青空道守編(11)
天才を呼ぶ男(青空道守編)⑪
「お兄様、この方達の紹介をしてくださいませ。お話はよく聞いておりますが初対面になりますので」
「ああ、そうだね。僕と霧子の未来を変える人たちだ。海道家の跡継ぎ、海道守、僕は守と呼んでいる。今岡家の跡継ぎ、今岡真三郎、僕は真さんと呼んでいる」
「その人たちなら知っているわ。いえ、私とお兄様の時間を蝕む不貞の輩ですね。そして、あとの二人は女性の魅力に欠けるただの木偶の坊。名前を知らなくてもよろしくてよ」
「あなた、本当に青木君の妹なの。初対面で丁寧な言葉使いをするから育ちの良い子なのかと思ったけど、違うようね」
「サユリ、止めなさい。霧子さんと同じような態度をとってはいけない」
何かを察知したようにレオナがサユリに訴えるような目を向けながら言った。
「どうやら、姉の方は察しがいいようね。でも、もう遅いわ。私に生意気な口を聞いた人間は今すぐこの世からも宇宙からも消えてなくなるしかない運命なのよ」
その時、霧子の肩を空也が叩く。
「そんな事をしても僕がすぐにその世界を取り戻しに行く。お前の力はそんな事に使う力ではないよ、霧子」
「しかし、このままではあの生意気な小娘がこれから先もでしゃばりかねません」
「女性同士なんだ。頼むから仲良くしてくれないか、霧子。僕はお前に一人の人間として生きてほしいと思っている」
「この力がある限り、それは叶いません。それはお兄様の力も人生も同じようなものです」
「守とも真さんとも一人の人間として大事な親友として大事な時間を過ごしてきた。それはお前と過ごしている時間と同じくらいかけがえのないものだ。都さん姉妹と一緒にお前もそういう時間を過ごしてほしいと思っている」
「いつもいきなりですね、お兄様。私がどんな気持ちであの時間を壊したのか、それを承知でのご発言ですか?」
「時間を壊す?どういうことだ、空。お前の妹、いや、霧子ちゃんにはどんな能力があるんだ」
守の問いに空也は少し迷いながらも答える覚悟を決めた。
「僕達は神にも悪魔にもそれ以上にもなれる存在なんだ。この星を作った存在と同等の力があるといってもいいかもしれない」
「この星を作った存在?そんなものが存在するのか?」
「それは僕にも分からない。しかし、凪家が存在しつづけるということはそういうことなのかもしれない」
「そういう存在が実在するとして、それはそれで俺にはどっちでもいい。凪家はこの日本においてどういう存在なのか、もう少し詳しく話すことは出来るか?」
「ごめん、守、あれ以上は話せないんだ」
「あれ以上?三人で歴史を変えたという話か。俺や真三郎には記憶に残っていないと言っていたが」
「これで日本はバランスを保ちながらでも良い方向に向うことが出来ると思う。その一番嫌な役目を霧子にさせてしまった」
「まさか、あの事件か」
鋭い視線で真三郎が反応した。
「真さんはどこまでも真さんだ。思っている事件で間違いないよ」
「日米、いや日本と世界の関係にとって」
「真さん、それ以上は守も都姉妹も知らないほうがいいことだと思う」
「確かにそうだな」
「私に隠し事ですか、真三郎」
「そうだ、俺にも話すことが出来ないとはどういうことだ」
「いや、許してくれ。今は話せない。というよりもその記憶のない私なりの推測でしかないことであって、空の言葉で確信に変わったと言ったほうがいいのかもしれない」
「真三郎がそこまで言うのなら今は我慢します」
「いつか話してくれるんだろうな、空」
「その時が来たら話す。いや、話さなければならないと思ってる」
「守さま、私達は来てはいけない場所に踏み込んでしまったのでしょうか?」
威勢の良さをなくしたサユリが守の後に隠れていた。
「心配するな。空や霧子さんはお前が今感じているような人間でないのは俺が良く知っている」
「海道守、お前は私のことを良く知っていると言ったな。二人まとめて」
霧子の言葉に空也が割って入った。
「霧子、僕が言った言葉の意味を分かってないならこの場から消えてくれ。紹介してくれというから、僕の大切な友人達を紹介しようと思った。しかし、この状況を作ったのはお前だ。反省する気も謝る気もないなら今すぐこの場から出て行ってくれ」
「ここを出て、どこへ行けというのですか。分かりました。私が悪かったです。もう二度はあるかもしれませんが今回は私が頭を下げるとしますので許してくれてもいいわ。これで気が済んだ?下僕ども」
「まあ、いいわ。態度のでかい女なりの精一杯の謝罪表現ということで許してあげてもいいわ、低俗女」
「これは時間が掛かりそうでござるな、空」
「真三郎のござるが戻った」
「レオナ、お前、突っ込む所違うだろ」
「いいの、いいの。霧子ちゃんという存在は私には見えない仕様でこの先過ごすから」
「充分お前も怒ってるのか」
「怒ってないわよ。見えないだけ。聞こえないだけ」
「レオナ、お前はお姉さんなんだからそういう振る舞いは止めるでござる。今岡家に入ったらそんな態度ではこちらの身が持たない」
「い、今岡家・・・・分かった。真三郎、見えてない仕様はなしにするわ」
「霧子、お前もすぐに脅迫するような物言いはやめるように」
「私は悪くない」
「僕はお前の記憶も存在も消す事が出来る。それでもいいならそうしなさい」
「お兄様がそこまでおっしゃるなんて、この人間達は私よりも大事なんですね」
「お前と同じくらい大切な存在だと紹介したはずだ」
「分かりました。これからどちらが大切な人間なのか、弱火でじっくりとコトコト煮込んで分かっていただきます」
「ごめん、みんな。霧子なりの愛情表現だと思ってもらえると助かるんだけど」
「青木君、これが愛情表現だったら、霧子さん、お兄さんを愛してますということになるけど」
「レオナ、お前また突っ込むところが」
「何が違うの。はっきりしないと駄目なところでしょ」
「いや、その前の空の発言で真三郎も固まっているようなんだけどな」
「青木君の発言?なんだっけ?まあ、いいか」
「良いわけないだろ。霧子ちゃんの存在さえも空が消せる力を持っているという所だ。こんな可愛い妹を消すとか空も言いすぎだろ」
「守さま、私の存在を差し置いて、何を言っておられるんですか」
「まあまあ、落ち着いて、サユリ。霧子さんも私も守も何かずれている会話をしている気がするけど真三郎がどうにかしてくれるから」
「そのことなんだけど、お兄様は」
「霧子、それ以上口にするなと言った筈だ」
「分かりました」
「それはそれとして、真三郎はさっきから何故固まってしまっているの?」
「色々と考えることがあるんじゃないか」
「私達の会話にも乗ってこないし」
「そうですね、それはですね、姉さま。今岡家に入ったらと口にしてしまったことで自ら動揺なされてしまったか、後から自分の言った言葉に照れてしまわれたかだと思いますが」
「いやいや、空の発言だろ」
「どちらも違う。この空間に感情が飲み込まれてしまったみたい」
霧子が謎めいた言葉を言った。
「まずいな、真さんが第3の柱だって知らなかったし。それに凪家の人間でもないから安心していたのは僕の不注意だ」
「空、第3の柱って何だよ?まあ、今それはいいとして、真三郎のこの状況は元に戻るのか?」
「それは大丈夫。ただ少し時間が掛かる。意識や記憶をこの空間に刻んでいってるだけだから」
「刻んでいく?」
「僕達兄妹以外でこの空間に選ばれる人間がいるとは予想してなかったけど、記憶をなくしても、状況判断から物事を導き出せるのは最初から選ばれていたのかもしれない」
「空や霧子ちゃんのようにか。真三郎の意識が帰ってきたら人間が変わってるってことはないんだよな?」
「それはないから安心していいよ、守」
「そうか、それなら良かった。もしも変わることがあるなら対処も考えないといけないからな」
「守、対処って何よ。真三郎に何をしようと思っていたの?」
「そりゃ、ござるを教え込まないと駄目だろ」
「あんたも意識をなくしてあげようか?」
「いや、遠慮する」
「守さまはサユリが守ります。姉さま、守さまに触れて良いのは私だけです」
「はい、はい。もう疲れたし。とりあえず、立った状態もしんどそうだから、真三郎を寝かせた姿勢にするのを手伝って、青木君、守」
「そうだね」
「そうだな」