起/第五話:そこに居たのは、どちら様デェスカ?
「あ、そこ、そこイイぃ……あっあぁ気持ちいぃ」
「こ、ここですか?」
「そうです、そこですぅう、んっああっ」
「すみません。初めてなもので、イマイチ感覚がわからなくて……」
「あっんん、あぁ……、ふぁんっ。……だ、大丈夫ですよ。刀さん、お上手です。わ、私も、じつは初めてでぇえんっ――あぁんっ! ソコぉオおっ!」
「はぁ……まあ、気持ちイイならいいんですけどね」
なんというか、壱さんのテンションが間違った具合にシフトアップしているから、会話だけ聞いたら何をしているのか理解し難いが、とくに変なことはやっていない。
というか、オレは全然気持ちよくなく、ただ手が疲れるだけである。
「……はぁ」
なんかもうダルイので、オレがなにをどうしてやっているのか、現実逃避で再確認してみよう……
では、プチ回想スタート――
――壱さん、アナタ、真っ裸でなにしてるんっ!
いつの間にか、風呂へ入る準備を万端整えた壱さんが、そこにいらっしゃった。
「なにしてるんっ! て、お風呂に来てるんですから、お風呂入ろうとしてるに決まってるじゃないですか」
愚問です、と眉を寄せて言う壱さんであるが、
「だからって、なんでイキナリ真っ裸になってるんですかっ。オカシイでしょっ!」
ていうか、もう、お風呂に入りた過ぎて我慢できなかったとしてもね、せめて、せめて前を隠せっ。
「オカシイのは刀さんですよ。それとも、刀さんの国では、服を着たままお風呂に入るんですか?」
超が付くほどの不思議顔で、壱さんは小首を傾げる。
「いえ、脱ぎますけど……」
まあ、一概には言えないのかもしれないけどね。オレの知るかぎりでは、脱ぐ。
「じゃあ、オカシクないじゃないですか。それともアレですか、私の美しすぎる裸体を見て、“よくじょー”してしまいましたか? 元気イッパイになってしまいましたか?」
なんだよ、元気イッパイって……
「オレは予想外のことに激しく動揺してるだけです。欲情してないですし、元気イッパイにもなってません――だから、前を隠してください」
「そうですよね……」
と、うつむく壱さん。やっと前を隠す気になってくれましたか。
「……こんな傷だらけの身体じゃあ、キモチ悪いだけですよね」
ええっ、なんのお話ですかっ、唐突に。ていうか、なんでそんな急にテンションダウンなの?
「わかってるんですけどね……、自意識過剰でしたよね……」
自らの身体を抱くように、胸を持ち上げるように腕を交差させる壱さん。
「おっ! ふぉっ! じつはとってもタワワっ!」
じゃなくて――いや、目前の双丘がインパクトッ! なのは事実ですけど、そうではなくて。なんだ自意識過剰って? そんなインパクトッ! を持っているなら、べつに過剰じゃない気がするけれど。それに、傷だらけの身体って?
見たらイカン場所を手の平ガードで隠しつつ、壱さんの身体をちょいとうかがわせていただく。
なんというか、切り傷とかが深すぎると患部が完治しても傷部位がちょっと盛り上がって痕が残ってしまうことがある――そんな傷跡が、壱さんの身体中に大小無数に刻み込まれていた。
いきなり真っ裸の女性が目前に現れ、超動揺して、オレの観察能力が低下していたのか、その刻まれた傷跡は、その絹のようにきめ細かな肌の上では、結構目立っている。
どうしたらこんなに傷だらけになるのだろう。
というかオレは、壱さんになんと言葉をかければいいのだろうか……。
「んん〜、まあ、なにはともあれ――」
コロコロ色んな出来事呼び込んでくる感じで、一緒に居て飽きないから、
「――オレは、壱さんのこと好きですよ」
理解不能な自らの現状を忘却できるくらいに、グイグイ引っ張って行ってくれるし。
だから、とは言いませんけど、まあ、気にしなければ気にならないというか、なんというのか。
んん〜、言葉って難しいなぁ……。
「……ほ、ホントウですか?」
なぜ、顔をほんのり紅に染めているのでしょう。
というか、両手を股に挟んでモジモジするんじゃないっ。インパクトッ! な双丘が寄せて上げてになってるじゃまいかっ! なんだその破壊力はっ!
手の平でガードを作りつつ、
「オレがウソを言っても、なにを得するんですか。ウソ言うくらいなら、何も言わないことを選びますよ」
なんか、イマサラちょっと冷静になって思ってみると、このシュチュエーションって、絶対オカシイだろう。どんな人生経験よコレ。
「そ、うですか。そうですよね。ウソ言ってたら、奥の手ですからねっ。――じゃあ、刀さん」
じゃあ、て何よ。じゃあ、って。
「髪を洗ってもらえますか?」
どこから話をつなげてくると、オレが壱さんの髪の毛洗うことになるんだしょうね。
「べつにいいですけど、なぜに?」
「べつにいいなら訊かないでくださいよ――刀さん、私の髪がばさついてるって言ってたじゃないですか。ばさついた髪の女には興味が無いって」
なんでか、ビシッと指を突きつけてくる壱さんである。よくわからん。
それに、髪の毛がばさついているとは言ったような気がするけれど、後半は絶対に言ってないと思う。が、いちいち指摘するのも面倒なのでテキトウに流しておく。
「“洗い花”と“洗い草”は、服を入れておくカゴの下に置いてあるはずです」
「“洗い花”と“洗い草”……て、なんですか?」
「んん? 刀さんの国には無いのですか……?」
――説明を聴くに、ようはシャンプーとセッケンというところか。壱さんは名前を忘れたと言っているが、“洗い花”というのは水辺に咲く花らしく、それで髪を洗うとツルツルでサラサラになるらしい。“洗い草”は薬草を練り上げてドロドロのペースト状にしたモノのようで、傷の消毒とかにもそのまま使えるモノであるらしい。
壱さんが脱ぎ散らかした民族衣装っぽい服を回収してカゴに入れつつ、その下を見てみる。そこには、小瓶が二つ入った桶があった。
「これが、“洗い花”と“洗い草”か」
カルピスの原液に細かくバラバラにされた花っぽいヤツが浮かぶ小瓶と、青汁をものすごく濃くしたような液体の入った小瓶……んんー、カルピスっぽいヤツは、まだイイとして、この濃い青汁っぽいヤツは、どうなんだろう……。
というわけで、プチ回想エンド。
まあ、つまり、オレは壱さんの髪を洗わされているわけだ。
てか、よく考えたら女の人と混浴してるんだよなぁ……。なんか、ゲームとかマンガとかだと、嬉くも恥ずかしいイベントに突入したりする場面だけれど、まぁ現状そんなイベントが起こる気配は一切感じえない。というか、ひょっとして、いまがそのサービスシーン的なところなのだろうか? なんかもう色々あり過ぎて感覚がマヒしてしまったのか、自分の状況がよくわからないぜ、ちくしょー。
「……はぁ」
――ともあれ。
他人の髪を洗うなんて、そうそうあることではないので、洗いの感覚がイマイチわからないのだが、
「あ、そこ、そこイイぃ……あっあぁ気持ちいぃ」
もっすごい久しぶりに頭を洗うらしい壱さんは、気持ち良さそうに恍惚とした表情をしている。それはもう、テンションが変な方向へシフトアップしてしまうほどに。
オレも風邪をひいてしばらく風呂に入れず、治ってから久しぶりに風呂入って頭洗った時は、やたらとそれを気持ちよく感じたりしたことがあるので、なんとなぁく気持ちは理解できるし、喜んでもらえているようなので、嫌な気分ではない。
あれだね、こういう時、床屋さんとかだと、
「どこか、かゆいところはありますか?」
とか訊いてくる。まあ、答えたタメシはないけれど。
「全体的にっ」
自らの身体を“洗い草”で洗浄中なコチラのお方は答えてきた。
しかも、全体的って。
「はぁ……」
まあ、べつにいいですが。
それにしても、この“洗い花”。オレの知るシャンプーのように泡が立つわけでもなく、果たしてコレはちゃんと洗えているのだろうか。髪が指にからまって、メチャメチャ洗い難いし。
やはり、蓄積した汚れを落とすには、一回の洗いだけではダメなのかなぁ……。
「壱さん、一度流しますよ」
言ってから、オレはデカイ中華鍋のような湯船から桶で湯をすくおうとして、水面に映った自分とご対面――
「………………誰?」
――したハズなのに、そこに映っているオレはオレではなく。いや、オレはオレだけど、そこに映るオレはオレじゃなく……? なんだ、どうなってる。オレがオカシイのか?
ちょっと待てよ。
水面から視線を外し、深呼吸一つ。
改めて、水面を覗き込む。
そして再度、ご対面……
……
…………
………………
……………………
「……――――おっ、オウ」
どちら様デェスカ?
それに、いままで目先の超展開に目を奪われて気づかなかったが、よくよく見れば、服装までもが今朝着ていたものではない。
なんだコレは、どうなってる。
意味がわからん……いや、大型ダンプに追突されたハズなのに、たいして怪我をしていなかった理由はコレか? いや、なら本当のオレは今頃……いやいやまさか、そんなことは。ん、だとしたらこの身体の持ち主は? それがオレの身体に? なんだどうなってるんだ。わけわかんねぇぞ……。
ああ、シンプルな脳に過重負荷がかかるような出来事ばかりだな。
なんか頭痛くなってきた。
頭が痛い……。
あれか、あるいは頭を強く打って自分を認識できなくなってるとか?
じゃあ、服装が違うのは――目が覚める前に盗まれた、とか? じゃあなんで、いまの服を着ているんだって話になるか。盗んだヤツがわざわざ代えの服を着させてくれるとは思えないし。
あれか、物語ではよくある、心というか魂が入れ替わってしまうとか、そういうヤツか。いや、しかしアレは、双方の頭部を互いに強打するとか、一緒に高所から落ちるとか――いや、どちらにしろ、入れ替わってしまう者は同じ場に居るのが必須だろう。その必須をクリアしていたら入れ替わってしまったあと同じ場に居るはずだから、オレが現状一人で居るというあたりで、魂入れ替わりは違うか。
まさか、壱さんがこの身体の持ち主というわけはないだろうし。というか、それだとオレの身体が女性になってしまうから、まず壱さんがこの身体の持ち主である可能性は無いだろう。
じゃあ――
じゃあ、なんだ?
大型ダンプにぶっ飛ばされて気を失ったオレが見てる夢かコレは。
夢オチか。
でも、だとしたら何で別人になる必要がある?
というか、夢ってこんなに物事をハッキリ認識できるものなのか。
わからん。
わからない事だらけだ。
「刀さん、刀さんっ」
ああ、もう、わからない事だらけで処理能力低下してるのに――
「な・ん・で・す・かっ!」
「な、なんですかって、刀さんが一度流すって言うから、身構えてたんじゃないですか。それなのに――なんでそんな、怒ったような言い方するんですか……私なにか気に触ることしましたか?」
ああ、はぁ……。またオレはイライラを壱さんにぶつけてしまった……か。
「すみません。なんというか色々わけがわからない状況というか、頭が痛いというか混乱しているというのか……とりあえず、壱さんは悪くないです。ごめんなさい」
「……大丈夫ですか? 調子が悪いなら無理せずに休んだ方がいいですよ?」
理不尽なオレのイライラをぶつけられても、壱さんは気づかった風な優しい声色でそう言ってくれた。
なんでだろう、その優しさが、妙にしみる。
「大丈夫です、たぶん」
そう言いながら、オレは桶に汲んだお湯を壱さんの頭にぶっかけた。
「熱っ! どど、どういう仕打ちですかコレは! 熱くてハァハァしてる私を見て、自分もハァハァするつもりですかっ」
いや、それこそ何だよ。
「すみません。お湯が熱いか確かめませんでした」
頭部を押さえて身悶えしている壱さんは、
「謝らなくいいですから、水、水をっ」
切実な要求をしてきた。
が、
「水はどこに?」
要求に早急に応えたいのだが、肝心の水が見あたらない。
「ぬ、ぬるめる用の水が、その辺にタルか何かにはいってるはずですっ!」
ヒントを得て探索してみたら、デカイ中華鍋のような湯船の死角にぬるめる用の水はあった。
そこから水を桶で汲んで、
「水いきますよ」
壱さんの頭にぶっかける。
「冷たっ! いま、心臓がキュッてなりましたよっ! キュッて!」
今度はお湯を要求された。
で、またお湯をかけたら水を、水をかけたらお湯を、とそんな繰り返しがなされて、
「ぬるま湯にすればいいんだ」
という発想にたどり着くまでに少々の時間を喰った。
そして、熱いんだか寒いんだか感覚がバカになってきているっぽい壱さんは、どうでもいいやと言うように立ち上がり、
「もういいです。湯船に浸かりたいので、手を貸してもらえますか――」
抱っこをねだる子どものよに、手を差し出す。
これは、どういうふうにしろというのだ。
「――というより、入れてくれると嬉しいです」
思うに、壱さん一人で入れるだろう。絶対に。
とりあえずオレは、壱さんがスベッて転ばないように手を貸した。
よくわからないが、壱さんはそんなオレのやり方に少々不満らしく、
「そうだ。ついでに服を洗っておいて下さい」
とか、言いつけてきた。
オレが知る限り、お風呂屋さんのお風呂で洗濯するのはマナー違反だと思う。
「なにを言ってるんですか? 普通ですよ、身体を洗うついでに衣類を洗うのは」
どうやらココでは、許されるらしい。
桶にお湯を汲んで、そこで民族衣装っぽい壱さんの服を手洗いする。
ゴシゴシ洗いながらにして思う。
やっぱり、この状況って、オレがテンション上げるべき状況なんじゃなかろうかと。壱さん女で、オレ男で、一緒にお風呂なのだから――と思うのだが、なんというか、ここ数時間で非常に疲れたというのか、色んな意味でオレ、ボロボロな気がする。
まあ、いいや。
それは置いておいて――桶の水面に映りこむ自らの姿を改めて見る。
やっぱりコレはオレじゃあない。似てなくもない――というかとっても似ているが、自分で自身に違和感を覚えるこの感覚は、常なら感じえないモノだ。
現状が夢であるという可能性は否定できないが、しかしこのお湯を熱いと感じるし、頬や手の甲を思いっきりつねってみたら痛いかった――どの感覚も、とても鮮明に感じえる。夢でこんなにハッキリした感覚を味わえるものなのだろうか……。
夢だったとしたら、どうしたらオレは目覚められる。
というか、いまが夢で現実に肉体があるとしたら、大型ダンプに追突されたあとのオレは、いったいどうなってる……。このまま目覚めても、果たして大丈夫なのだろうか。
あるいはコレが夢でない可能性は……
「壱さん」
「なんですか?」
湯船の縁にアゴを乗せて気持ち良さそうにまどろんでいる壱さんは、そのままな体勢で応えてくれる。
「別の時代とか、別の世界とか、そういうココではないドコカから誰かがやってきた、とか、そういう話を聞いたことないですか?」
一番ありえなさそうで、いまオレが体験している現状的に、これは夢ではなく、実際にオレがどこか異なる場所に飛ばされたという可能性――これだとオレが自らの身体と似て非なる肉体を動かしている理由がわからないが、可能性としては否定できない。
「別の時代……、別の世界……。まあ、旅をしていると、その土地にある伝承とか物語を耳にすることが多いので、そういう話も聞いたことはありますけど。でも、どうしたんですか急に?」
「オレが、その“ココではないドコカからやって来た誰か”、あるいは“この世界はオレの夢かもしれない”と言ったら、どうします?」
「どうしますって言われても……私にどうしてほしいのですか刀さんは? というか、どうしたんですか? 本当に調子が悪いんですか? 寝言は寝て言えといいますよ?」
眉尻を下げて、怪訝そうに言う壱さん。
「でも、しいて言うならば――」
んむ、とアゴに指をあてて逡巡したあと、壱さんは言葉を無理矢理に出す。
「――いま、刀さんが居て、私が居るという、この瞬間が全てでいいじゃないですか。物事は総て、気にしなければ気になりませんよっ」
そんなあっけらかんと言われても、オレ的には死活問題な事柄だと思うんだけどなぁ……。
「そんなことより、出たいので手を貸してください。お話していたら、ちょっとのぼせてしまいました」
そんなことって……。いやまあ、壱さんにとっては、そんなことっちゃそんなことだけどさ……。
「はぁ……」
壱さんに手を貸し、もらったタオルと着替えの入ったカゴの前まで誘導し、もらいものタオルを手渡す。
ササッと身体をふいた壱さんは、
「んっ」
と両手を開いて何かをうながしている。が、全然オレは意図を察することができないので、
「なんですか」
素直にお尋ねする。
「服、着せてください」
アンタ、子どもかよっ。
「自分で着てくださいよ。なんでオレがそんな事しなくちゃいけないんですか」
なんというか、ちょっとイラッとした。
「だって、いつも着ているやつじゃないと、表裏とか前後ろがわからないんです……だから」
そんなしょぼくれなくても、いいじゃないですか。
「はぁ……」
なんかココに来てオレ、溜め息を吐きまくっている気がする。
ちゃちゃっと、安宿の厚意でゆずってもらった着替えを壱さんに着せ――てから、思った。オレは服の表裏とか前後を教えるだけでも、よかったんじゃなかろうかと。
着替えた壱さんは、
「んー、安い生地ですねぇ。なんかゴワゴワします」
安宿のご厚意を踏みにじるような、服のご感想をのべた。
そんな壱さんを見てふと思う、
「オレ、風呂入ってないなぁ」
と。
壱さんはすっかりサッパリしているけれども、オレは壱さんの髪を洗ったり服を洗ったりで、自分を洗えてない。
「入ってないなぁって、入ればいいじゃないですか」
ひとっ風呂あびて、ポッポッとほんのり紅色な肌を冷ますように、服をパタパタさせながら、こともなげに壱さんは言う。
誰のせいで、風呂は入れてないとお思いか。
ともあれ、風呂には入りたいから、入るとしよう。だから、
「壱さん、出て行ってもらえますか」
「なんでですか?」
本当に、「どうして?」という風に小首を傾げるもんだから、困ったものだ。
「お風呂にはいるために、服を脱ぐからです」
「脱げばいいじゃないですか」
なにをそんな事。とでも言いたげな表情の壱さん。
んー、オレは人前で速やかに真っ裸になれるアナタほど、恥じらいを捨てきれないのですよ。
「恥ずかしがらなくても、私は見えませんから、大丈夫ですよ」
見る、見ないの問題じゃあないんですがね。
でもまあ、もうどうでもいいか……。
ココに来て、オレが得たモノがあるとすれば、即決で諦める潔い思考だろうね。
というわけで、脱衣開始。
脱衣時の衣擦れ音を聴き取ったらしい壱さんが、不意にボソリと一言――
「見えていないとはいえ、乙女の前で本当に服を脱いで生まれたままの姿になるとは、刀さん……そっち系の変態さんですか?」
怒りたいような、もう本当にどうでもいいような。なんだろうね、この複雑な心境は。
でもね、
でもさ、
でも、本当に一つだけ思うのは――
――恥じらいもなく、即行で真っ裸になったアナタはなんなのよっ!
まあ、そんな事を思いつつ風呂に入った。
そして、一つ経験値を上昇させた。
風呂は心の洗濯とか言うが、洗濯中ずっと異性の存在を意識し続けてのソレは、心地好いものではない。
そんな超が付くほどにどうでもいい経験値を。




