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EPISODE:09(3-3)

―9―


「カルマってば!」

 

 その甲高い声を引き金に、俺は明るい陽の光の下に帰ってきた。見ると耳元で、ロイが何やら小難しい形相で俺の方を睨んでいる。


「なんだよ」

「いや、なんか難しい顔してたからさ……大丈夫かなって?」

「お前に心配されたら俺もおしまいだっつーの」


 人差し指で奴を軽くはじいてやると、途端ロイは頬を大きく膨らませながら不満と抗議の言葉を投げつけてくる。ったく、うるせえ奴だ。人の心配なんざしてんじゃねえよ。


「カルマ、怖い夢見たの?」


 続けざまにサリナまで俺の顔を覗きこんできやがる。ガキ二人に心配されてみっともねえことこの上ない。


「見てねえよ」


 下から見上げたサリナの顔、拳が持ち上がりその首にかかりそうになるのを押さえるのがやっとだった。

 俺は一体何がしたいんだ?

 そんな感情を紛らわせようと、俺は横のサリナへと全く関係ない話題を振る。


「ところで、お前いくつだ?」

「8つ」


 返された答えに俺は内心意外だなと呟く。確かに、幼さは色濃く残る少女ではあるが、十は過ぎているように見えたんだが。

 この年でさば読む必要もないだろうしそれが、真実の年齢なのだろうが。こいつがエルフなのも考慮に入れて、100だ200だって言われる予想はしていたっていうのに、真逆の結果に俺はいまいち納得しないようす表情を隠すことも無くサリナを見た。


「カルマは?」

「忘れた」


 無邪気に聞かれて、自然俺の言葉は素っ気なくなる。


 忘れた。

 忘れてしまいたい。


 俺の人生の大半は、あいつのものだったのだから。


「ヤーイ、ボケじじい」

「ウルセエ!お前こそいくつなんだ、ああ?このクソがキがっ」


 小煩いロイの羽を昆虫を捕まえるように摘まんでやりながら、俺はコイツに問い返してやる。


「じゅう…に。12才だよ!!」


 なんだ?おかしな奴だ。どこか口ごもったかと思うと、次の瞬間には堂々と何の自慢にもならない事を胸をはりつつ口にした。

 それは、やはり見た目よりもどこか若い気がする。


「違う、ロイ11才」


 水も飲み、落ち着いたサリナがロイを指差し訂正の言葉を差し入れた。


「ロイの次の誕生日で12才」

「あっはは〜、オイラってばあわてんぼうさん」


 こりゃ、参ったという風に自身の手で額を叩きつつ笑ってロイが俺の手からするりとすり抜けた。

 こいつ、本物の馬鹿か?それとも、年を偽ってなんかいいことでもあるのっていうのか?まあ、所詮ガキはガキだし俺には関係のない事なんだが。


「まあ、いくつでも俺には関係ない事だけどな」

「なんだよ、それ〜。カルマが聞いてきたんじゃないか」

「てめえらと会話を交わしてやろうっていう俺様の優しさだ」

「どこがだよ?!」


 サリナの手から水筒をもぎ取ると、それに口をつけながら俺は何気なしにそう返答する。


「カルマやさしい」


 隣でにこにことそう言われ、言葉に詰まる。だから、なんなんだこのガキは。

 俺がいつお前に優しくしたんだっつーの。


「カルマやさしい、さびしい」


 何を言ってるんだ?寂しい?俺が?何に対して?

 翡翠色の瞳が俺を真っ直ぐに射抜く。敵意も憎しみも妬みも何もない、ただ真っ直ぐで純粋な瞳。


 その刹那、俺は怖いと思った。


 幾つもの戦場を過ぎ幾つもの、死も敵と対峙しても何も恐れるものなどなかったというのに。

 ひどく、この目が怖いと思った。

 油断した瞬間に己の全てを浚われていきそうなそんな感覚。


「ここ、さびしい」


 俺の半分もない手で、自分の胸の辺りをぎゅっと握り締めながらサリナは繰り返した。寂しいなんて言葉を俺は知らない。

 寂しい?何が?そして、俺もまたもう一度己に問いかける。


「それはお前だろ?ったく。とっとと、親の所にでもなんでも行って甘えてろ」


 口から出たのはいつもの軽口。

 だが、心の中で何かがひっかかる、すっきりしない。何故こんなガキの言葉に俺が振り回されなくちゃならねえんだ?


「サリナ、カルマが寂しいのは友達一人もいないからなんだぜ。きっと」

「カルマともだちいない?」


 くすくすと笑いながら、ロイがサリナにそう吹き込むとサリナは驚いた表情でこちらを見つめて尋ねてくる。


「おまえらな〜、勝手に結論だすんじゃねえよ!」

「いるの〜?友達ぃ?」


 殺す、マジで、この羽虫殺す。

 だいたい、なんなんだその人を馬鹿にしたような目は?!上から俺を見下ろすなんざなあ、100万年早いんだよっ。


「ねえ?どうなの?いなさそうだよな〜カルマって」

「てめえ、いい加減にっ」


 拳を握り締めて、俺は自分から大人気ないと分かっていても殺気が立ち上るのを感じていた。絶対泣かせてやる!

 そう決め、口を開いたが……その言葉の続きは他の物へと変わる。


「おい、今すぐ結界張れるか」


 全身に緊張が走る。

 こればかりは、忘れる事もない俺の習性。


 嫌というほどの殺気を、まだ近くはない位置にではあるがはっきりと感じる。全く、嫌なセンサーがついているもんだ俺も。

 近くに、奴らの気配を感じ取り俺は自身の殺気はもちろんの事気配を絶つ。風の音に耳を澄ませつつロイへと視線を送る。


「き、来てるの?敵が?」

「ああ、“遊びましょ”ってな。あちらさん遊びに来てくれたみたいだぜ。遊ぶ気がないならとっとと、結界張って“また今度”と洒落こもうや?」


 口調はふざけたものとなったが、今の俺には余裕も油断も出すことなどできはしない。忘れる事なんか誰が許すっていうんだ?

 俺が、居る場所はこういう場所だ。呑気な精霊族と戯れている場合じゃない、つまり生きるか死ぬかそこにしか俺の居場所などない。

 認識したくない、事実に口元が嫌でも持ちあがる。


 鬼ごっこは、そう簡単には終らない。


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