転/第七十一話:(タイトル未定)
洞窟内を移動している間はずっと、口を結んでいた。べつに虫の居所が悪くなったわけではなく、吐き気を堪えているわけでもない。
ただ、マイ・のどちんをいたぶらんと狙う厄介な存在が、身近どころか己が掌の上にいらっしゃりやがるので、うかつに口を開けない――開きたくないのだ。
なので終始、沈黙したまま、己が掌の上に視線をやって警戒していた。厄介な存在ことキチさんも終始、こちらに「むぅ」とした半眼をくれていたので、なんか“にらめっこ”をカメと真剣にしているようで……なんとも、微妙な気分になった。
「――ん?」
いままで“にらめっこ”状態だったキチさんが、ふいとこちらにケツ――というか、しっぽを向けてきた。なにやら進行方向の前方を気にするがごとく、首を伸ばしている。
急になんぞ、と釣られて前方へ意をやると、もうずぐそこに洞窟の終点が迫っていた。
数拍後、転じて視界が開け――
「おわぁ……」
いままで当たり前のようにあった“閉鎖感/圧迫感”も、急に希薄になる。
「すげぇ」
洞窟を抜け、口を開いて最初に出てきたのは、そんな驚きと感嘆を表す言葉だった。
理由はいまの我が言葉と似て、じつに単純明快。
開けた場所に出たのだ。
ただし、上を見やっても依然として空や雲はない。
全天候ドーム型の野球場より広いのではなかろうかという“閉じた空間”が、洞窟を抜け出た先で待ち構えていたのだ。
しかも、“閉じた空間”の中央付近には、四方を水に囲まれた島っぽい陸地があり、そこには木造の建築物が集落然として建ち並んである。そして“それら”が廃墟ではなく現在進行形でヒトの活動があるモノだと主張するかのように、島っぽい陸地は“賑やかさある灯り”で煌々としていた。
その“灯り”は、この“閉じた空間”において貴重な光源であり、同時にヒトの存在を予感させる貴重な安心の源となっていた。
そんな状況に置かれて――突入して、と述べたほうが正確だろうか? まま、そんな現状にあって、
「なんぞぉ、ここ」
不覚にも、わくわく感を懐いてしまっていた。
こう、なんと言うか、わけがわからない、脳内がとっ散らかることばかりで、いまもまたそうなのだけれども、そんな諸々を退けて余りあるほどに、ロマンを感じてしまったのだ。いまここにある“光景/情景”に。
だって、冒険モノの“創作物語/小説/マンガ/映画/アニメ/ゲーム”に登場しそうな――いや、登場するだろう、“秘密の”っぽい場所に、自分がいるんだよ? 学校の階段の下の微妙な空間や、公園にある公衆便所の裏と塀との隙間など――利用価値のなさそうな微妙な空間を発見しては、同志諸君とダンボールやら捨てられた材木やらその他諸々をもちいて工夫を施し、“それっぽい雰囲気”を感じれるようにしては、「これぞ我らが秘密基地なりっ!」とうそぶいた経験を有すオレである。本性の根幹に根ざす漢心というか男子心がくすぐられないわけがないじゃないっ!