転/第九十一話:(タイトル未定)
最後に壱さんの手を借りて金属製のハシゴを上り終えると、木造の部屋の中に出た。入り口が“アレ”なら出口も――と、警戒というか、ちょっと構えていたのだが、“ここ”は便所ではなかった。穴をおおうのは便器ではなく、鉄板の戸である。
「よっし」
レンくんは“ランプっぽいモノ”を壁にかけ、
「よっと」
スライド式の鉄板の戸を引っ張り、しっかりと閉めてから、
「じゃっ」
部屋の扉の前まで移動し、ノブに手をかけ、
「行こうぜっ!」
威勢よく“それ”を開け放ち、退室しながら、言った。
「……どこに?」
疑問を懐きつつ、壱さんの手を取り、レンくんの背を追って室外へ出る。
「おっと、意外と“下に”いたのね」
いつの間にやら、空は黄昏色を帯び始めていた。
上方から下方、周囲に意を向けてみる。
そこにあったのは、
「…………」
当然のように、“知らない風景”だった。
前方には流れの穏やかな川があり、周りにはなかなか背の高い雑草が群れてある。
背後にある“いま出てきた小屋”は、そんな雑草の群れに身を隠すがごとく、ひっそりとしたふうに建ってあった。
うーん。
それにしても。
どこだろう、“ここ/現在位置”は。
ま、教えてもらっても結局、“わからない/知らない”ことには変わりないんだけども。
果たして空が夜色に染まるまえに、宿屋へ帰れるだろうか。
「近くに、“ダチ/友人”の“住み家/棲み家”があるんだ」
こちらに背を向けたまま、お腰に手を当てて、レンくんが言うた。
「とりあえず“そこ”に寄らせてもらおう、って?」
「うんっ」
「――ですって、壱さん。どうします?」
「んー、刀さんがよいのでしたら、私もそれでかまいませんよ」
壱さんは気さくなふうに言うてくれてから、
「それに――」
相手の懐に斬り込むヒトの顔を一瞬、浮かべ、
「刀さんと私に、なにかお話したいことがあるのでしょう? レンちゃん?」
と、その“背/懐”があるほうへ言葉を投げた。
「おおうっ!」
レンくんは驚き困ったふうな笑みある横顔をしてから、こちらに向き直り、
「ねぇちゃん、いろいろ鋭いな!」
こいつぁ、一本取られたぜ! という清々しさある笑顔を浮かべてそう応じた。