転/第八十四話:(タイトル未定)
ハッと気づいたときには、
「な、なんだとうっ!」
左の手に“プタ”の盛られた丼を、右の手にはお箸を、持っていた。
キチさんは、いつの間にやら我が頭の上に鎮座していらっしゃる。
これは、どうしたことだろう。
食事をお誘いされたところまでは、はっきりと記憶にあるけれど。そこから、この状態になるまでの行動に憶えがない。
ま、まさか、“腹の虫/食欲/悪魔”に身体の支配権を奪われたのか……。
「どうしました?」
飴菓子屋の主人なおっさんが“プタ”を己が口に運びつつ、声をかけてきた。
「ふぇ? あ、いえ」
「あれですか、あんさんは“少しふやかしてから食べる”派でしたか」
「いや、ちょっと考え事を。ちなみに、好みは“ちょいと固め”です」
てへりと誤魔化すための笑みを浮かべつつ言って、
「ところで、“すぐに食べる”派ですか? それとも?」
と訊き返してみた。
壱さんから教えてもらった“プタ”を食すときの“お約束/お決まり”を、まさかこうして実践することになろうとは、思いも寄らなんだわ。
「あたしゃあ、せっかちな気質だもんで――」
飴菓子屋の主人なおっさんは一口、“プタ”を食してから、語り始めた。
「なるほど」
相づちを打ちつつ、こちらも“プタ”を食す。




