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三分の二の幸せ

作者: 星馴染
掲載日:2015/08/19

 冬、凍えるような寒さの中で一人の少女が公園に座っていた。

少女には名前が無い。公園のあれ、と呼ばれていた。

汚らしい物を見るように、人が通り過ぎていく。


少女には言葉が無い。小さな頃に捨てられ、保護もされずに街を歩く。

読み書きはおろか、喋る事すらできない。愚かなあれだと蔑まれる。


少女にはお金が無い。食べ物を探して、町のゴミ箱を漁る。

生きていくために、毎日食堂のゴミ箱を漁った。

食堂のおじさんに見つかると、強く殴られた。

顔も身体も殴られ、蹴られ、少女の身体は怪物のように醜く晴れ上がっていた。


強く殴られた時に、片方の目はかすんで、あまりはっきりと見えなくなった。


少女には売れる物がない。少女は汚れ、痩せぎすだった。

春を売った。買われたのは最初の一度だけだった。異国人だったように思う。

言葉がうまく喋れない少女は、身振り手振りで異国人に春を売った。

相場よりも相当安い金額だった。粗末なパンが三枚ほど買える程のお金だった。

少女の容姿も相場より相当安い物ではあったのだが。


異国人は少女の顔を布で隠して、事に及んだ。少女の初体験は終わった。

そのお金は使わずにポケットにしまった。どうしても使おうと思えなかった。


その日は少女の誕生日だった。

食堂のゴミ箱の中には食べられそうな物がいっぱい入っていた。

ありがとう神様、そう神様にお祈りを捧げて、ゴミ箱に張り付く。

シャツを脱ぎ、ゴミ箱から食べ物を取り出して、上にのせていく。


食堂のおじさんが、煙草を吸うために外に出て、少女と目があった。

おじさんは棒で少女を殴りつけた。

いつもよりも怒った顔で殴るおじさんが恐ろしくて、少女はそのまま逃げ出した。


数時間たって、食堂のゴミ箱に行くとシャツは消えていた。

凍える寒さの中、少女は裸で公園に居る。

数日熱にうなされ、すっと痛みが引いた後、腕が動かなくなっていた。


腕が動かなくなった翌日、少女は食堂のゴミ箱へと向かう。

先客が居た。一匹の汚れた痩せ猫が、食堂のゴミ箱を漁っていた。

喧嘩でやられたのだろうか、片方の前足を引きずっていた。

猫は少女を見て、口を開いて鳴くような真似をする。

威嚇しているのだろうか、と少女は考え、そっと帰った。


翌日、その翌日、その翌日。猫が先客だった。

ゴミ箱の物を、少しずつ爪ですくっては舐めている。

前足が片方使えないので、食べる速度はとてもゆっくりだった。

猫が威嚇するのにも構わず、少女はゴミ箱を漁る。


ゴミ箱で食べられそうな物を拾い上げて、三分の二を猫の方によせた。

先客だから。

猫はまず少女の方へ近づき、足を一舐めした後、嬉しそうに口を開いて鳴こうとする。

猫が鳴く事は無かった。


猫の背を撫でると、猫は側に置かれた物を食べる。

おじさんに見つからないうちに、少女はそっと帰る。


そんな猫との生活が何週間か続いた。


ある日、猫はいつものように少女を待っていた。

少女が猫に寄ろうとすると、食堂のおじさんが出てきた。

恐ろしくなって、少女はそこで立ち止まる。

口を開いて鳴こうとする猫に向けて、おじさんは煮えたお湯を引っ掛けた。


悲鳴をあげる事もなく、猫は無言で飛んで逃げた。


翌日、その翌日、その翌日。

猫は来なくなった。

今日の先客は私だから、と

少女は三分の一のゴミをゴミ箱の横に集めて置いた。


公園に帰る途中で、あの猫が街に倒れていた。

猫の胸はかすかに上下していた。猫のそばに蟻が行列を作っている。


少女に気づくと、猫は口を開いて鳴こうとする。鳴く事はやっぱりなかった。

少女は猫を公園に連れて帰り、一緒に眠った。


朝起きると、猫の胸がせわしなく動いていた。

少女はポケットに入っていたお金でミルクを買った。

先客だけど。

少女は猫にミルクの三分の二をあげる。

猫はぴちゃりぴちゃりとミルクを舐め、口を開いたがやっぱり鳴く事は無かった。


三分の二を舐め終わった後、猫は幸せそうな表情をして、動かなくなった。

動かなくなった猫をそっと撫でて、少女は土を掘る。


猫に再会した時は、

先客だけど。

そう言って三分の二の幸せに案内してくれるかな。

軽くなったポケットを叩き、三分の一のミルクを飲んだ後、少女は猫を土に埋めた。

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