青空道守編(9)
場面は自動運転装置式モノレールの中に返る。
「しかし、空、ここはどこなんだ」
「トーションフィールドによって開かれた扉で移動した日本のどこかということにしておくよ」
「こんな場所がまだ日本に残っていたとは驚いたでござる」
「花畑が広大に広がっていて、まるで楽園みたいだね、真さま」
「サユリ、あんたの男はこっち、気安く真三郎に近づかないで」
「嫉妬ですか、姉さま」
「そういうことじゃなくて、その行動を目の前で見ている守に対しての配慮よ、配慮」
「俺は別に構わない。心の中の本命はレオナだしな」
「守は嫉妬という名の毒を吐いた」
「サユリは守さまのものです」
「俺は持ち物にする気はない。自由気ままにやってくれ」
「やっぱり無理だ。守さんは姉さんの方が良いんだ」
「そういうわけではない。俺も自由気ままにやるからサユリも自由にしてくれという意味だ」
「でも、本命は姉さんなんですよね」
「そういう立ち位置にいる自分が好きだからな。二人の仲を壊そうとか奪おうとかという意味とは違う」
「なるほどって全然わかりません!」
「サユリ、お子様にはまだまだ理解できないってことだよ」
「それをいうならお姉の方がいろいろと子供だよね、体形とか体形とか体形とか」
「あんたね、今すぐ天国に行きたいの?それとも地獄に落としてやろうか?どっちがいい」
「どっちもいやだし」
「あのう、レオナさん、サユリさん、もうそろそろいいかな。いろいろと話したいことがあるんだけど」
「あっ、すいません、青木君」
「空でいいよ」
「空、さりげなくイケメン言葉」
「守、お前まで。今そういうツッコミをするタイミングではないでござる」
「すまん、すまん。思わず。ほら、レオナも照れてるし」
「珍しいでござるな、レオナの顔がほんのり赤いとは」
「姉さんが照れるって」
「そういうんじゃないし。真三郎以外にそういうことを言われた事ないから」
「おーい、俺は男じゃないのか。守はどうなんだ、守は」
「あんたは気付いたら守って呼んでたし」
「守さん、姉さんじゃなく、私を気に掛けてください」
「了解、サユリ姫」
「今度はサユリが照れ始めたでござるな」
その会話の途中で突然空也は頭を下げた。
「僕の事にみんなを巻き込んでしまって本当にすいません」
「トーションフィールド、捻れを利用した瞬間移動、まだこの時代では不可能といわれているテレポーテーション。量子テレポーテーションとも呼ばれているが空は何故使いこなす事が出来るんだ」
「トーションフィールドを利用してはいるけど、量子テレポーテーションと言われるものとはこの力は異なるんだ。元々開いている扉を通り抜けただけだから」
「この日本にそういう扉が他にも存在するという事でござるか」
「うん、ただし、凪の血を引くものにしかこの扉を開く事は出来ない」
「空さん、ここはどこなんですか?」
「ここは過去現在未来を見ることが出来る場所。場合により変えることも出来る場所」
「真実の目とはすべてを見通せるだけでなく、過去の歴史さえも見ることが出来るでござるか」
「そんな事が出来たら空くん独りで世界をコントロールする事が出来るじゃない!」
「空というより凪家がこの世界の頂点に立ち続ける存在だということだ」
「しかし、この世界の頂点に君臨しつづけているのは凪家ではない」
「真三郎が久々にござる言葉を止めたし」
「姉さん、今そこ突っ込んでる場合じゃないよ」
「話は変わるけど、微生物にも記憶力があることは知っているかな。そして、細菌を記憶媒体(DNAメモリ)として利用する研究がされている話とか。人の体重換算で1/10はミトコンドリアだとか。ひょっとするとミトコンドリアに支配されて行動している可能性もあるとか」
「その辺りは知っている。ただし、ミトコンドリアは脳には侵食していない。ただ、脳の命令を聞かずして、身体が動く行動についてはミトコンドリアの可能性はあるかもな」
「脳の考えとは別に動く行動の原因はそうかもしれないでござるな」
「全く分からないし」
「姉さんに同意」
「この場所を包んでいるものを良く監察してみてほしい」
「鍾乳洞?いや水晶か」
「なるほど、そういうことでござるか」
「何?何なの?真三郎、一人で納得した顔をして」
「この空間自体は大きな記憶媒体装置ということでござるか」
「真さん、正解」
「またまた水晶ってパワーストーンやヒーリングの世界ではそうかもしれないけど、現実的には違うよね?」
「レオナは仕方ないか」
「仕方ないって何よ!」
「半導体チップの原料は純度の高いシリコンだ。そのシリコンの原料は水晶。時計に使われている心臓ともいえる部分も水晶。発信、伝達、記憶媒体にも利用されている。そして、時計に使われる理由は結晶が安定している為に周波数が安定するため。この時代のネット世界に欠かせない現実的なパワーストーンでもある」
「えっ、マジで!クォーツ時計ってもしかして」
「そうだ、水晶のことだ」
「水晶を置くと周波数が安定するっていうことは水晶の持つ力ってすごいってことじゃん」
「周波数が安定するということで部屋の中や自分の中の気の乱れも失くし、安定させる力もあるんじゃないかということでヒーリングの世界でも人気があるでござるな」
「ということはヒーリングの世界でも現実世界でも大活躍してるっていうのが真実なのか、知らなかった」
「姉さんに同意」
「ここは世界の中心、真実の目のど真ん中」
「それはそうと、ここに来たのは何の為」
「それをこれから話そうと思っている。凪家の秘密とともに」
「空、俺たちに話してもいいことかのか?」
「空、覚悟は出来てるでござるよ」
「私、聞いていいのかな、いいのかな?真三郎が覚悟しているなら私も覚悟してきく」
「姉さんに同意」
「サユリ、あんたさっきから同意、同意って他に言葉が出ないの」
「さっきから難しい話ばかりしてるから頭の中が混乱してて」
「ああ、なるほど、私の妹だわ」