承/第五十一話:ムシムシ尽くし(其の三十八)
早朝特有のしっとりした匂いある空気を「すぅはぁ」しながら道なりにリアカーを引いて歩むこと……どれくらいだろう? 朝日はいつの間にかその全貌を現していたが、位置はまだ低く、地平線に近い。対する空に目を向けると果てのほうに微か、夜の名残をうかがうことができる。……んんー、つまるところ、時間的にはそんなに経過していないのかな? 体力的にはもう、なにもかも投げ出したい感じなのですがっ。
「あ、のぉー、そろそろー」
歩む足を止め、リフレッシュ深呼吸をするついでに、
「ちょいとー、ここらでー」
リアカーの荷台にぎうと身を寄せ合って腰掛け、きゃっきゃうふふぱくぱくもぐもぐと談笑をたしなんでいらっしゃる御三名様に、
「休憩させてくださいお願いします」
ウソ偽りなく心肺機能的な心から素直に、申請した。カッコつける余力も余裕も意地も、朝食を抜いた空きっ腹のごとくである。
「お、お疲れ様、トウお兄ちゃん」
リアカーの荷台から降り、トテトテとやや危なっかしい足どりでこちらの正面まで来て、
「はい、こ、これ、おお水」
と竹っぽい樹木の水筒を両手で包むように持って差し出し、労をねぎらってくれるバツ。
「ありがとう」
もうそれだけで精神衛生的な心は元気百倍、胸いっぱい――なのだが、いかんせんもうひとつの心はイッパイイッパイ。お腹はスッカスカ。冗談抜きで、身体にあまり力が入らない。あるいは出立のときに蒸しまんじゅうの美味しい匂いを味わってしまったから、切なさに似て余計にそうなのかもしれない。
つまり、腹が減ってはなんとやらなわけで。
「あのー、壱さん」
「はい?」
「蒸しまんじゅう、オレの分は……」
「刀さんの分は私の分、私の分は私の分。――なので、余すことなく、美味しくいただきましたよ。ごちそうさまでした」
「デスヨネー」
うん。ま、……うん。美味しかったのなら、なによりです。
未来製猫型青狸ロボットはどこかなっ。どこぞのジャイアニズム被害者のごとく、「わぁああん」って泣きつかせてほしいんですけれどっ。
「刀さんは、どうして、そうもあっさり事態を受け入れてしまうのですか」
なにが不満なのか、壱さんはむぅとした表情で言うてくる。
なしてオレ、叱責されているんだろう?
「いまの私のセリフは、どう聞いても真に受ける余地のない冗談でしょう」
「…………え? ……えっ! 冗談だったんですかっ?」
「当たり前です。刀さんは、私を節操のない食いしん坊だとでも思っていたのですか。まったく失礼ですね」
――そして。
壱さんから渡された蒸しまんじゅうは、甘いのとしょっぱいのが半分ずつの――ふたつでひとつ分だった。残りの半分ずつを美味しくいただいたであろう人物の歯形が、バッチリ刻まれている。
「…………」
こういう場面でこそ微苦笑とは浮かべるものなんだろうなぁと、しみじみ思いました、まる。