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EPISODE:07(3-1)


「疲れた〜っ、まだ次の町に着かないの?休憩しよう!カルマっ、きゅーけー!!!」


 俺の耳元でロイが四六時中文句をたれていやがる。

 握りつぶしてやりたい衝動を必死に抑えつつ俺は目だけで奴を睨みつけてやった。


「少し黙ってろ!煩せえぞ、小虫」

「小虫って何だよ!小虫って!」

「小虫じゃなけりゃ、羽虫だ。お前、その辺の人の群れに放り込むぞ」


 夜が明けて、東の森へと向かう事にした俺達は早朝に必要な類の物の買出しを済ませ町を後にした。

 いつ何処で襲われるとも分からない状況で、俺はあえて人通りの多いところでの奇襲を避けるか、はたまた何かあった際に何の気兼ねも無く暴れられるよう、人通りの少ない裏街道を行くか悩んだ結果、後者を選んだ。


 理由としては、三つ。


 一つは、このガキどもは他人に甘い。

 俺は誰がどうなろうが関係ないが、恐らくそうなった場合煩く騒ぎ立て面倒な事になるだろう。


 ニつめは、最初に述べた事にも付随するのだが……。

 こいつ等はこいつ等で追われているわけで。何かあった際に、サリナの素性がバレた時は二重にも三重にも厄介事が増える恐れがある。


 最後は、奴等に常識なんて通用するかどうか分からないって事だ。

 人通りがあろうが無かろうがそんなの関係無いって感覚の持ち主なら、何処に居たって関係ない。

 いくら人通りが少ないとはいっても、全く人が居ないわけではない。その人の為、昨日のようにサリナを抱えて走り抜ける訳にもいかず。

 まあ、昨日くらいの距離だったら俺も人気のない道走り抜けていけばいいんだがこれだけ距離があるとそういうわけにもいかんしな……結局、次の町までは歩きという結論になる。


「お前はさっきから、俺やサリナの肩に乗っかって休んでばっかいるじゃねーか」

「そんな事ないって、ちゃんと飛んでるし」

「どんな自慢だ、そりゃ」

「あんた歩くの早すぎるんだよ!サリナが可哀想じゃん!」

「リーチの差だろ、諦めろ」


 面倒くさげに、あっさりと言い放つ俺。

 それに対してロイはまだあーでもないこーでもないとごちゃごちゃ声を上げている。……ああ、煩せえ。本気で握りつぶしてやろうかこのチビ。

 確かにロイの言うとおり俺が少し早足で歩くと、サリナは後ろから小走りで追ってくる形になっていた。

 だが、俺はこいつらを守って東の森までは連れていってやるって言った。

 が、しかし。

 ガキの面倒までみると言った覚えはない筈だ。大体、もっと早く歩きてえのを、ある一定の間隔以上の距離が開かないようペースを守ってやっていることを感謝して貰いたいもんだ。一人なら、もっとちゃっちゃっと歩いているぞ。


「あのなあ」


 立ち止まり、目の前をパタパタと飛んでいる羽虫野郎に一言くらい言ってやろうと口を開く。


「なんだよ!!」


 一丁前に言い返してくるロイに、眉を吊り上げ罵詈雑言をかましてやろうとした瞬間。

 俺の右足に後方から、どんっと何やらぶつかる感触が伝わってきた。

 視線をそこへと向けると案の定、はあはあと息を切らせながらもニッコリとこちらを微笑みながら見上げてくるサリナがいた。

 頬は桃色に染まり、額にはうっすらと汗までかいてるじゃねえか。帽子にかぶられている様子のサリナ。

 人の気も知らねえで、ったく。


「いかないの?」


 ああ、なんなんだコイツは!

 痒い、全身がむず痒い。何だってコイツはこんな目で俺を見るんだ。何もかもを安心しきって任せているような態度に腹が立つ。


 俺はいつでもコイツを殺せる。


 理由も無く、ただ苛立ったという理由だけで。

 そんな事も知らないで、約束?契約?そんなものは俺がこの世で一番嫌いな言葉だ。


「カルマ?」


 俺の名を呼ぶな。


 未来永劫血に塗れた道を首輪を繋がれたまま歩いていけと名付けられた、その名を。

 サリナが俺の名を呼ぶたびに、俺の何処かで血が流れているようだ。塞がりかけていた傷口から脈々と暖かいモノが流れ出す感覚。


「休憩だ」


 俺は片手で顔を覆って、それでいいんだろう?と半ばヤケのような口調でそう叫んだ。

 ロイはにやっと口元に笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間にはもうサリナの肩へと飛び移り甲高い声をあげている。


「サーリナ、休憩だってさ。やったー!」


 こくんと頷いて、サリナは街道の横に広がっている草むらに腰を下ろす。そんな様子を見ながら、俺も近くまで歩みを進めた。

 そういや、エルフっていうのは体力が極端にないんじゃなかったっけか?文句の一つも言わないでついてくるから平気なのかと思ってたが。

 リュックから水筒を取り出して勢い良くそれを流し込んでいる様子を見ると、結構限界に近かったのかもしれない。


「サリナ、足痛くないか?」

「だいじょうぶ」


 ロイが心配げに尋ねるが、当のサリナはけろっとしていつものように返事をしている。エルフには、妬むとか憎むとかいった感情はないのだろうか?

 サリナを見ていると不意にその白い首筋を締め上げて恨み言の一つも吐かせてみたくなる。


 こうであって欲しいという清らかな存在。

 それを全てこの手でぶち壊してみたくなる。

 黒く黒く、染め上げて原型さえ留まらないほどに。


 薄汚い人間と同じ感情が、俺の中にも存在する。否定のしようもないほど、俺はやっぱり汚れているから。

 俺の視線に気がついたサリナが、腕を引いた。

 どうやら、俺も隣に座れという事らしい。

 付き合ってやるか、仕方ない。俺はその誘いを受けサリナの隣へと腰を下ろし、そのまま寝転んだ。

 俺は今、俺が不思議でたまらない

 なぜ、俺はこんなガキ達と一緒に旅をしてもいいと思ったのだろうか?昨日まで見上げていた空は、死をも覚悟していたというのに。


「空は、青いんだったな」


 自然漏れた呟き、いつからかそんな事さえ忘れていた。昨日担ぎ上げたサリナが上げた言葉をなぞる様にして俺は口にしていた。


 空は青い。


 俺の隣ではやはり柔らかそうな麦の穂にも似た髪が揺らめいている。

 今も状況は何一つ好転などしていないというのに、この心の余裕はなんなんだろうな。

 風が、草を凪いでいく。


 心地よさに瞳を閉じた。

 だが、瞼を下ろしたのは失敗だったようだ。自ら作り出した暗闇は見たくないものを運んでくる。しっかし、そんな時は不思議なもので一度作り出してしまった暗闇は中々自らの意思では振り払えない。

 隣にはサリナとロイがいるはずなのに、まるでこの世界に俺一人のようだ。

 音さえ俺を見捨てて去っていったかのような錯覚。


(カルマ)

 

 しゃがれた声ではなく、奴が若かった頃の声音で俺の名を呼ぶ。神経の全てが俺の脳内が作り出した主人の姿を思い出させた。


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