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EPISODE:05(2-2)

 「……なるほどな」


 誰に聞かせるという風でもなく俺は呟いていた。

 これは隠しておきたいと思うのが普通だろう。俺がロイの立場でも隠す。

 サリナのその流れるライトブラウンの髪からチョコンと飛び出している耳。それは、通常の人間のものでも精霊族のものでもない。


 エルフ。


 特徴的なとがった耳はエルフの証だ。

 そもそもエルフっていう奴を見たのは俺も初めてだが、翡翠の如く輝く緑色の瞳に、絶世の美貌そしてこのとがった耳。エルフの特徴として伝えられているものの全てにサリナはクリアしている。


 それは、つまり。


「バレてるよね、もう」


 ロイがどこか観念したような唸り声を漏らした後、そう言った。


「案外ベタな展開だな」


 寝台の上で足を組みながら、俺は何処か冷めた目をしていたように思う。


「そう、結構世の中にはベタな展開が溢れてるんだよ」

「ご都合主義で宜しいこった」

「なら、もっとご都合主義でいけばいいんだけど」


 小さな肩を竦めながらロイがそう口にしたのをきっかけに、俺達は淡々とした口調で会話を交し合った。

 ロイの性格からして、もっと騒ぎ立てるかと思ったのだが意外だな。

 否、意外というほど俺はこいつ等を知っているわけではない。

 何処か冷めた空気がそこには横たわっていた。


「分かってると思うけど、サリナはエルフだよ」

「なんだって、エルフがこんな所にいるんだ。大体奴等は山中なんかにいて滅多に他の種族に姿を現すことなんかないはずだろうが」


 それ故に、エルフは伝説の種族と言われるのだ。

 エルフ。

 精霊族の中でも温厚な気性として知られ、体力的な力こそ常人ほどないものの、魔力の高さ技術の精巧さは他の種族とは比べらないほどのそれこそ別格な力を持つと言われている。

 しかし、その一方で滅多に人や魔族には姿を見せずひっそりと山中、他の精霊や動物達と暮らしていると言い伝えられている種族。


「緊急事態なもんでね」

「親に会いに行くのが?」


 俺のその問いに考えあぐねた上で、決心したようにロイはその小せえ顔の中にあるでかい目をこちらへと向けて言う。ぎょろりとした目玉はサリナの翡翠色に対して深い紫色をしていた。


「この話を聞いたらあんた、オイラ達の旅に協力してくれるか?」

「話が飛びすぎて見えねえよ、なんだって?」


 不機嫌な俺の言葉に、ロイは冷静な様子で台詞を吐き出していく。


「あんたは、何者かに追われている。それは魔族だ」

「それがどうした」


 こいつが身に纏っている空気は先程のものとは全く違うのが分かる。

 明らかに何かを探っているような、勝負をするべき時に纏う空気。その真剣さに俺もまた、チビだからって油断がないように奴を軽く睨みつけながら問い返す。


「あんたは自分を追っている奴らを倒すだけの力を持っているにも関わらず、決して自分から敢えて攻めにまわろうとはしない。逃げ延びるのが目的なんだろ?」


 ロイはずばり俺の現状を言い当てながら、尚も言葉を続ける。


「ずばり言う。オイラ達が向かうのはエルフの隠し集落だ」


 その単語に、さすがの俺も返す言葉が咄嗟に出てこない。

 先も述べたように、エルフという存在自体がそもそも伝説に近いのだ。エルフの集落など、それを考えれば見つけることはあの世を見つけるのと同じくらい困難だと言えるだろう。


「そこにサリナを連れて行けば、あんたもエルフの集落に匿ってもらえるだろ?」


 つまり、その為に引き続き俺にこいつらの世話をしろってことだ。随分勿体ぶったもんだが、まあ悪い取引でもない。

 エルフの魔力は強力だ。そいつらに恩を売っておけばいざという時何かの役には立つだろう、それにロイがいれば結界もある。


 俺には時間が無い。

 だが、逆に言えば俺は時間が欲しい。

 時間が必要なのだ、数ヶ月でいい身を隠しておけるだけ時間が。


「どうだい?」


 ふん、チビが一丁前にこの俺と取引しようなんてな。


「やっぱ、口軽いわお前。ここまで聞いて俺がお前らを他の奴にうっぱらったりしたらどうするんだ?」


 世の中の全てが自分の思い通りに行くとは限らないのに?

 誰かを信用して生きていくことなんかできない。誰かを信用したって、いつかは裏切られるのだ。結局自分の事が人も魔族も皆大事なのだから。


「オイラもそう思うけど。サリナは、あんたの事気に入ってるみたいだし」


 言いながら、ロイは最後の台詞を小さくそう言った。そして、堂々とこちらに向かって啖呵を切る。


「まあ……いいんだよ、そんなことはどうでも」


 その台詞はまるで自分に言い聞かせるような響きだった。

 ロイの小さな体が一度ぶるりと奮えたのが分かる。覚悟を決めた紫紺の瞳はあまりに深くて何を考えているのか俺にも読み取れない。

 ただ一つ分かるのは、生半可な気持ちでこいつが言葉を紡いでいるんじゃないってことだ。


「今更どうこう言っても仕方ないだろ?今の状況でごまかしたってバレルものバレルんだ。これは、取引だ。それこそさっきの言葉じゃないけどイーブンな、ね。それでどうするんだい、カルマ?」


 聞くのか聞かないのか。

 乗るのか乗らないのか。


 俺は、ロイを摘み上げて自身の肩先へと乗せて頷く。こういうのは嫌いじゃない自然口の隅が持ち上がるのを俺は感じていた。


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