転/第八十一話:(タイトル未定)
「いやー、これで勝たせてもらえましたら、あんさんの相棒さんの飴細工菓子を作らせてもらいますよ! 記念にね! もちろん、お代はいただきませんよ! お気持ちですからね! あ、言うてませんでしたけれども、あたしゃあ飴菓子屋をやっておりましてね。美味い、キレイ、おもしろいとなかなかの評判なんですよ! 品質、味を、この身を持って、しっかりと確かめて作っておりますからね! ま、“それ”の、とりわけ味を丹念に――」
室内の大部分を占有する“ジオラマっぽいモノ”の側に移るも、状況はあまり――どころかまったく変わらず。
すぐ側では、いまさっき厄介なことを言ってきた、自称・飴菓子屋の主人なおっさんが忙しなく口を動かしていた。
まあ、数歩しか移動していないから、当たり前なのだけれども。
「そりゃあもう丹念に丹念に、確かめすぎましてねぇ」
それにしてもこのおっさん、
「気がついたら、あら仰天! 腹が太鼓なご覧のありさまなわけで――」
お喋りが大好きだなぁ……。
とりわけ、“自分に関するお話/自分語り”が。
この極短時間で我が耳に居候し始めたタコさんも、「うげげぇ」とうんざりしている。
もう、そういう“環境音/BGM”だと諦らめて聞き流そう。……うん。そうしよう。
気持ちを切り替えて、正面に設置されてあるモノへ意を向ける。
この室内にあって圧倒的な存在感を放つ、“ジオラマっぽいモノ”。砂地、砂利地、岩地、雑草的な草が植わってある部分、川や池がごとき水溜まり、丘や小山っぽい大小ある高低差に、落とし穴にしか思えない深さある“くぼみ”――と、“ここ”にミニチュアの家やらなにやらの人工物とか人形を配置したら、気分はぽつねんとたたずむ巨人だ。
まあ、“ここ/場/ジオラマっぽいモノ”に実際、足を下ろすのはオレではなく。首を伸ばして興味深げに“場”を眺めている、我が相棒さんであるが。
「いきなりダッシュかましたりとかしないでくださいよ、キチさん」
というお願いを聞き入れてくれた――からなのかどうかは、わからないけれども。キチさんは足を下ろした“その場”で、おとなしくしていてくれた。ただ、砂地が身にしっくりこないのか、ときおり“足/脚”や“しっぽ”がもぞっと動く。
「ちょいと失礼しますよっ、と」
都合がよいので、この隙に、先ほど渡された“赤色の布”を、その甲羅にくくり付けさせていただく。終わったらすぐにほどいて外せるよう、気持ち緩めのリボン結びで。