転/第六十二話:(タイトル未定)
とくになにも起こらなかった平穏無事な昼食が終わり、食後のお茶を一口、「ほっ」と味わう。といっても、完全に食べ終わったのはオレだけ。壱さんは食後のデザートがごとく、追加注文した“揚げイモ”をパクパクもぐもぐしていらっしゃる。
壱さんは、“揚げイモ”をかなりお気に召したようで。ツミさんとバツと未来のオレと自分のために――と、持ち帰り用も注文していた。
「……壱さん」
ふと“訊くまでもないこと”をあえて訊きたくなり、声をかけた。
「もぐもぐ、ふぁい?」
なんぞ? という表情をして、壱さんはお耳をこちらに向けてくれる。
「“揚げイモ”、美味しいですか?」
「ふへっ? ふぇっふぇっふぇっ」
我が問いを耳にした壱さんは、そんなふうに満面の笑顔で肩を揺らした。そして、口内のモノを「もぐもく」して「ごくん」とのみ込んでから、
「愚問っ」
と、ニヤリ顔で、こちらにお箸で持った“揚げイモ”を突き出してきなさる。
「……これは、いただいても?」
うかがうと、壱さんは表情をそのままにコクリと首肯してくれた。
「では、いただきます」
突き出されてある“揚げイモ”を指先でつまんで受け取り、速やかに食す。
「どうです、刀さん。お味のほうは」
いただいたモノを「ごくり」とのみ込んだ次瞬、壱さんが訊いてきた。
「美味しいです」
油分と塩分が付いた己が指先を舐めてキレイにしながら、素直に答える。
「でしょう」
壱さんはこれでもかというエヘン顔を浮かべて、誇るような口調で言うた。
「ですねー」
訊いたのはこっちのほうだったはずなのになぁ――と思いつつ、同意を示しておく。
まあ、訊いたことの答えは、いまの“エヘン顔/態度”がすべてを物語っているだろう。
――とりあえず。
やたらと美味しそうに食べる壱さんのお姿をほっこり気分で鑑賞しながら、お茶を一口。