転/第九十二話:(タイトル未定)
導かれるまま川沿いを歩み行くと、さして時を経ずして、住宅とも商店とも勝負の場とも雰囲気の異なる建築物がポツポツと見えるようになってきた。
先を歩くレンくん、いわく。“この辺り”は、様々な職人の“工房/工場”が多くあるようで。そこらにポツポツ建ってあるのは、だいたい“それ”である、とのこと。
「これから会う“ダチ/友人”さんは、職人さんなの?」
便所の穴の底の道を歩いているときに確か、“ここ”を造った云々と言うていたし。
「うーん、どうなんだろう。自分じゃあ、歴史を揺るがす“とんでもないモノ”を発明、開発した、世紀の天才“かがくしゃ”兼偉大な発明家だ――って言い張ってるぜ。みんなは、手先の器用な変人って呼んでるけどね」
「へぇー。なんか、いかにも職人ってかんじがするね。そういう、“愉快な”自称と“親しみある”評判を聞くと」
「そーかなぁ?」
「個人的には、そう思うんだけどね。――まっ、それはそうとさ、その“とんでもないモノ”って、いったい“どういったモノ”なの?」
「さあ、わかんない」
「あら、そうなの? うーん……それはつまり、いま“モノ/現物”はないってこと?」
「うん。なんか、“ここ”には持って来られなかったんだってさ。“それ”の話は聞かせてくれたけど、なにを言ってるのか、さっぱりわからなかった。――あ、ちなみにいまは、“あいす・てぇー”を実現するんだって言って、“なんかでっかいの”を作ってるぜ。顔を合わせたらイヤでもべらっべら説明してくるから、もうちょっとでわかるよ」
「なるほど」
説明好きなのかぁ……。
これは、いよいよ、空が夜色に染まるまえに宿屋へ帰れるかわからなくなってきた。
けど、まあ、そのときはそのときか。うん。
それにしても――
実現する、と掲げておこなうほど、ご大層なモノだったかしら。
――“アイス・ティー”って。