
「簡単に説明できるような事情ではないのでとりあえず大統領には別の部屋で少しお休みいただくことにします」
「さすがお兄様。私がご案内してきますわ」
霧子らしくない口調にレオナとサユリが笑いを堪えられず、吹き出しそうになっている。
「あのぅ、そちらの下僕の女子のみなさん、お兄様のお言葉をしっかりと聞いてくださいね。理解力をお持ちであると良いのですが。それでは失礼します」
そういうと、霧子はトーマスとともに突然姿を消した。
「別室って、どこにあるのよ、あの生意気娘め!現れたと思えば、すぐに消えるから文句の一つも言えないし」
レオナは瞬間移動のように二人が姿を消した事よりも何かを言う前にまた消えてしまった霧子に苛立っている。
「お姉、あの子は何者なんでしょうか?目の前で消えましたよ。しかも大統領まで」
サユリは霧子の言葉よりも冷静にその力を感じるようになってきたようだ。
「二人ともごめんね。本当はすごく真面目で可愛い性格をしているんだけど、女の子には何故かきつく当たるみたいだね。君たちが霧子には普通に会話を交わす初めての人間なんだ」
「あれだけアグレッシブに動いているのに」
レオナはどうしてなの?という顔をした。
「そうなんだけど、あの子が世間に出て行くときは会話と言うよりも一方的脅迫をしてすぐに戻ってきてしまうから僕以外の人間とはしっかりと向き合って会話をしたことはないかも」
そういえばとそうだなと言う顔を空はした。
「空さん、妹さんをしっかりと躾けてください。そうじゃないと私もお姉も危ない目にあうんじゃないですか?」
サユリは冷静に突っ込みを入れた。
「僕もあまり言い過ぎると消されちゃうかもしれません」
「空、その冗談はこの二人には通じないでござるよ」
「えっ」
「空、この空気感でその言葉の選択はバツだな」
「ふうーっ、冗談だったの」
「冗談で良かった」
レオナもサユリも安堵した表情を見せた。
「そろそろ本題に入ってほしいでござる」
「そうだな、この空間の仕組みについても気に掛かるがそれよりも今はアメリカ大統領を救助したらしいという件について、まず、話を聞かせてくれ」
「この空間については詳しくは話せない。ただ言える事は現在科学では選ばれた人間以外は入って来れないと付け加えておくね」
「私やサユリまで入れたということは青木君か、霧子ちゃんに選ばれた人間と言う事かな?」
「そういう理解でいいと思います」
「いつものお姉に戻った」
「それでトーマスのことだけど、詳しくは話せない。しかし、あの方は少し早い革命を起こそうとしていた」
「革命って、大統領だから自分の権力を使えば、どんな政策でも強行することが出来るんじゃないの?」
「レオナ、アメリカは日本とは違う。国民の反発を買うようなことをすれば、すぐに大きなデモが起きる。それだけで済めばいいが、そうなってしまえば、自分の周りが次々に人事変更を余儀なくされる」
「そういえば、FBIやCIAの職員でもドラマや現実でも逮捕されたり、裁判になったりして、大きなニュースになるよね。日本だと警察や公安の人が逮捕されたりすることがあってもニュースや新聞では大きく取り上げないよね。政治家だとある程度の証拠があっても小さな疑惑だけでは逮捕されることもないまま、いつの間にかうやむやになってること多いよね。一般人だと冤罪さえ生み出してもその人の人生に責任は取らずに簡単な謝罪だけで済ませるのに」
「しかし、アメリカの裁判だとお金で陪審員を買収したり、白人、黒人の割合で裁判の結果が変わったりすることもあるのでは?という事もあるし、日本の裁判だと加害者側の99%が有罪判決の結果しか出ていなかったり、どっちもどっちかもな。冤罪を確実に証明出来る証拠が無い限り、冤罪事件だとしても有罪として処理される。裁判官もまだ出てこない冤罪の証拠が無い限り、その裁判の中での証拠や証言だけで判決を出さないといけない。しかも、控訴をしたとしても棄却されることもあるし、再審されてもやはり揺るぐほどの冤罪証拠が提出されることがないかぎり、有罪は確実。形は違えど、権力を持っている人間と一般人との差はこういう場面でも明らかに出るよな。金持ちなら弁護団を雇ったり、多くの探偵を雇ったりすることも出来る。ということは本当に冤罪だとしたら多くの冤罪の証拠を揃える事も出来るかもしれない」
「守。あんたは権力者側の人間だから大丈夫だね」
「もし冤罪など被ろうものなら弁護士団も探偵も雇う事は無い。俺自身で法廷の場で身の潔白を証明する。そして、俺を逮捕した人間を訴えてやる。その時は全権力を使う」
「さすが守さま。権力の使い方が男らしい」
「そろそろ、話を戻ってもいいかな?」
「悪い悪い。話の方向性がずれたな」
「革命といってもアメリカの金融システムや政治体制に関する改正など国としての建て直しを行動に移そうとして、大統領がその政策を定期演説の場でで発表しようとする前に暗殺されようとしていたんだ」
「内部犯行未遂でござるか」
「どの国も変わりないな」
「その点は一般人では起こり得ない出来事だね」
「住みやすい国に変えていくことを革命と言わなければならないって今の世界、やっぱり終わってるわ」
他人事みたいにサユリが言った。
「この世界の仕組みを壊すのには時間が掛かる。僕と霧子の力で世界中の権力者を消す事は容易に出来る。しかし、一度慣れきってしまった仕組みを変えることが直ぐには出来ない。今を生きる人間たちの気持ちの変化が無い限り、権力者の顔が変わるだけでしかない」
「世の中に平等と言う言葉や平和と言う言葉は文字として書くことが出来ても、現実に置き換えると存在しないのと同じでござるな」
「それでトーマス大統領の今後について、どうする気だ。アメリカに戻したところでいつ暗殺されるか分からない状況なんだろ?」
「この空間がどういう場所か分からないけど、現実の世界は今どうなっているのか、すごく不安だわ」
「元の世界に戻ったら、まさか大統領誘拐を理由に第三次世界大戦とかなっていないよね?」
サユリが空に問いかける。
「そういう事になっていても驚かない」
「まあ大統領暗殺を企てる奴が内部にいるんだ。誤魔化す為にそういう状況を作り出してもおかしくはないよな」
「そういうこともあると副大統領がそろそろ会見してるかもな、報告を受けたまま、何も知らずに」
「だとしても、敵国はどこなの?」
「だよね。どの国に戦争を仕掛けるんだろう?」
「世界中の力を合わせて、シャドウガールを捜査、もしくは仮説に基づいて、そう思われる国を敵国にするかもしれない」
「敵国にされた国はさっきの冤罪裁判の話と同じだよね。冤罪の証拠が無い限り、一方的に攻撃されるのか」
「はぁっ、人間は何世紀過ぎても改心しないから終末がどの宗教本にも書かれているんだね。神が降臨して人類を滅ぼすのが先か、人類が人類を滅ぼすのが先か、分からないけど、自分の宗教の人間しか救わないから改心して自分の宗教に早く入りなさいっていう宗教家もどうかと思うわ。神様がいるとしたら宗教問わず、行ないの正しい人間はみんな救ってくれると思うし。しかし、行ないの正しい人間なんて、この世界にはほぼいないから救われる人って、実は先進国に住んでる人間よりもアマゾンや野生の中で自然に寄り添って生きている人間以外は無理なんじゃ」
「ほほっ、サユリ、お前意外と賢いんだな。優雅な生活をしている人間はどれほど良い行ないをしていたとしても、口にしているもの、身につけているもの、その生活を保てていることを逆に考えていけば、神がいるとすれば、選ばれる人間ではないとは俺も思う。口にしているものは誰が作っているのか、身につけている貴金属や宝石の出所は元を辿れば、貧困層の採掘者の人達が見えてくるわけだ。その生活を保てているのが自分の環境や人生の選択だったとしても、結局は自然に寄り添って生活しているわけではない。世界の終末が終わり、選ばれた人間はその後の大自然の楽園で永遠の命を得て暮らせると言うような宗教もあるが、俺はそんな大自然の中で暮らす気もない。かといって、今の世界がこのままの状態で良いとも思っていない」
「守、サユリとお似合いでござるな」
「サユリが私よりしっかりしてるように感じるのが何だか嫌だ」
「サユリさんの印象が変わりました」
「また話がそれてしまったけど、どう考えているんだよ、空は?俺はもちろん空に付いて行く」
「私もでござるよ」
「真三郎に同じく」
「守さまに同じく」
4人の視線が空也1人に注がれる。