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序章

この物語はフィクションです。実在する地名、国名、団体名、人名等は全て架空のものであり、実在の物とは一切関係御座いません。

 ちくしょう。ツイてねぇにも程がある。即席の土嚢のバリケードと、スコップで掘った塹壕なんて、いつの時代の戦争だ。野戦築城するなら、せめて重機持って来い、重機。


 食違虎口を応用して複雑に張り巡らせたバリケード。

 その、わざと作られた隙間から突っ込んで来たゲリラの一隊の側面に、鹵獲した密造ライフルをマガジン全部ぶち込む。

 振動が酷い。腕から肩に掛けての骨がずれそうな振動だ。マズルジャンプじゃない。突き上げるような感じだけじゃなく……多分、装弾機構とかその辺なんだと思うけど。ええい、銃火器を扱い慣れてないから、正直良く分かんねえ!

 ともかくも、引き金を引いても弾が出なくなるまでぶち込んで逃げる。

 戦果確認はしない。つーか、出来ない。すぐに後続と思われる敵からの銃弾が、土嚢の端っこで土煙を上げている。

 バク転するようにバリケードの後ろに下がり、更に中腰になって早足で後退を重ねる。

 耳が痛い。銃の発砲音で頭がくらくらしていた。粗悪品だからって理由だけじゃなく、銃器ってのは映画ほど静かに撃てないものだと嫌でも知らされた。そういえば、射撃訓練する時に耳にヘッドホンみたいのあてがうもんなぁ。ったく。


 次は、ロート状に絞った領事館正面最終陣地に敵を集めて……。

 足音と話し声を頼りに、潜んでいた土嚢の後ろから、火炎瓶を投げ込む。灯油じゃなくてガソリン入りだ。これで、炎と煙の壁が暫くは敵を塞いでくれるだろう。

 後は、予め掘っておいたトンネルで領事館内へ退避し……。

 ッチ。

 それから、どうなるかなぁ。ロクなことにはならねえよなぁ。

 俺は、前から散々退避しろっつってたし、アメリカの領事館にならもっとましな在外公館警備対策官が居る――きちんと武装した軍人がなってるって聞いた――から、間借りさせてもらおうって言い続けてたんだけどなぁ。

 あの、上に倣えのクソ大使が。


 トンネルを抜け、がらんとした一室に逃げ込み、ガラス片や鉄くず、釘、コンクリート片なんかを混ぜてたバケツをぶちまけて敵の進入路を封鎖する。

 その時――。

『聞こえるか?』

 と、やる気無さそうな女の声が無線から響いてきた。

「はい。こちら、小田切!」

『……ほう。ちゃんと生き残ってたのか。意外と優秀だな』

 うっせえよ、ブス。

 まあ、この状況でも冷静なのは褒めてやるけどな。医務官のくせに、度胸だけは良い女だ。

「大使は?」

『ああ、彼なら……金庫室にさっき引き篭もったそうだ。彼はバカか?』

「訊くまでもなくバカだ。アンタも含めて」

 退路が無え。増援が無え。物資も無えの、無い無いづくしで進退窮まってるんだからな。

『雇い主に対して口の利き方がなっていないな』

「優秀な雇い主は、部下からの忠告はきちんと受け取るもんだ! このヤロウ!」

 無線に叫びつつ、奥の階段を上がり……。

 昇りきる前に、衝撃に突き飛ばされるような形で床に伏せた。

 散々漫画で見たみたいな、ドカーン、なんて音じゃない。固いなにかで両耳を同時にぶっ叩かれた、圧力だけが頭に響く感覚。耳に残る、ギィンという高い音に脳の奥がくらくら、というか、若干、フワフワする。

 くそ、ロケット弾打ち込まれたな。

 何発持ってきてるかなぁ……。まさか、一発ってわけもねぇよなぁ。

『ぉぃ、聞こえているのか?』

「はいはい、まだ生きてますよぉ!」

 そのまま匍匐で前進し、崩れた壁の一角から正面の敵を確認する。

 最初に確認した、装甲兵員輸送車は健在だ。土塁と塹壕でこれ以上突っ込んで来れなくしてはいるが、それだけだ。あの重機関銃がある限り、この敷地から出た瞬間、元がなんだか分からない肉片になっちまう。っつーか、アレをなんとか出来る火器はここにはない。手元には、敵の偵察隊から奪った密造銃……あ! くそ、さっき撃った熱で銃身曲がってんじゃねぇか。あー。もう、使えねぇな、このポンコツライフル。

 残りは、ここに来る前に買ったリボルバー――既製品ではなく、ガンスミスによる一品物だ。とはいえ、特殊な機能の無いリボルバーなんてそんな複雑な機構ではないがな――と、鹵獲品の手榴弾が三つ。

 さっき撃った敵兵は、瀕死のが何人か居るみたいだが、正規軍じゃない連中なので後方へ輸送しようとしたりはしていないな。くそ。引けばいいのに。衛生兵は貴重品だからな、こんなところにはいねぇのか。

 ……なら、あの医務官はすぐには殺されなさそうだな。ずるいことこの上ねえってゆー。

 残敵は、二十ちょいってとこだな。武装は、密造ライフル、軽機関銃、型式とかよく分からないが、良く見る携帯対戦車擲弾発射器持ったのも二人居る。

 最低でも、後二発はさっきのが来るのかよ。ちくしょう。

『裏門の敵は始末した。正面に警備員を送る。お前は退避していろ』

「はぁ!?」

 裏門守ってたのって、現地雇いの警備員だよな。まあ、本来はそいつらを指揮するのが、この急ごしらえの領事館の……。雇われたばっかの、唯一の在外公館警備対策官の俺の仕事のはずで……。

 俺自身が戦うはずじゃなかったんだけどなぁ!

 あのブス! 勝手に指揮権取り上げあがって。


「いいのかよ、ほんとに隠れてるぞ、俺は」

 正直、既に給料分は働いた。間違いなく。だがしかし、穴倉に籠もって最後は引き摺り出されて、鉈で刻まれるとか、御免被りたい。まあ、銃弾で腹の中を掻き混ぜられるのも嫌だけどな。どうせ死ぬなら、頭に一発で――。

 いや、そもそも、こんなところで死にたくもねえ!

 思わず手元のリボルバーに視線が行きかけ、慌てて首を振る。

『邪魔だと言っている』

 だがしかし、初の戦闘の恐怖と戦う俺に向けられたのは、そんな台詞だった。

 労うが最低限の礼儀だろ、このブス!

「言うに事欠いて、邪魔ときたかこのヤロウ」

『私は女だ』

「うっせ。上から敵の位置を指示するぞ、下の連中が狙い撃てるなら無線で中継――」

『不要だ。見れる場所に居るならただ眺めてろ』

 土嚢の陰に隠れながら、敵との距離と縮めている味方が見えた。……武装は、調理場にあったであろう包丁に、鉈、スコップだ。うん。かき集めた刃物で武装した三名が、こっちの残存兵力だ。まあ、雇ったのも三人だって聞いてるし、損害ゼロなのは良いが……。

 裏門、いったい、なにが来たんだ?

 見物人斬りつけて終わった、とか、無しにしてくれよ。責任問題になる。

「おい! 下がらせろ、無謀過ぎる」

 しかし、無線からはもう声が聞こえてこなかった。

 ……あれ? この感じ、通信室の方で切られてねえか?

「くそ、あのブス」

 敵との距離は、直線で五十メートル、高低差五~六メートルってとこだ。拳銃で援護出来なくは無い。まあ、向こうのライフルも余裕で届くがな。

 味方が斬り掛かったら、適当に二~三発撃って、改めて建物内に集結させるしかねえな。


 さっき俺が前衛をなぎ倒した土嚢の影から、敵の第二陣を待ち構える警備員。

 よーい、いいぞ、待ち伏せはしてくれるんだから、当てにならない外交団の連中よりは、よっぽど頭を使っている。

 後は、タイミングを合わせて俺が撃ち込んだ隙に斬り込んでくれれば、あるいは……。

「なッ……」

 味方の姿が、急に視界から消えた。近付いて来ていた、敵の第二陣は――倒れてるだけじゃなさそうだ。血が赤茶けた地面に黒い滲みになって広がっている。っていうか、良く見れば腕とか足とか引きちぎられてるのもいるし。

 ……って、アイツ等どこだ?

 身を隠したまま、限られた視界で見回せば――。ガン、と、でかい音が響き、軽く床が揺れた。

 残りの歩兵は……見当たらない。死体を数えたわけじゃないが、多分敵は全滅している。そして、さっきのは、あの連中が装甲車を殴った音だったようで、側面の装甲がくの字型に変形し、一部が捲れ上がってる。

 重機関銃が旋回しようとしているが、車体が歪んだせいか、上手くあの連中を射程に納められていないらしい。そうこうしている内に、他の二人も装甲車の側に張り付き――。

 開口部から手榴弾でも投げ入れるのかと思いきや、三人がかりで装甲車を持ち上げ、裏返しあがった。


 マジかよ。

 装甲車の装甲って、二十ミリとかそんな分厚い鋼板で、ライフル程度じゃ歯が立たない。重さだって、普通の車みたいな一トンとかじゃなくて、二十~三十トンぐらいはするんだぞ?

 それを、側面装甲殴ってへこませて、機銃の動きが鈍ったところで持ち上げて横転させる?

 なにかが、どころじゃなくおかしい。

 技量云々じゃない。物理的に不可能なことが目の前で起きている。


 装甲車の後部ハッチをひっぺがして……まあ、陰になって見えなくて良かったな。多分、運転手と現場の指揮官を斬り……いや、多分、叩き殺している。

「えげつねぇなぁ」

 多分、パワードスーツみたいなの――介護用に、運動を補助する機器は実用化されてるって聞くし、その技術をスピンオフ……てか、応用したなにかを着せてるんだろう。あの女、理系なんだし。

 ったく、そういうのがあるなら、早く言っとけっての。


 ともかく、これで第一波はしのいだ。

 後は――。

「……ッチ! あのバカ!」

 ここを脱出する手段を考える間もなかった。医務官のあのブスが、大使館を出て土嚢をよじ登ろうとしてたから。

「出るな! 下がれ!」

 叫びながら、二階の壁の穴から飛び降りる。受身をとって地面を転がり、医務官の方へと全力で駆け出す。

「もう敵は始末した。あの三人を回収しないといけない」

 表情筋死んでんじゃねえかって顔で、ぶっきらぼうに言った医務官は、登りきった土嚢の上で現地や問の警備員の連中に向かって口を大きく――。

「始末してねえだろ。蹴散らしただけで、掃討されてるわけじゃねえ。まだ生きてるのもいる。立ち上がるんじゃねえ!」

 なにか指示を出す前に、医務官は煩いヤツだとでも言うようにこっちを向いた。


 抱きつき、土嚢の後ろへと押し倒そうとした瞬間――。背中を、誰かに突き飛ばされたような感覚があった。

 熱い、と、左半身が感じ。

 浮き上がった直後、風圧で一気に地面に突き倒された。

 ……なにも、聞こえない。手をついて立ち上がろうとしたが、臥せった身体が動いていなかった。顔も、動かせない。視線の先に、あの医務官の不機嫌そうに固まった顔が映り……。

 じわっと、黒い染みが視界を覆った。


 自爆ベスト着込んでたヤツがいたのか、手榴弾か、ロケット弾かは分からない。が、爆発だったのは間違いない。くそ、だから出るなって言ったんだ、俺は。

 伏せてれば、爆風からも破片からもある程度身を守れたってのに。


 まだ、頭は動く。考えられている。だから、死ぬはず、ねえよな。とか、必死で思おうとしているけど。

 冬に雨氷にさらされたように、腕や足が急速に冷えていくのを感じ――。

 息を、吸おうと、して、言葉は出なくて。


 全てが黒に塗りつぶされていった。

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