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革命軍のリーダーに仕立て上げられそうなんだが

作者: 更紗

加筆修正 9/4

今の王は、「愚王」であると巷では言われている。汚職にまみれ、めざましい政策もできない愚か者と。


税金は重くなる一方。最近力をつけてきた隣国に攻められる日も近いと言われている。唯一の希望である次代の王である王太子はしかしぶくぶくと肥え太った男で、家庭教師が匙を投げるほど無能かつ不真面目な奴らしく、権力を笠にきて散々悪いことを重ねているらしい。当然この国を任せることができるような奴ではなく、国の将来も暗いというのが世論の判断である。


誰かがこの国を変えなければならない。


そう。誰か(・・)がである。麗しいお顔も能力も兼ね備えた近衛団長あたりが妥当である。少なくともこんなヘタレはお呼びじゃないはずなのだ。というかまずそんなこと達成できる能力はない。



そ れ な の に!!



「イスリール、君しかいないんだ」


輝く金髪をもつ、王太子よりもよっぽど王子らしい顔をした近衛団長が真剣な目でこちらを見つめる。


「副団長、貴方がそうするなら私も全力を尽くします」


王立学校を首席で卒業したという宰相が理知的な瞳を細めて柔らかく微笑んでいるが、どこかノーとは言わせない威圧感がある。


「リール!この国はあんたにかかってる!」


友人だと思っていた騎士団第一部隊隊長が俺の両手を握りながら必死に役割を押し付けてくる。


「副団長!」


騎士団の部下達が訴えかけるように俺を呼ぶ。




(お、俺にギロチン押し付けるなよおおおお!)








俺はイスリール!馬車馬のようにこき使ってくる騎士団長の下で影ながら働く副団長である。


元々インドア派であったにも関わらず、母の策略によって無理やり騎士団入りしたので、剣はあんまり上手ではないが、なんと花形の王国騎士団の副団長まで大出世した福男!主に騎士見習いの頃の同室者で現第一部隊(戦争における中心の部隊で完全実力主義の騎士団最強の部隊である)隊長の天才のごり押しの結果だ。

副団長にまでなると、書類仕事のほうが多くて安心して剣を握らない生活を送っていた。団長があまりに仕事をしないので尚更である。執務室で過ごしすぎて筋肉が落ちてきてしまったので、周りには過労による痩せであるとごまかしているレベルだ。部下達が命の危険も伴う現場に行ってくれるので、毎日俺は命の危険もなくお城で執務室と訓練場を行き来している。


きっと周りには現場に出ないヘタレだと思われているに違いない(というかその通り大正解である)が、友達は例の元同室の天才くんぐらいしかいないので、からかわれるわけでもない。

ただ一応騎士なので、出ざるをえなかった訓練で視線を浴びる。ぼそぼそ陰口をたたかれる。鈍った体で訓練をしてぶっ倒れると周りは憎しみを込めた目で見てくる。完全にそれは騎士とは名ばかりの野郎が上官にいることへの怒りだ。


ーーしかし俺は気にしない。なぜならその通りだからである。


部下の訓練の様子をみるとマジぱねぇと思う。剣筋がなんかもう俺とは別次元だ。天才くんにいたっては別次元どころか完全に剣筋が見えない。

それなのに、偶にいびりなのか俺に剣の稽古を見てもらおうとする奴もいる。俺になにができるというのだろう。そういう奴は大抵剣も超人級なので純粋な気持ちではないと判断して、適当な別の指南役を用意して凌いでいた。


そんなわけで俺は超ハッピーライフだったわけだが。





(おっとー!?唯一の友人からの裏切りをうけている!?)


革命軍のリーダーにされようとしているのだ。なんということだろう。旗頭にでもして全責任を押し付けるつもりだろうか。


友人への信頼がガラガラと崩れる音を聞きながら俺はぽつりと呟く。



「……俺には、務まらない」



反逆罪でギロチンで首スッパーンはごめんである。だいたい書類仕事しか能がないヘタレに何をさせようというのだろうか。


「そんなことないです!」


宰相が俺を言葉で丸め込んで、ギロチンへと誘う。


「貴方じゃなきゃ、この人数をまとめ上げることはできません!人望も、信頼も、能力も!貴方ほど備えている人なんていないんです!」


お世辞が過ぎて最早別人である。

それはもはやイスリールという人間ではない。


(そんなにも俺にギロチンさせたいのかこの男……!)


「リール!……っ、気持ちはわかるけど!団長は……もうっ、」


裏切り者の天才くんが拳を震わせながら訴える。友人にギロチンを押し付けるなんていう最低な奴だとは思っていなかったよ……。


天才くんの言う通り、うちの騎士団の団長は王に媚びへつらって、汚職に金に女に塗れた奴である。特になにかしてもらった記憶もないし、常々こちらを蔑んだ目で見てきてあまり好印象ではない。

しかし団長がいなくなればエスカレーター式に俺が団長になる可能性は高い。それはごめんだ。実は副団長よりも団長の方が士気昂揚や迅速な部隊指揮のためにも戦場に出る確率が高いのである。俺は死にたくない。とにかく危険な場所に行かなくて済むポジションを探っている。


「……どうしても、駄目だろうか?」


近衛団長の表情は切羽詰まっていて、正直その視線を浴びている俺は気が気じゃない。


「落ち着け」


そう言うと、周りはしん、と静まり返る。ーーそんなに突然静まり返られるとこっちもちょっとびっくりするのでやめてほしい。


さて皆さんお気づきのように俺はヘタレの故に上手くしゃべれない。そのため副団長の威厳を保つべく、なるべく話さないよう、端的に言うようにしている。

そんな付け焼き刃じゃ意味ないのか訓練ではいびられそうになるが、俺はやり続ける所存だ。


ただ固まった表情筋との相乗効果で威圧があるらしく、そのせいで、俺の通り名は「深海の貴公子」である。俺に合わない仰々しい通り名だ。とんだ失笑ものである。つけた奴は廊下で「深海の貴公子様だわ!」とクスクスされる気持ちを思い知れ。



で、それはおいておいて革命軍のリーダーについてである。


俺はぶっちゃけ今の国家体制に不安はあれど不満はなく、革命起こすほどじゃない。起こればいいなとは思うが、それは「何処かの誰か」で俺ではない。


世論における「何処かの誰か」筆頭候補のこの三人がいうように、俺は革命の原動力となれる器ではない。精々が責任とってギロチンに立つことぐらいしかできない。しかし死にたくない。辞退するしかない。しょうがない。しょうがないなあ。


「……俺はいい」


その言葉を発したとき、部屋が余りにも静まり返っていたので、思った以上に部屋に声が響いた。すこし気恥ずかしいがノーのときはちゃんとノーと言えと父から教わったので、はっきりと述べた。


「お前らも、協力してくれ」


俺がこのポジションを守れるように奔走してください、という思いをこめて言う。俺がどうしようとこいつらは革命をするんだろうから、もし革命がおきてもこのくらいのポジションでいさせてほしいという根回しである。


そんな汚い欲望にまみれた答えなのに、部屋が一瞬で湧いた。


「副団長!!一生ついていきます!」


「イスリール!信じてたよ!」


ん、んん?

俺より何倍も強そうな部下と近衛団長様がトチ狂った発言を仰った。なんだか勘違いなさっている。どうした?お耳が聞こえないのか?


「リール!お前だけに全ては背負わせない!」


「ふふ、やっぱり貴方には敵わないな」


どうした天才くんと宰相殿。だからおれはやらないぞお前ら。集団誤聴なの?


しかしこの盛り上がった雰囲気に水をさせるほど俺のハートは大きくない。一言いうことすら躊躇う熱狂である。


(……え、えー!これもう降板禁止ってかんじなの!?結局俺の返事はなかったことにされたわけ!?)


しかしここで「だからてめえら俺はやらねえっていってんだろ!」なんて言えるほど神経図太くないのである。


(……フッ、)


震える足を叱咤して、俺は叫んだ。


「革命、するぞ!絶対に!」


「おお!」


女っ気のまるでない、男の雄々しい返事に、涙が出そうになったことは秘密である。






この国の最大の転換点といえるのは、確実に「深海の貴公子」イスリールによる最大の革命である。


この革命では多くの王侯貴族を処罰し、かつ根本的な支配機構の革新も行われた。世界初の議会が行われたのもこの革命のおかげである。


この革命は殆どの王侯貴族が根本から腐っていたために、非常に困難だったにも関わらず、成功させたのは騎士団副団長という肩書きでしかないイスリールの人望によるものだと一説では囁かれている。

彼は上流貴族の出身でありながら、気取らずひたむきな努力を続ける者だったという。身分に拘らず完全実力主義の編成をしたのも有名である。嫉妬から騎士団長に押し付けられた仕事もしっかりとこなした後で、ふらつく体を鞭打ち訓練に出ていたという逸話は今でも語り継がれている。

また後の騎士団長である平民出身の剣の天才が国に残る決意をしたのはイスリールとの友人関係が大きかったと彼の日記に記されている。この天才と同じように平民出身の実力者が国外に流出しなかったのもイスリールの功績といえよう。


彼は革命を達成したあと、盟友である近衛団長に全ての名誉を譲って、雲隠れしてしまったという。

国の主導者となった近衛団長はイスリールの名が消えていくのを悔しく思い、書を記させた。それがこの革命に関する最大の歴史書である「イスリール伝記」である。絵本に書き直され今では多くの子供も読んでいる。


そんな英雄イスリールの最期は歴史学者たちの最大の謎である。眉唾物の話ではあるが、失踪後まもなく作られた王国の王との特徴が一致していることから彼ではないかともいわれているが、真実ははっきりとはしていない。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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