青空道守編(12)
場面は米国、大統領執務室
「それで日本側からの連絡は」
苛立ちを隠さず、親指の爪を何度も口に入れては噛んでいるのは現大統領、トーマス・カルバート。
「その後、連絡はありません」
「次元の扉の正体を教えたくないという事か」
「入り込ませている者の報告によりますと、日本側も把握できていないということでした」
「しかし、何故このタイミングなのだ。来週は訪日予定が入っている。この国の闇の全てを全米中にばら撒いたシャドウガールを一刻も早く始末するのだ」
「全米中とはいえ、たかが1000枚に満たず、公式ファイル資料でもありませんのでいくらでもごまかしは利きます」
「それなら何故、わが国の国民は全米中でデモを起こして騒いでいるのだ」
「わが国のイベントのようなものですから、時間の経過とともに消化するでしょう。それにリーダー的存在のものはすでに掌握、もしくは始末しております」
「建国以来、わが国の対処方法は全く変わらないのだな」
「それは他国に対しても同じですからね」
「米国にあの兵器がある以上、どの国も逆らえぬからな」
「そうですね。あの技術が一研究者から全世界に研究データが配られる事になっていたら、強国というものはなくなっていたでしょう」
「その代わり、未来の進化もかなり遅れていますが」
「ジョン・ハチソン、奇跡の男にして、すべてを失った男」
「そうですね、わが国はその研究装置を壊し、資料として提出していただいていたデータさえ、米国の極秘扱い指定し、彼に返却すらしませんでしたからね」
「しかし、共同開発や技術提携すれば良かったのではないか?」
「独学の彼と共同開発する時間が無駄だったのでしょう。それに彼の偶然から発見された技術は元々はテスラコイルです。ただ、その制御をすることが出来なかった為に計画は保留されたままでした」
「制御できなければ、何が起こるか分からない技術だったと聞いている」
「そうですね。地球を割ることさえ可能だと本人は言っていましたがジョン・ハチソンが本当に証明してしまいました」
「目には見えないプラズマを利用して、浮力、破壊、物体融合、そのもの自体が消えることで起こるテレポーテーションのような現象、気象コントロール。今この上空に多く飛んでいるUFOはほとんどがアメリカ製だ。アメリカ軍の飛行物体なのだからUFOには変わりないがUnited flying objectだ」
「各国の上空を飛び回り、脅迫してまわっているようなものですからね」
「遺伝子操作し作成した怪物、脳波を洗脳する装置、ウィルス作成、情報操作、すでにわが国は神を恐れぬ国家と化しているな」
「神などは元々存在しないのですから現時点も生き残っている宗教のように人間を神の存在とした教えで十分なのです」
「そういえば、お前は無心論者だったな、アメリア」
「はい、リアリストです」
「そのお前から見て私はどう見える」
「凡人ではないに見えます」
「なかなか言うようになったな」
「すいません、言葉がすぎました」
「いや、それでいい。この国の体制を私の代で一欠けらでも変えたいのでな。信用できる人間が近くにいるということは」
その言葉の途中、無風であるはずの室内に竜巻のようなものが起き、その中央から黒い影が現れ、一瞬のうちにトーマスを包むと、大統領執務室から現大統領の姿は消えてしまった」
「シャドウガール?」
アメリアはそう口にすると、ただちにホワイトハウス全域に厳重警戒態勢を整えるように用意されている緊急ボタンにゆっくりと手を掛けた。
部屋の外で警戒していたSPも急いで駆けつけた米軍の特殊部隊も大統領執務室内の異様な光景を目にすることになった。
1000枚にも満たないと口にしていたアメリアの全身を覆い隠す高さの枚数でアメリカの闇が記されていると言っていたビラが散乱していた。
「警告?」
「補佐官これはどういうことですか?」
「してやられたわ。というよりも誘拐と脅迫というほうが正しいかしら」
「大統領は?」
「風に包まれて、消えたといっても信じないわよね」
「いえ、状況は確認していましたので信じがたいですが」
「そう、それでどこに消えたか分かるのかしら、執務室にまで隠しカメラを仕掛けておいて」
「申し訳ありません。大統領の奥様が今度の補佐官は女性だという事を気にされまして」
「そんな理由だったとしても状況を見ていたのなら早めに対処するべきでしょ」
「申し訳ありません」
「謝る暇があったらその映像から状況を分析して、報告してください」
「ただちにその様に対処します」
「あと、このビラ、シュレッダーに掛けて、即燃やさなければいけません。しかし、内容が内容ですのでシュレッダー作業は私がやります。直ちにこの部屋から出て行きなさい」
「しかし、この枚数をお1人で」
「それほど、わが国にとって機密情報なのです。あなた達も直ぐに出て行きなさい。出ないと、あなただけでなく家族の命の保証も出来ません」
「分かりました。おい、分析に掛かるぞ」
「SPは部屋の外の警戒をそのまま継続してください」
「はい」
そして、部屋の中はアメリア一人になった。
「自分で呼んでおいて、私は何がしたいのかしら。しかし、こんな量のゴミを私自身でシュレッダーに掛けることになるとは。それよりも大統領はどこへ行ってしまったの」
埋もれたビラから抜け出すと、机の上に置かれた一枚の紙切れに気付いた。
(私は世界を救うもの)
(そして壊すもの)
(この国の大統領には暫く消えてもらう)
(このことを公表した瞬間にそのビラが全世界を覆い尽くす)
(米国だけでなくすべての世界の隠し事で世界中が覆い尽されることになる)
(その意味を理解したなら大統領が戻ってくるまで大人しくしておきなさい)
「神からの伝言かしら。私の口から神という言葉が出てしまうなんて」
メッセージを読みきったアメリアは暫く思考停止状態に陥ったがその後、何事もなかったように半日掛かりでシュレッダー作業をやり遂げ、そのまま床にうずくまったまま、眠ってしまった。