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転/第九十四話:(タイトル未定)

「待たせたなっ! にぃちゃん! ねぇちゃん!」

 若干、息切れ気味の音声にお呼ばれした。

 意を向ける。

 そちらには、額の汗をぬぐうレンくんの姿と、中途半端に開かれた大きな鉄扉があった。

 開かれ具合的に、「よっこらせ」と身をかがめれば通れそうである。けれども、内部の様子は、いまの立ち位置からだと影になってしまってうかがえない。

「さあ、入ってくれ!」

 そう言うと、レンくんは当たり前のように鉄扉の向こう側へと行ってしまった。

 ただ突っ立ているのもアレなので、それに続くことにする。


 壱さんと横並びで身をかがめ、ほぼ同時に鉄扉をくぐり抜けた。

 鉄扉の縁にうっかりゴチンッとぶつけ、「むがぁー!」とやり場のない怒哀で暴れることがないよう、お隣さんの頭の上にふわっと勝手に添えていた手を戻してから、“大きな鉄扉の向こう側”であるところの“工房/工場”の内部へと意を向ける。

 外観は赤レンガ造りで整ったふうだったが、内観は金属と木材の骨組みが丸見えな無骨さある造りをしていた。

 左右にある壁の上部には、光を取り入れるためと思われる横長な窓があり。黄昏色の淡い光が射し込んでいる。くっきりハッキリとした明るさはないが、ちょろっと屋内を眺めるには、これで充分だろう。

 そんな淡い光に、まるで演出するがごとく照らされて。車輪のない蒸気機関車っぽい見てくれの、なんぞよくわからない大きな“装置/機械”が、圧迫感を放って正面にあった。

 なんというか、“物”的にも“雰囲気”的にも、ザ・“工房/工場”といったかんじで、

「わぁー」

 男子心がうずうずそわそわとときめく。

「おーい! どおおおくっ!」

 周りを軽く見回してから、レンくんが“工房/工場”に響き渡る大声を発した。

「“まーてぃー”かっ!」

 正面にある“装置/機械”の上方、奥のほうから、

「いいところに。ちょっと手伝ってくれ!」

 レンくんの大声に応じるがごとく、快活さあるしゃがれ声が降ってきた。なにぞ動く気配と、金属同士が当たったりする音やらも混じって感ぜられる。

「頼み事するなら、ちゃんとした名前で呼べよ!」

 レンくんは親しみと愛着ある恒例行事をおこなうヒトの表情をして、言葉を返した。

「マーティー! おーいっ! ……いないのか?」

「……はぁ。わかったよっ! ドク」

「おお、頼むぞ! 三番のバルブだっ! 左に回してくれっ! いっぱいになっ!」

「ああ、わかった!」

 レンくんは大きな声で応じてから、こちらへ向き直り、

「――そんなわけで、ごめん。にぃちゃん、ねぇちゃん」

 申し訳なさそうに顔の前で両の手を合わせ、言う。

「ちょっとお待ちください」

「大丈夫ですよ、レンちゃん。気にせず、ご友人を手伝ってくださいな。その間、私たちは“ふたりの将来”について熱ぅ~く語らいますから。ね、刀さん」

「えっ? ――あ、うん。気にしないでいいよ」

 壱さんと“話し合う内容/話題”については、わからないけれども。

「ありがと。じゃっ」

 レンくんは「あ、そこ、テキトウに座っていいぜ」と壁際を指差してから、正面にある“装置/機械”を器用によじ登り、しゃがれ声のしたほうへと向かった。

 男子心的には正直、作業風景を間近で見学ないしお触――お手伝いしたいところ。だが、まあ、“そっち系”の正しい知識を有するわけでもなし。お邪魔にしかならないだろうから、出すぎたことをするのは控えよう。

 なにより、まだ初対面も果たしていない相手だし。

 それにしても。マーティーというのは、レンくんの愛称なのだろうか。

 レンくんは、ご友人のことを“ドク”と呼んでいたし。

 しかも、その“ドク”さんは、こんな“装置/機械”を製作しちゃうおヒトときた。

 ふふ、まるで“バック・トゥ・ザ・フューチャー”みたいだ。

 数えるのを忘れるほど繰り返し観ても飽きない素晴らしき映画、三部作である。

 また観たいなぁと素朴に思うも、

「あ……」

 手元に“メディア”も“再生機器”もないことに、改めて気がついてしまった。

「…………」

 いままで特別でなかった“それ”が叶うのは、果たして“いつ”になるのだろう。

「刀さん?」

「え、あ、はい。座って、待つとしましょうか」

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