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EPISODE:04(2-1)

 二匹のガキどもは大丈夫だと安心しきってはいたが、それでも俺の体には長年の染み付いた用心深さが染み付いていた。ロイ達が望む町に入るのに一番距離も近く、人通りも少ない道を見つけると、全速力で森を走り抜ける。


 結局走ることになるんだな、そんな事がふと脳裏を掠めた。

 しかし、水と少しばかりの食料を口にしたせいなのか、ぶっ倒れた時の数倍の速度で移動することが出来た。

 奴らが追ってくる気配はなかったが、それでも速度を落とすことはない。

 俺の腕に荷物と一緒に抱えられたサリナは何を勘違いしているんだか知らないが、きゃっきゃっと声を立てて喜んでいる。

 そうかと思うとロイは俺の髪にしがみ付きながら始終「落ちる」だの「怖い」だの騒いでいやがって、煩いったらなかった。

 距離がもう少しあれば、俺も我慢の限界で振り落としてやったのに、運のいいヤツ。


 町の入り口に人気のないのを確認して、俺はサリナを降ろし自分の姿を変える。

 俺の今の姿は魔族といっても非常に人間に近いもので魔族を良く知らない人間が見ればばれることもないかもしれないが、魔族としての特徴的な金の瞳や人間の喉なら簡単に掻っ捌けるような鋭い爪など、ごく一般的に知られている魔族の身体的特徴は当然俺にもあるのだから、ヘタな騒ぎを起こすよりは無難だろう。

 また、身体的特徴とはまた違ったものどこと問われれば答えにくい、自然滲み出てくる魔族臭さというものを隠す為にも自らにある程度魔力封じもかけてやる。

 とは言っても姿を変えたところで、俺の美貌は衰えることはないけどな。瞳の色は金色から薄茶へと色素を落ちてはいるがこのつり上った切れ長の目、整った鼻筋。

 ま、正義の味方とは口が裂けても言えないが絶世の美形悪役顔といえば、俺のことだろう。

 いいだけ伸びた漆黒の髪は、腰のあたりにまでなってきていた。つい数時間前までは形振り構わず走っていたせいで、かなり酷い状態になっているのは否めない。


「カルマ、みて」

「んー」

「人いっぱい」

「はぐれんなよ」


 きょろきょろと町の中を見回しているサリナがあまりにチビっこく、どこかに消えてしまいそうで、思わず俺はその小さな腕を掴んで歩いていた。

 何処からどうみてもこれじゃあいたいけな少女と人攫いだ。ロイはというとサリナの懐に忍び込み時折文句だけは訴えてくるのだから、面倒で仕方が無い。


「ったく」


 その宿はあまり立派とはお世辞にもいい難い所だった。

 しかし、一階は酒場兼飯も出してくれるという結界の範囲があまり広くないため、行動範囲がある程度規制される俺達にとっては都合のいい宿だ。手続きと前金の支払いをサリナの代わりに金を受け取って済ませ、部屋へと入った。


「ふい〜、やっと着いたあ」


 部屋に入るなり、町の人々から身を隠していたロイがサリナのポケットから飛び出して来た。んーっと、大きく一つ背伸びなんかしてやがる。


「着いたのは分かったから、とっとと結界とやらを張れ」

「分かってるよ!もう、せっかちなんだから」


 俺の言葉を受け、ロイは窓枠へと静かに降り立った。

 その後、ロイは何やら俺には理解できない呪文を唱え始め、精神集中を始める。

 途端に、奴の身体が緑色に輝きそれがどんどんとロイの小さな身体から広がっていき、宿全体を包んでいく。窓から下を覗くがこの光に、他の奴らは気がついていないようだ。光はどんどんと拡張し宿を余すことなく包み込むと、それは一気に消えた。


「これで終了〜!」


 呆気ないほどの速さと、楽天的な声で締めくくられたこの儀式を見て、俺は不安を覚える。本当に大丈夫なんだろうな……こいつの結界って信用していいのかマジで。

 そんな疑惑の目を向けている俺に気がついたのか、ロイは不満げな表情で声をあげた。


「なんだよ!その疑いの目は、感じ悪いなあ。俺の結界は精霊界一なんだってば!!」

「へいへい」


 まあ、今更どうこう言っても始まらないからな、一応信じてやることにしよう。俺は決して上等でない寝台の上に腰掛けた。

 数ヶ月ぶりの柔らかな感触にどっと疲れが押し寄せてくる。


「サリナ?あーあ、寝ちゃってるよ」

 ロイの言葉で声のした方に目を向ける。静かだと思ったら、サリナは隣の寝台の淵に寄りかかりながら床に蹲り寝息を立てていた。


「ったく、荷物も背負いっぱなしじゃねえか」


 俺は親切にもリュックをサリナの背中から引っぺがし、帽子に手をかけようとした。


「ストップ〜!レディに気安く触るなよ」


 その時ロイが慌てた様子で、目の前に飛び込んできた。

「何がレディだ、ふざけんな。お前の結果とやらの範囲がもう少し広ければ部屋をもう一つ押さえられたんだよ」

「そ、それは、悪かったと思うけど。でも、宿代はオイラ達が払ってるんだから!これでイーブンだろ」

 

 コイツがサリナに異様に執着してみせるのは、出会った時には分かっていたことだ。だが、ここまで過剰に警戒するんなら一緒に行こうなんて誘うんじゃねえよ。

 まあ、ロイが大声張り上げて口にしている事がまっとうだとは俺も思うのだが。


「今更ここでお前等に危害加えようとは思わねえよ」

「……うん」

「まあ、いい。触るなってことは、そいつ床に転がしといていいんだな?」


 ロイの大きさじゃサリナを持ち上げて寝台に寝かしつけるのは難しい。もっとも、サリナを起こして寝台へと導くくらいなら出来るだろう。俺だって余計な世話を焼かずに済むものなら、このまま瞼を閉じて夢路へと出かけたい。

 

「あ、えーっと。寝台まで手伝ってくれないかなー?」


 えへへっと芝居がかった笑みを浮かべながらそう言ったロイを、俺は眼光鋭く睨みつけてやった。途端、びくんと奴の体が戦慄く。


 「都合がいいこったな」

 「だって、起こすの可哀想だし」

 「どけ」

 

 いちいち文句を言うのも疲れた。

 コイツは忘れているかもしれねえが、俺は今日一度死にかけてるんだぞ。死を覚悟して見たくも無い過去の回想とかを一度してきているんだから、素直に休ませて貰う。

 片手でロイをどけてやると、ひょいとサリナの体を持ち上げ寝台の上に乗せてやった。多少の衝撃はあったのだろうが、夢路を一人行くサリナに起きる気配は微塵も無い。


「ありがとう、カルマ」

「別に、どうでもいい。それより、帽子くらいとってやれよ」

「いや、いいよ。帽子はそのままで!うん」

「はあ。なんでだ?」

「何でも」


 別に、理由なんかどうでもいいし、さして気になるわけでもないが、気に食わない。睨みつけるようにこちらを見ているロイに俺はあっさりと告げた。


「わかった」


 俺は納得したように頷いて、帽子に向かっていた手を一度ひっこめようと思わせて、そのままぐいっと帽子ごと引っ張りそれを毟り取る。


「だっ、だめだってば!」


 ロイの声だけが虚しく響き、サリナの長い髪がサラリと落ちる。

 そして、そこには……。


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