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転/第七十八話:(タイトル未定)

 勝負の場たる木造平屋の内部は、道に面した表の見てくれから想像していたよりも“建物としては”広かった。奥行きが、けっこうあったのだ。

 けれども、室内に身を置いて感じたのは、“狭い”というか“窮屈”というそれだった。

 部屋の大部分が、“ジオラマっぽいモノ”に専有されており。それに加えて、おそらくはこれから対戦相手になるであろうヒトたちが、“足の踏み場”がある出入り口付近で一喜一憂の感情を噛み締めながらお群れになっているからである。

 ほとんどのヒトが己が拳をこれでもかと強く握りしめ、身をかがめるがごとき深い前傾姿勢で気張り、熱狂ある血走ったお目々を“ジオラマっぽいモノ”へ注いでいた。

「おおうふ……」

 これは絶対、“お関わりになったらよろしくない系”の現場だわ。

 極めて場違いな空気感に気圧され、後退る。

 ――が、やや遅れて戸をくぐって現れた“壁がごとき巨漢”さんに、背後から肩をガシっとつかまれてしまった。言葉はなく、“無言の圧/お金、落としていけよ?”が、我が肩をつかむ掌の妙に熱い体温と共に伝わってくる。

 背筋に、イヤな汗がじわりと滲む。

「おや、お兄さん」

 我が心情とは相反する“愉快さ”混じりの、柔らかさある音声が、

「いらっしゃいな」

 右の真横――の、やや上のほうからふりかけられた。

 慎重さを忘れずに、意を向ける。

 我が目線と並ぶ“位置/高さ”という、妙に高い位置に“カウンター/勘定台”があり、音声の主はそこで頬杖をついて、気楽ふうな笑みを浮かべ、こちらを見下ろしていた。

 ただ、表情も目元も笑みの形状をしているのに、切れ長の眼の、その瞳の奥は一切、笑っておらず。質の良さそうな着物を着崩していたりする、そのだらしなくも気さくっぽい雰囲気とのギャップもあって、肝がゾゾッする怖さを覚えた。

「ど、どうもです」

 表情が引きつらないよう努めつつ、どうにか応じる。

「はい、どうもね」

  声質も見てくれも中性的で、“どちらなのか”正しく認識するのが困難な“カウンター/勘定台”のおヒトは、

「それで」

 ヒマしていたほうの手に筆を持つと、その柄の尻で総髪の頭をポリポリとかきながら、

「今日は、“どんなふうに遊んでゆく”おつもり?」

 当たり前のように“この場で遊んでいくことが前提”の言葉を、ポイと軽く投げてきた。

「えっ? へ、ええっと……“どんなふうに”、ですか?」

「ええ、そうよん」

 なんぞ、“どんなふうに”って――

「イデッ」

 どうゆうこっちゃ、と脳ミソが全力で空回りしようかというジャストなタイミングで、鋭さあるモノがぎうと容赦なく掌に喰い込んできた。

 なにかと見やれば、そこではカメのキチさんがぬぅと首を伸ばし、深い溜め息が聞こえてきそうな半眼をこちらに向けていた。

「――あっ、ああ、はい」

 なにを訊かれているのか、素で“理解/解釈/対応”できなかったが、キチさんにぎうとされてその姿を見やったらば、とっ散らかっていた点と点がぬるんと関連付けられた。

「えっと……」

 壱さんの“お言葉”を思い出し、それをなぞるようにして己が口を動かす。

「“自分のを使いたい”――のですが」

「ふうん?」

 と、“カウンター/勘定台”のおヒトは、こちらの手元へチラリと確認の視線をやり、

「じゃあ、“これ”を付けてね」

 とても薄い材質の細長い布を、「はい」と差し出してきた。

 布は赤色に染められてあり、どうやら“これ”で“個”を“判別/識別”するようだ。

「あ、あと」

 赤色の布を受け取りつつ、まだある“言わねばならぬこと”を口にする。

「最初は、“相棒にすべて賭けます”」

 壱さんから渡されたお金を、“カウンター/勘定台”のおヒトに差し出す。“カウンター/勘定台”が高い位置にあるので、意図せずして“お金”を掲げるような姿勢になってしまった。ともすれば、“お金/掛け金”を周囲に見せつけている、と受け取るヒトもあるかもしれない。

「ほう」

 おもしろがるようにニヤリと口の端を釣り上げ、“カウンター/勘定台”のおヒトは、

「だってさ、みなさん」

 こちらではなく、“勝負の場”のほうへ言葉を投げた。

 その投げられた言葉にふと釣られて、そちらへ意を向け――

「いっ……」

 調理場にネギを背負って現れたカモをどう料理するか、その献立を練るヒトの――ヒトたちの、食材の質を探るがごとき鋭利な視線が、こちらを捉えていた。

 ここからダッシュで逃げ出したい気持ち、ここに極まれり。

 ――だが、まだ“言わねばならぬこと”が残っているわけで。

 なので、献立を練るヒトたちの足元、その床をうがつ勢いで凝視しながら、

「勝負する度胸のあるヒトがい――おりましたら、どうでしょう」

 すかしっぺがごとき声量で、

「……その、一勝負ほど」

 と、どうにか口にした。

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